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逆転の一撃

 カルナの身体と同化した鎧は、ドンシーラが付き付けた槍の穂先を、すぐには貫通させなかった。だが、連続して叩き付けられたり、抉るようにしてめり込ませられたりすると、流石に皮膚上の鎧にも亀裂が走り、穂先を肉に潜り込まされてしまう。


 左腕を呑み込まれたカルナの脇腹から、赤い液体が吹きこぼれ始めた。


 カルナは右の拳で、ドンシーラの胴体を突き上げた。だが、鱗が拳を滑らせて、筋肉の内側まで打撃の威力を浸透させなかった。


 ドンシーラは大きく開いた顎にカルナの腕を呑み込んでいるから、声を発する事は出来ない。しかしその眼が、自分の勝利を確信して笑っている。このまま穂先を奥まで突き入れれば、さしものカルナでもただでは済むまい。


 左腕を噛み千切り、腰を突き刺したら、地面にしたたかに打ち付ける。そうして、手を落とし、足を斬り、腕を抜いて、胴体をばらし、最後に頸を断つ。


 ドンシーラの頭の中では、カルナの殺害プランが、彼を肉塊に変えるまでの明確なイメージと共に作り上げられていた。


 カルナは脱出を図るべく、右手で何度も下突きを喰らわせるのだが、ドンシーラに通じた様子はない。早く抜け出さなければならなかった。


 黄金の鎧は、カルナが憎しみに包まれたあの日から、肉体に同化して皮膚の上に装甲する機能と、傷を修復する能力はあっても、本来の傷付く事のない肉体を作り上げる力は失われていた。カルナは決して不死身ではなく、首を落とされるような事があれば、間違いなく絶命する。


 黒い魔装を取り戻し、国を滅ぼした憎き仇を捕らえるまで、自分は決して死んではならない。


 漸く、セヴンズ・トランペットの一つを発見したのだ。ここで命を落とす事など、出来なかった。


 だが、“羨望の斧鑓”の穂先は、最早根元まで腰に埋まり、斧の先端まで潜り込もうとしている。既に腹の内側から、穂先が突き出していた。腰からの出血はカルナの、宙に浮かんだ足の先まで流れ落ちている。


 勝利を疑わず、笑みを深めるドンシーラ。

 カルナはしかし、ここに彼の油断があると見抜いた。


 一か八か――!


 カルナは突きをやめ、右手を“羨望の斧鑓”の柄に添えると、腰を前に突き出すと共にハルバードを自らの身体により深く喰い込ませた。


 身体の内側を抉られる激痛。斧の半分程までが、カルナの胴体にうずまっていた。そして同時に、カルナが腰を前に出した事で、“羨望の斧鑓”の穂先がドンシーラの胴体に潜り込んだ。


 無駄な抵抗だと、ドンシーラは嘲笑う。


 カルナは血を吐きながら、身体に残った空気を全て排出した。そして、血を吐きそうになりながらも、腹をぼっこりと膨らませるように、空気を取り込み始めた。


 あれだ――

 ジルダを倒したという、奇妙な打法の前の呼吸。


 だが、ドンシーラは余裕を崩さない。あの打撃は、身体操作によるものだ。片腕を喰われ、腰をひねれば自分で腹の傷を悪化させる。足でも使えるのだろうが、宙吊りにされた状態での蹴りにどれだけの威力があるものか。


 カルナはドンシーラの心が、面白い程に読めた。この男は知らないのだ、俺が師より受け継いだものの強さと、何よりも奥深さを。奪う事しか知らないこの男は、受け継ぐ事の尊さを理解しようとした事などないのであろう。俺は知っている。誰かから何かを受け継ぐ事――それは血統ではなくても良い、自分を育てた親の愛、友情、優しさ、技術、誇り、そして命。


 ひゅぅぅぅぅぅ――く。


 カルナの唇から風の音が漏れている。それが止まった。

 そして一気に、彼の身体に蓄えられた空気が、爆発するように吐き出された。


「迦‼」

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