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カルナ対ジルダ②

 鮮やかな手並みであった。


 カルナの交差した両手が、ジルダの左腕を抑え込んでいる。

 そのジルダは、両膝を地面に着いて、左腕を後ろにやって拳を上空に付き上げている形だった。

 頭から落下するのを防ぐのに、右手で石畳を押さえている。


 並の人間であれば、最初のパンチで顔の骨を砕かれていたであろう。多少心得があれば、ジルダの拳を回避する事は可能であろう。右腕と左足の、対角線上の連撃には反応が遅れても、防御したり逃走したりする暇も見付けられなくはない。


 しかし、バック宙をしながら前方に移動し、振り向きざまに後頭部に迫ったパンチをガードして、しかも体格で勝る相手を組み伏せるという事は、訓練を積んだ兵士でも難しいだろう。


 カルナが秘めたポテンシャルの高さは、そのしなやかな筋肉を見れば分かる。とは言え、問答無用の暴力者であるジルダの前では、とても発揮されないものと思われた。


 そんな想像を、易々と覆してしまったのだ。


「この町は平和の町と呼ばれているそうだ。あんたのような乱暴者は、必要ない」


 カルナはジルダの腕を解放すると、言い放った。


 ジルダは立ち上がり、しかりカルナの警告には却って怒りを燃やすと、獣の咆哮を上げて躍り掛かった。


 パンチや蹴りを無茶苦茶に繰り出して、カルナの肉体を破壊してやろうとする。


 そのどれもが、屈強な男であっても耐え難い威力を持っているのは、攻撃に際して発される風鳴りの大きさから分かる。


 しかしカルナは、ジルダのパンチを、手首を打つ事で反らし、拳を包む事で反らし、蹴りを交わし、膝が伸び切る前に押さえ、流麗な手捌きと華麗なステップで、踊るように無力化していた。


 カルナの手が、足が、虚空に光の尾を引き、風の衣のように纏わり付く。その風はジルダのパンチのように暴力的ではなかったが、触れれば皮膚が断ち切られるといった類のものであった。


 実際、攻撃をガードされているジルダの腕や脚の皮膚が、ぱくっ、しぱっ――と、音を立てて裂けている。


「野郎!」


 ジルダが渾身の蹴りを放った。

 膝を持ち上げながら距離を詰めて、折り畳んだ脚を引き延ばす勢いで相手を蹴り飛ばす技だ。

 胴体に直撃すれば、内臓が破裂し、胃液と血を口からばら撒いて悶絶する。


 カルナはこの蹴り足が威力を発揮する寸前、ジルダから逃げる所か、逆に間合いを詰めた。


 蹴りを躱しながら懐に飛び込んだカルナは、すれ違いざまに跳躍し、右の足刀でジルダの右腿を強く蹴り付けていた。


「ぐわっ」


 ジルダが低く呻き、その場に倒れ込む。

 ふわりと着地したカルナは、汗一つ掻いていないし、呼吸も乱していなかった。


「き、き、き、貴様……うぐっ!」


 ジルダは立ち上がろうとするが、右足をスリップさせて再び倒れ込んでしまう。


 素人には激痛が走る威力だったが、ジルダ程の筋肉があれば大した事はない蹴りだった。それなのにジルダは、まるで大きな棍棒を太腿に叩き付けられたように、その部分から下半身全体に痺れが広がっているように感じていた。


 カルナがゆったりと、振り向いた。

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