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戦士たちよ②

「うーん……」


 と、首をひねったのはワライダだ。


「そういう事、良く分かんないなぁ」

「無理もないさ」


 タルセームが、少年の肩を叩いた。

 タルセームは端正な顔立ちの男だったが、顔の左半分に大きな火傷を負っていた。眼を逸らしたくなるくらいの、紫色に引き攣れた火傷の痕だったが、カルナはどのような色もその眼に浮かべなかった。


「この町には、王も奴隷もいないからな。敢えて言うなら、みんなが王で、みんなが奴隷さ」

「そこに今日からは、騎士も入るって訳だ!」


 タルセームに続いたのはジャスクだ。ジャスクの顔には、子供のような無邪気な笑みが浮かんでいる。カルナの下にやって来た時も、


「よぅ! 俺はジャスク! よろしくなセンセ!」


 と、気軽に握手を求められた。


「俺とこのジャスク、それとバンナゥは、子供の頃に戦争で家を失くしてな。暫く傭兵のような事をやっていたが、戦場で死にはぐって、命からがらアムンに逃げ込んだという訳だ」


 タルセームはジャスクと、黙りこくっていた短髪の男バンナゥの肩を左右に抱いて、言った。


「この町で生まれた人間より、多少はそういう階級制度ってものを知っているつもりだ。……しかしそれにしても、人の中の王という発想はなかったな……」

「それだけこの町が平和で、皆さんの優しさに溢れているという事ですよ。誰もが王であれば、誰をも奴隷にする事はない筈ですから」

「じゃあ若しかしてカルナさんも、そういう、奴隷のような階級出身なの?」


 パーカロールが訊いた。

 小柄な彼女は、ぴょんぴょんとカルナの周りを跳ね回った。小動物的な愛らしさを備えている。


「……似たようなものさ」


 カルナは苦笑いを浮かべて答えた。


「奴隷か……そう言えば聞いた事があるな。何処かの国では、そういう王さまのような偉い連中を楽しませる為に、奴隷に格闘技を教えて、奴隷同士で戦わせているっていう話を」

「ひょっとすると君も……?」


 髪の色が赤い男がライヤで、眼が細い刈り上げの男がエイヴァンだった。


「酷い所では、ライオンやゾウのような凶暴な動物と、素手で戦わせられるという話も聞いた事がある」


 一際背の高い男が、眉を寄せて言った。フィーアだ。


「ウシともやるって話じゃない、それ。しかも私らが知ってるようなのじゃなくて、角がこぉんなにせり出してて危ない奴!」


 こめかみの辺りにやった両手を、外から内側に弧を描かせて前に進める動作をして言ったのが、ファイヴァルだ。病弱な夫と真逆で、恰幅の良い女性だった。


 一四人の視線が、一斉にカルナに集まった。

 カルナはこめかみの辺りを指で掻きながら、囁くような声で言った。


「やった事はありませんが……やれば、敗けない自信はあります。ただ、俺の拳は命を奪う所を誰かに見せて楽しませるものではないと、そういう気持ちもありますが」


 おぅ……


 と、感歎の息が、一四人の口から漏れた。

 それが実際にどうであるかは兎も角、実行出来てしまいそうな空気を、カルナが纏っていたからだ。


「じゃあ、俺も……あんたに教えて貰えば、それだけ強くなれるのか?」


 ワライダが眼を輝かせて、カルナに迫った。


 野生動物は人間にとって、食糧であると共に魔族に次ぐ脅威であった。武器を用い、集団で狩り立てて、漸く捕らえる事が出来るものだ。


 たった一人では、武器を持っていても野生動物には敵わないと知っている。

 だからこそ、その動物を身一つ打ち倒す事が、見世物として成立する場合がある。

 その見世物に成功すれば、誰もが、その人物の強さを知る事が出来るのだ。


「出来るようにはなるかもしれない。……でも、野生動物を殺す事が、君の目的ではないだろう?」

「え……」


 カルナはワライダの前に跪き、彼が興奮して握り締めた拳に、柔らかく両手を被せた。


「君が俺に教わりたいのは、この町の人を守る事が出来る拳――その拳は、ライオンやゾウやウシを殺す事が出来るようになるかもしれないけれど、それが君の目的ではない。それだけの強さを得て、町の人たちを守る事だ。ワライダ、そこを間違えてはいけないよ。君は何かを傷付けて自分の力を誇示する為ではなく、大切な何かを守る為に、強くなるんだ」

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