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不戦の契り③

 カルナは食堂から出ると、早速町の人々を集めさせた。


 アムンには明確な統治者のようなものはなかったが、最年長という事で、何らかの決議の際にはダイパンがそのまとめ役を買って出る事になっていた。

 イリスが町の誰もに知られ、愛されているのは、そのような理由もあるのだろう。


 中央の広場に、一二〇〇から一五〇〇の大人たちが集まった。

 男女比は半々。


 ここから、仮にドンシーラの盗賊団と事を構えると考えた時に、主戦力となりそうなのを選ぶとすれば、更に半分以下の数になる。


 しかしこれは、カルナが若い男の働き盛りの肉体だけを見て思った事であり、実際に争い事になった時に、それに従ってくれるという訳ではない。


 広場に集まった人々は、不意の招集を訝りつつ、自分たちを呼び寄せたダイパンの言葉を待った。

 広場の中央に壇が組まれて、そこにダイパンが杖を突き、イリスに支えられながら上ってゆく。


「みなの者、聞いて欲しい事がある……」


 ダイパンは静かに語り出した。


「今日、この町で起こった事を知っている者はあるか?」


 集まった人々がざわつき始めた。ダイパンが荒くれ者に絡まれ、イリスまで迫られたという事だ。そして、その荒くれ者を、旅の男が追い返したという話も、町の中を駆け巡っていた。


「あの男は、近頃、マクール高原に陣取っては旅行者や商人を襲っている、ドンシーラの一味である可能性が高い。みなも、時折、ドンシーラの手の者と思われる人間が、旅人を装って町の様子を偵察してゆくのを見た事があるかと思う。左様、彼奴らが矛先を、旅人たちからこのアムンに向けて、その凶暴な爪を研いでいるやもしれぬのだ……」


 それは、誰もが多少なりと感じていた事であった。だが、二〇〇年の平和が続いたアムンが、自然と人の記憶からこぼれ落ちて衰退してゆく事は納得出来ても、悪意ある何者かの侵略を受ける事などは考えたくなかった。


「今まで、この長く続いた平和を壊すのが恐ろしく、儂は決断に踏み切れなんだ。しかし、今回の事で儂は思った。儂らがどれだけ中立を、平和を説いても、彼奴らのような野蛮な盗賊集団には通用しない。寧ろ悪意ある者たちは、戦う事を拒む我々を、征服する事の容易い獲物としか見ない事であろう」


 ジルダの言い掛かりに対して、ダイパンが争いを避けようと謝罪の言葉を口にしても、ジルダは敵意を納めなかった。この事実に直面しているというのも、ダイパンの言葉に説得力を持たせた。


「遅かれ早かれ、奴らは我々の許に、平和の町アムンにやって来る。そして、様々な国との交流の中で得られた文化を破壊し、資源を奪い、男たちは殺され、女たちは奴隷として囚われてしまうだろう……」


「どうしたんです、ダイパン!」

「何で急にそんな事を!?」


 町の者たちから、戸惑いの声が上がった。ダイパンがそうした事を口にするのは初めてであった。


「最早、この町は、あらゆる国から見捨てられたも同然じゃ。例え盗賊に襲われようと、誰も守ってくれはしない。……しかし儂は、このまま、みなの平和が理不尽に奪われてしまうのは我慢ならぬ。例え二〇〇年の平和を、その誓いを破るとしても、我々は立ち向かわなければならない」


「立ち向かう?」

「戦うって事ですか!?」

「襲って来る盗賊団と?」

「無茶だ! 奴らはクライス公国の騎士たちさえ相手にならないんだぞ」


 平和の名の下に暮らして来た者たちは、ダイパンの宣言に反発を覚えていた。


 彼らの親やその上の世代の者たちの中には、争いを避けてアムンに逃げ込んだ者もある。そうした者たちの教育によって、戦いという事そのものを忌むべきであると認識している人も少なくなかった。


「無論、儂も争いなどはしたくない。だが、誰かを殺し、誰かから奪い、誰かを犯す盗賊たちに、我らの平和の誓いを説く事は不可能なのだ。奴らの獣染みた暴力には、我らも勇気を以て敢然と立ち向かわねばならない。殺す為の、奪う為の戦いではなく、守る為の戦いをしなくてはならないのだ」


 ダイパンはそのように言った。

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