リベルヴァスの語る、異母兄の婚約者。
第二王子、リベルヴァス・ケイ・クルステット視点です。
初めまして、僕はこのクルステット王国の第二王子、リベルヴァス・ケイ・クルステット。僕は王と側室の子だけど、母であるその側室は僕が八歳の時に亡くなった。僕が持つ母の記憶はずっとベットに伏せている人なので、王妃は僕を自分の息子のように可愛がっているんだ。王妃と王妃の息子であるフィル兄上には悪いけど、僕はそれが有難かった。
それでも僕は、母を愛してるかどうかと聞かれれば、僕は愛してると答えるだろう。ベットに伏せているときでも、母はずっと僕を気にかけてくれる、優しい母だった。僕に何かできることが無い事をずっと悔やんでいるようで、せめて話し相手になってくれるという。その母は儚い感じで、いつ消えてもおかしくない感じだった。だから母が亡くなった時、悲しいと感じてもショックは感じなかった。
何故僕が母の事を話していると言うと、今僕は母と同じ感じの人を見つけたからです。そう、儚くて、いつ消えてもおかしくない感じの人。だから僕は思わず、彼女に声をかけた。
「ねえ、君は誰?」
蜂蜜色の髪を持つ彼女が驚きで慌てて振り返るのが分かる。そして僕を捉えたその紫の瞳が見開かれる。僕もその瞳を見て、驚いた。その瞳だけが、儚くないからだ。
「挨拶が遅れて、申し訳ございません、リベルヴァス第二王子殿下。私は先日、フィリアンス王太子殿下の婚約者になった、レッセンス公爵家が長女、フィオナ・レッセンスと申します」
彼女は、完璧な淑女の礼を取っている。兄上の婚約者の事は先日聞いた。確かにフィオナ・レッセンスと聞いたな。年齢は僕の一歳年下のはず。
「いや、初めまして、フィオナ・レッセンス嬢。ご存知通り僕はクルステット王国第二王子、リベルヴァス・ケイ・クルステット。フィオナ嬢は兄上に会いに?」
「あ、はい。近衛兵の方にはここに案内してくれましたけれど、誰もいなくて戸惑ってしまいました。仕舞いに聞きなれない声を掛けられたので無礼ながら慌ててしまいました」
この時彼女が浮かべた笑みは、からかっている人の笑みだ。僕をからかおうとするなんて、滅多にない。だからこの時の僕は、彼女の儚さに少し恐怖を感じた。彼女には、消えて欲しくないと思う。
そこで、兄上の声が聞こえる。
「遅くなって済まない、フィオ。お、リブもいるんだ」
「はい、見慣れない方を見たので、思わず声を掛けました。フィリアンス様の婚約者とは知らずに、申し訳ありません」
僕のよそよそしい答えを聞いた兄上は少し眉を上げた。そして僕とフィオナ嬢を見比べてから、こう言う。
「リブ、フィオなら大丈夫だ。いつも通りでいい」
え?これは珍しい。兄上は、彼女の事を信頼しているというのか?兄上と彼女が婚約しているのは、まだ一週間ばかりだよね?一体彼女はどうやって、兄上の信頼を貰ったんだろう。
「やはり、お二人の仲がよろしくないという噂は間違いだったんですね」
兄上が来たから、初めてフィオナ嬢が口を開ける。
「ああ、わざとそんな噂を流している。他の人の前も喧嘩までしなくてもさっきのようによそよそしい態度を取る。理由は、もう察しているようだな」
兄上に釣られて僕もフィオナ嬢の方を見る。確かに彼女は、納得しているような目をしている。
「そんな、私のはただの推測ですよ」
「君の推測はよく当たると、君自身が言っているじゃないか」
「確かにそう言いましたけど、言い換えれば外れたこともある、という事ですよ」
「ああ、そうだな。とりあえず移動しようか?お茶会の準備が整っているんだ。リブも、一緒にどうだ?」
「え?僕も一緒でいいですか?」
婚約者同士のお茶会に、普通弟を誘うのですか?
「ああ、大丈夫だ。エルネストとアクトリオもいるからな」
え、何ですか、それ。友達同士のお茶会?
「いいえ、やはり遠慮しときます。兄上とお茶会なんて、だれかに見られたら今までやっていた事が無駄になります」
「それもそうだな。残念だ」
はい、実に残念です。僕だって兄上とお茶会したいです。
「では僕はこれで失礼します」
そう言った僕は、僕が住んでいる離宮に戻る。
夜になると、僕は兄上の部屋を訪ねる。もちろん、誰にも知られないように。
「兄上、少しよろしいですか?」
「リブ?いいぞ、入れ」
僕は部屋に入れば、すぐ扉を閉める。部屋の中にいる兄上は、すでに寝る準備を整っているようで、ちょっと罪悪感。
「ごめんなさい兄上、こんな夜遅くに」
「いや、いい。こんな時に来たとは、フィオの事で何か話がいるんだろう?聞こう」
さすが兄上、察しが良い。
「はい。兄上、彼女は何か病気を抱えていないか調べましたか?」
彼女は王太子の婚約者は。いずれ王太子妃に、それから王妃となり、その義務の一つは世継ぎを生むことだ。そんな人が病気を抱えているなんて、しゃれにならない。
「ああ、一応レッセンス家お抱えの医師に教えてもらったが、別に病気はないはずだ。どうした?」
え?本当に?じゃ、なんで?
「彼女からは、なぜか母と同じ感じがしましたのでてっきり…」
「それは本当か?」
何故か兄上が、焦った。
「はい、なんだか儚い感じで、いつ消えてもおかしくないそうな」
「そうか。実は、俺もだ、リブ。俺から見た彼女は、妙に小さい。魔力量は、妙に少ないんだ。男爵家の平均量より少ないんだ。いくら幼いとはいえ、公爵令嬢がその量とはおかしい」
「え、もしかして兄上が彼女と婚約した理由って…?」
「いや、単に彼女に興味を持っただけだ。ま、その事を含めて彼女の事を知りたいとは事実だ。それに、レッセンス家は最近よくない噂も聞くだろう?ついでにそれも調べておこうと思って」
兄上の目元が、優しい。これはもしや…?いや、今詮索は辞めておこう。兄上もまだ、自覚していないようだ。
とりあえず、兄上の婚約者に謎が多い、という事だけは覚えておこう。
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