エルネストの語る、一緒の昼食。
宰相の息子、エルネスト・プラートヴェイル視点です。
こんにちは、エルネスト・プラートヴェイルです。恐れ多いながら、フィリアンス王太子殿下の腹心をやっています。ま、そういうのは冗談で、フィルとは物心がついたからの付き合いだ。学園三年生になった今でも、続いてる。フィルが王になった時、俺が父に代わり宰相になるのはほぼ確実だ。
そのフィルだが、最近そわそわになる事が多い。理由はもちろん、恋だ。本人は自覚していないようだけどね。何せ相手はすでに婚約者になったフィオナ・レッセンス公爵令嬢だからね。それに、フィオナ嬢の謎もまだ解いていないから、フィルとしてはそれどころではないだろうな。今年から入学した彼女とどんなに忙しくても必ず週に一度くらい昼食を共にできるよう仕事を調整しているって、その意味は自分で分からないのかね、フィルは。
とにかくその昼食ですが、時々俺も誘われている。フィルが仕事をしていない時、俺も別にやる事はないから誘いに乗る事にする。その時は、フィルの護衛筆頭候補で俺たちの幼馴染でもあるアクトリオも一緒にいる。ついでにフィルが気にかけているマリア・ヴェルガーも。だから、二人がイチャイチャしても、別にいい。俺たち三人は俺たちで勝手に盛り上がるから。
フィオナ嬢が入学してから二か月の今日は、そんな昼食の日である。場所は、中庭。他の生徒たちの視線をやたら感じるが、熱々の二人は気にしないようだ。俺とアクトリオも慣れているから別に気にしない。マリア嬢の方はいたたまれないようだけどね。次にマリア嬢を誘っているときは、人気のない場所にする方がいいね。
とりあえず婚約者同士の二人が。
「フィオ、君は少し、痩せていないか?」
「え、本当ですか?学食の料理が美味しすぎて最近体重が増えないかずっと心配ですの。だからアンス様に痩せていると言ってもらえて嬉しいです」
フィルのしわがよった。フィオナ嬢は、何か嘘を言っている、という意味だ。何故底で、嘘をつく必要があるんですか、フィオナ嬢。
「何が嬉しいんだ。俺は褒めてないぞ」
ほら、フィルが不機嫌になった。
「やだな、アンス様。女というものは体重を気にするものですよ。ですよね、マリアさん?」
突然声を掛けられたマリア嬢は驚いたようだ。
「え、あ、はい」
未だにこの面子になれていないかな。声がやたらと小さい。ま、ここにいるのは王太子に、公爵令嬢と令息、そして侯爵令息、彼女だけが男爵令嬢だから気持ちは分からなくはないけどね。
「それでも、だ。君は痩せすぎる。もう少し太れ」
「えー、嫌ですよ。太るのは女の敵です。ですよね、マリアさん?」
「あ、あの!私も、フィオナ様はもう少し太るべきだと思います」
おお、声が大きくなったな、マリア嬢。ずっと言いたかったことだろうね。
「えー、マリアさんは誰の味方なの?」
「えーと、その、私、健康が一番だと思います!ですが、フィオナ様の痩せすぎる体は健康そうに見えません」
「え」
フィオナ嬢は、手に持っていたスプーンを落とした。この驚きぶりは、少し尋常じゃないな。
「どうした?」
フィルは、心配そうに聞く。
「いいえ、大丈夫ですよ。ただ私は健康そのものだとずっと思っていましたので、健康そうに見えないって言われてちょっとショックです。では、私はちょっと、変えのスプーンを取りに行きますね」
「いや、待て。変えのスプーンはマリアがとってくれる。マリア、頼めるか?」
フィオナ嬢が立とうとしたら、フィルが遮る。マリア嬢は何かを察したようで、承諾する。そしてマリア嬢が去った後、フィルは言う。
「フィオ、俺は前々から言おうか迷っているけど、やっぱり言うよ。実は俺は、お前が嘘をついてると、分かるんだ。だからもう、嘘つくな。本当の事を、言ってくれ」
フィオナ嬢の驚きが増すのは、見てるだけで分かる。そしてなぜか、泣きそうな表情を浮かぶ。フィルはさすがにその表情に動揺しているようだけど、何とか冷静を取り戻したようだ。
「そういえば、アンス様って魔力の流れが見えるんだっけ。でもね、アンス様。女っていうのは嘘で生きるものですよ。その事は、指摘欲しくないな」
「俺たちは婚約者同士だ。俺にくらい、嘘をつくな」
フィオナ嬢の頬に、とうとう涙が一粒落ちた。フィルは、固まった。自分が泣かせた、と思っているんだろう。俺から見れば、フィルのせいじゃないけど。フィオナ嬢が悪い、とも言えないけど。
「もう少し…」
「もう少し、なんだ?」
「もう少しすれば、貴方も分かると思います。そしてこの婚約も、契約通りに解消になりますから」
え?なんだそれは?契約?婚約解消?俺は聞いた事ないぞ、フィル!と目でフィルに訴えた。フィルは、そんなところではないようで、俺を無視しやがった。フィオナ嬢も、それ以上何も言ってくれない。マリア嬢が戻っても、場の空気は気まずいのまま。
そして事件は、五日後に起こった。
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