自分
新作描いてみましま。
「今日もハズレ…か」
男は洞窟内を松明で照らし調べながらさらに奥へと進んでいく。
男は何をしているかと言うと、ただ生きるために働いている。
洞窟探索の他にも頼まれたら川で洗濯をし、別の日は山で薪を拾いさらには谷を越えて荷物を運び畑も耕す。
どんな仕事も全力投球、安全第一を心掛け報酬をもらう。
どんな仕事でもとは言え盗みや殺人などの犯罪の類いの依頼は当然頼まれたことはあっても引き受けたことはない。そして今後も引き受けることはないと思う。
本日の収入はよく見かける鉱石の塊が数個ほど手に入ったので銀貨1枚程度。
「これなら、晩飯代くらいにはなるか」
皮鞄の中の鉱石を見て金勘定をしていると、洞窟の入り口の方から声が聞こえてきた。
その声に反応して男はすぐに身を隠す。
洞窟に入って来たのは最近この村近くに遠征してきた冒険者ギルドに所属しているあまりいい噂を聞かない冒険者達だった。
どんな噂かと言うと物を横取りしたり、難癖をつけては恐喝まがいの行為をしているとか。
そうは言っても冒険者。
見るからに丈夫そうな盾と鎧、切れ味鋭そうな剣を腰にさげている。
気配を察知するのだけは得意としていたので男はは被害にあった事はないが火のない所に煙は昇らない。
静かに息を殺して身を隠しやり過ごしてから洞窟を出た。
ちなみに男の装備はというと。
『使い古された鉄剣』に
『ボロボロになった厚皮の胸当て』だけ。
装備を揃えるにもそれなりの資金か必要になるのは当然。
しかし、そこまで危険な事は引き受けていないのでこの装備でも十分ではあるけれどこういった危険な場所に来るのであれば万が一に備え高品質、高性能な装備を身につけていた方がいいに決まっている。
ただ、命を守る物にはそれなりの値段がついてくる。
洞窟を出ると一目散に帰宅した。
「ウィズ!今日はどうだったの!?」
「ベリーさん。いやー。いつも通りでした…」
苦笑いしながらこの村でお世話になっている村長の奥さんに返事をした。
「旦那がイノシシを仕留めたからご飯食べにおいで!」
「わかりました!後でお邪魔しますね!」
この人達がいなかったら俺はとっくに死んでいただろう。
あくまで予測であって事実ではない。
生活に困っていたのはたしかだと思う。
それは何故か?
その理由がわかっていないのが問題なのだ。
なぜなら気が付くと俺はこの村の近くで倒れていた。
自分がなぜこの場所にてどこの誰なのか、今でもなぞのまま。
何一つ分からない状況でたまたま出会ったのがこの村の村長。
そしてそのまま保護され現在に至る。
保護されていなければ山で遭難か餓死していたかもしれない。
あくまでも予測だけど。
それも、もう半年も前の話。
そんな状況で生活できる自分の神経の図太さに驚くこともあるが、今ではすっかりこの生活に慣れ村にも馴染んでいる。
仕事は毎日頼まれる事は無いので、何もない日は色んな場所にお金になりそうな素材を探しに行く。
それなりの物を見つけたら換金所や直接店に行き買い取ってもらう。
しかし、男が請け負うのはギルドに張り出されている正式な依頼ではないので報酬は少なく素材を売ったとしても買い叩かれもする。
それならギルドに登録すればいいじゃないかと思うだろうが、そう簡単に登録が出来るものでもない。
「おっ!やっときたか。じゃー飯にしよう」
目の前の大男がこの村の村長でありベリーさんの旦那さんのドッタさん。
ドッタさんが待っていましたとばかりにベリーさんに酒を催促する。
ドッタさんに初め出会った時、正直人間と思う前に大熊かどこかの化け物かと思った。
何故なら、手にナタを持ち反対側には首を落とした鹿を担いでいた。
その見た目の迫力に押され、話しかけるのを一瞬戸惑ったのが1番古い記憶と言っていい。
言葉は通じたので事情を説明したが、笑われて相手にしてもらえなかった。
どこかの家出人と思ったのか快くその日の寝床と食事を準備してくれた。
言葉が通じたと言うことは、自分がこの世界のどこかの住人の確率が高いが残念ながらこの村出身ではないようだ。
記憶を無くす前に何をしていたのか。
そして自分はどんな人間だったのか気にならないと言えば嘘になる…。
しかし、思い出そうとすると気が滅入るほどの頭痛が二、三日続くので自然に思い出すまで忘れる事にした。
むしろ思い出さない方が良いかもしれないと最近では思っている。
それほど今の生活に満足している。
金銭面以外では。
「ベリー。もう一杯!」
……ギロリッ
「……もう一杯、美人の注いだお酒を……」
「こういう時だけ。仕方無いねー♪♪」
本当に仲のいい、優しい夫婦に拾われてよかった。
拾われてから数日は恩返しの為、ベリーさんの農作業やドッタさん狩りの手伝いをさせてもらった。
知識が無いのでただ言われるまま指示に従うだけだったので手伝えていたのかは不明。
けれど生活に必要な知識を色々と教えてもらえた。
そんなある日。
小型のレッサーウルフと呼ばれている魔物に襲われベリーさんが悲鳴を上げた。
男は手にしていた鎌を右手で握りベリーさんのもとに走り、握った鎌で魔物の背後から攻撃を仕掛け首元をザックリと掻き切り、魔物の攻撃を何とか回避しながら3匹のレッサーウルフを退治した。
それはもー無我夢中だった。
自分でも良く覚えていないがベリーさんに大きな怪我はなく、良かったと安堵したことだけは憶えている。
それが初めての『魔物』との遭遇。
その事をベリーさんがドッタさんに話すと、その時のウィズの動きが素早かったので兵士や傭兵、冒険者と言った職業に就いていたのではないかと言う結論を出してきた。
そこを踏まえて、ドッタさんが口を開いた。
「ここで農作業の手伝いをしているよりも自分の記憶を取り戻すために色々な事に触れてみたほうがいいんじゃないか?お前を待ってる誰かだって居るかもしれない。別に出て行けなんて言ってるわけじゃないからな!」
確かに今の環境で何も思い出せないのであれば、多少生活に変化を加えるのも一つの方法だと思う。
無理そうならまたここに戻って今と同じ手伝いをすればいいだけ。
収入が増え、生活が楽になるに越したことはない。
しかしウィズはこの村を離れなかった。
それから何度か二人に大きな街に行くことを進められた時もあったが、この村が気に入っているのでこの場に残ることをウィズはその都度選択した。
「本当に欲がない男だな!」
筋肉男のドッタさんが豪快に肉と酒を腹に流し込みながら笑う。
「あんたっ!」
「あっ……すまんね」
ドッダさんはベリーさんには頭が上がらない。
そんな2人のやり取りを見ているとなんだか心が温まる。
2人は自分の子供のように優しく接してくれるそんなドッダさんとベリーさんが俺は好きだ。
「本当にウィズは珍しいよ。華やかな街の暮らしではなく、不便な村暮らしの方がいいなんて」
ウィズとは覚えていた数少ない言葉の一つ。
多分、自分の名前だと思うが確証はない。
「明日はきっと良い事があるさ。そうだろベリー?」
「そうだね。沢山食べてぐっすり寝な!生きていたらいずれいいことがあるよ!」
本当の父と母も優しかったのだろうか?
もし父と母がいるのなら心配をかけていないだろうか?
なんて事をふと思い出す。
「ご馳走様でした」
「男ならクヨクヨするな。そんな男にいい女は寄ってこないぞ」
「そうだよ。この人なんて1週間に1度位しか良い仕事をしないんだから」
「ベリー…そんな事ないだろ……?」
バシッとドッタさんの背中をベリーさんが叩く。
「ウィズも結婚するなら私のような器のデカい女を選ぶんだよ!」
ウンウンと頷くドッタ。
「胸の大きさは大切だぞ」
ぼそりとドッタがウィズに呟いた。
胸以外の大きさはどうでもいいのかと聞きたいところだがウィズは黙って頷いた。
もしかして自分は結婚していてベリーさんのような奥さんがすでに…?
見た目の年齢なら16~20歳くらいだろうか。
左薬指に指輪がないのでその確率は低いだろう。
自分の事が分からないので色々不安になる時あるけど今すぐ解決できないことを悩んでも仕方ない。
最初の頃は色々考えて眠れない日々が続いたが今は開き直ってしまった。
食事のお礼を言うと借りている少し離れた自分の小さな家に帰る。
「明日また頑張ろうっ!」
盛大に励まされたが何をどう頑張ればいいやら。
月を見ながら帰宅している途中で夜の洞窟の話を思い出す。
洞窟には昼と夜の顔がある。
昼は比較的安全に行動できるのだが、夜は昼とは比べ物にならないほど危険度が上がる。
奥に潜んでいる危険な魔物が入り口付近まで沢山出てくるらしい。
もちろん入手困難な素材等も入手出来るそうだが危険なため基本、誰も入らない。
一部の実力者と金に目が眩んだ命知らずの馬鹿をのぞいては。
昼ではなく夜の洞窟の方が当然稼げる。
ウィズは頭の中でお金を数え、そして自分の命とお金を天秤に掛ける。
「命あっての……だよな」
命側の天秤が一瞬で下がる。
当然と言えば当然。
それでも怖いもの見たさ、興味本位で洞窟の入り口を遠くから眺める。
洞窟の入り口はいつものように大きな口を開けて侵入者を待っていた。
当然入り口を封鎖する物はない。
「ギェェェーーーー」
洞窟内から聞いた事も無い何かの鳴き声が聞こえてきた。
その声を聞いたウィズはおとなしくいつもの道を通って家に帰り部屋に戻ると横になりながら明日の予定を考えているうちにいつの間に眠りについてしまった。
今のところ不定期更新ですが、ブックマ増えたらなんとか定期更新したいと思います。
嘘つきな猫です。
性懲りも無く新作書いてみましたがこれからどーなるかは全くの未定、見切り発車もいーとこです(笑)
それでもよければブックマ、評価に感想よろしくお願いしまーす^ ^