黒き宝石
こちらの文は、BL要素がありますので駄目だという方、免疫のない方はご遠慮下さいませ。orz
その光を失うくらいなら、
俺は平和など望まなかった
『黒き宝石』
「よ!元気でやってっか」
友人であり恋人であり上司である男を、俺は訪ねた。
するとその男はすやすやと寝息を立てて執務室の机に突っ伏していた。
……んな顔して寝るなよ…
襲われるだろ―、とボヤきながら近くにあったコイツの上着をかける。
それが擽ったかったのか、小さく
「ん…」
とうめいた。
可愛い……
……………いや待て待て待て自分。
今自分、
かなり
カミングアウトしたよな?
……したよな!?
かなり自然に思ってた……ってかそれが余りにも普通過ぎたから今まで気付かなかったわ。
ま、確かにキレーな顔してんだわコレが。
(あぁ、これを思ってるのが俺だけでない事を祈る)
ま、恋人って言ったから二人は公認ってことは理解して聴いてくれよ?
え?なに聞きたくないって?
だったら耳塞いでろ。
初めての出会いはもう忘れてしまったけど、かなり心臓に悪い出会いだった。
真っ正面から下を見ながら歩いてくるYシャツ姿のヤツに、俺もまた気付かず、衝突。
俺より頭一つ低い位置(=首のあたり)にそいつは額をぶつけ、その場に蹲った。
ワリィ!と謝ろうと屈むと、漆黒の髪が蛍光灯の光で反射して眩しかった。
真っ白で痩せた体に、少し痛みに潤んだ真っ黒な瞳。
あ、
何か言おうとした俺に、すまなかった、と一言言って行ってしまった。
いや、別にコレで何かがあったわけじゃないぜ?
俺はそんなに乙女じゃない。
ともかく、コレが出会い。
その後、同じ職場になってかなりの苦難を共にしてきた。
その度にお互いの仲が深まり、親友と呼べる程になった。
今、すんなりと話したけど、この数行にかなりの時間と精神をかかった事を推測してくれ。
まぁともかく俺はカミングアウトすることになるんだが、その話は置いておこう。ヤツが起きた。
「………何してる」
ああ、そんな寝惚け眼で睨んだって怖くもなんともないし、寧ろ可愛……
「変なことを考えてないか?」
……よくお察しで。
「や、別に?ただお前みたいな上官が机に突っ伏してるなんて、滅多に見れないと思って。」
「……いつも見てるだろ?」
「ん?」
「朝とか。」
……まだ寝惚けてんのか?
いつもならそんな爆弾発言(つまりはカミングアウトの事実。)なんかは口にしようとしただけですごい殺気出すくせに。
(この前は確か電話が飛んできた。その前は万年筆が俺の後ろの壁に刺さった)
俺が心の中で葛藤していると、また机に突っ伏してしまう。
「眠いんだ、用があるなら後にしてくれ」
そういって俺の恋人はまた机に伏せた。
「寝ちまったのか?」
問いかければ、伏せた頭から うーだの、んーだの唸る声がする。
「ったく…」
ずり落ちてしまった軍服をまたかけてやる。
そんな仕草から、俺はコイツが俺に語った野望を思い出した。
それは珍しく何もなかった夜に、二人で酒を飲んでいた時の話。あんまし酒に強くないコイツは飲んで一時間もしないうちに潰れて、そのまま二時間起きなかった。
しょうがなく俺が酒瓶の片付けをしていると何やら物音がする。
見れば起きたらしく、ぼぉっとして周りを見回し、俺をジィッと見た。
そして、痛む頭を片手で押さえながら、
「俺は―――」
…驚いたのなんのって。
誰よりも偉くなるってのは簡単じゃないし、かなり難しいのも理解してる。
だからこそ、だったのか。
俺は恋人であり、親友であり、上司であるコイツを、
支えようと思ったのは。
「おやすみ…」
俺はそうしていつものように漆黒の髪に口付け、部屋を後にした。
それから何年か後、
俺はそれが別れになるなんて知らなかった。