出来損ないの神々が支配する
以前、投稿させていただいていたものに加筆修正いたしましたものです。
前に出したものとは少し設定が変わっています。短いものですので、以前お読み下さった方も、もしお時間頂戴できましたら、お読みになっていただけますと幸いです。
よろしくお願いします。<(_ _)>
「さあ、みんな、いきわたったかな。」
先生が言った。
教材が配られた。
今日から新しい勉強が始まる。
「では、みんな箱を開けて、キットを取り出して机の上に置いて。」
みんな言われた通り箱を開けた。
中に入っているのは・・・・宇宙だった。
「みんな付属品が揃っているか確認して・・・はい、大丈夫だね。では、説明するからよく聞いてね。」
先生は咳払いをしてのどの調子を整えた。大事な話をするときの癖だ。
「いいかな、今日から、宇宙の成り立ちや進化についての勉強が始まるよ。実際にキットを使って、君たちがどんな世界を作っていくか見せてもらうことになる。君たちの将来を決める大事な授業だ。気を引き締めて頑張ってもらいたい。」そして、付け加えた。「卒業検定にもかかわるからね。」
先生はいつもの優しい顔と違う厳しい表情だった。みんな緊張した。
先生はなぜかじっとこっちを見ていた。ふと隣を見ると、僕の隣の子が泣いていた。先生が見ていたのは僕じゃなかった。
この子は心が弱くて(よく言えば感受性が鋭くて)、緊張しすぎると泣いてしまうことがよくあった。
そして・・・、他にも理由はある。僕たちは全員、いわゆるジェンダーレスだけどその中でも、やはり女性寄り、男性寄りにと、それぞれタイプに違いがあった。こんなこと言うと怒りだす人もいるかもしれないが、この子は、かなり女性寄りで・・・、守ってあげたくなるタイプだ。ひそかに僕はこの子が気になっていた。
それにそれだけ今日の先生は、いつもと違ってとても真剣だったってことだ。
先生は笑顔になって教室を見渡しながら、
「とはいっても、君たちはまだ子供だ。多少の失敗はあって当たり前だ。」と言った。みんなの緊張をほぐそうとして言ってくれたのだろう。
「まず、このVR眼鏡をつけて。そして自分の宇宙を覗いてごらん。」と優しい声で言った。
みんな眼鏡をかけて言われた通りにやってみた。うわっ・・・・!すごい!体が吸い込まれていくように感じた。果てしなく無限に広がるビロードを敷き詰めたような空間に無数のメレダイヤのような粒が洪水のように渦を巻いて輝いている・・・。以前受けた実習では宇宙服を着こんで実際に宇宙に出て宇宙遊泳をしたが、これはそんなことしなくても体が無重力に浮いているように感じた。
「各自それぞれの宇宙に生命体を乗せることが可能な星がいくつかある。まず、それを見つけ出して。」
・・・これか?青いきれいな星がある。
「見つけたら、名前を付けて。自分の星に愛着がわくからね。」と先生は言った。
僕はその星に『地球』と名付けた。
「まず7日間でそこに世界を作ること。今週の課題はここまで。来週のこの時間に見せてもらうからね。」先生はそう言って帰っていった。
僕らはみんなそれぞれ頑張った。
ぼくはまず、『地球』に天と地とを作り、水を満たし、光が入るようにした。みんなも同じようなことをしていた。そんなこんなで、あっという間に7日間がたった。
「できたかな。」次の週の授業で、先生がそう言いながら、みんなの宇宙を見て回った。
「・・・・素晴らしい。みんな、いい出来だ。」
僕らは褒められたのでほっとした。
「では次はその星に最初の生命体を置いてみよう。・・・・いいかい、」
先生はそこで言葉を切った。みんな先生の言葉を待った。
「ここから先はいろんなやり方がある。自分の思った通りの進化をしないこともある。そういう時にどうするか?・・・・すべて、君たち次第なんだ。」
僕たち次第?
「少し介入して刺激を与えるのもいい、君たちの存在をにおわせるのもいい。まったく関与せずに放置して成り行きを見守るのもいいだろう。・・・・すべて君たち次第だ。」
実習が本格的に始まった。
僕たち次第。僕は周りを見渡した。皆それぞれ自分の宇宙について考えているようだった。誰かに相談したいと思ったがやめにした。だって、それでは、僕の宇宙が、僕次第ではなくなるような気がしたから。
僕はまず、僕たちと同じ姿かたちをした『男』を一人置いてみた。なんだか寂しそうだったので、次に『女』を置いてやった。すると、一人の時はおとなしかったのに、二人になったとたん、いろいろと悪さをするようになった。
周りのみんなの作品の宇宙を見てみると、小さな細胞を入れてみている子や、いくつかの星を同時に作っている子がいた。ん?生命体を乗せる星は一つじゃなくてもいいのかな。
その子に「そんなことしていいの?」と聞くと、「先生に聞いたらやってごらんと言われた。」とのことだったので僕も自分の宇宙のいくつかの星に、また、世界を作った。
また7日間たち、先生に見てもらった。そのころには、皆の宇宙は、それぞれ個性的な様相を見せていた。僕の宇宙の『地球』は、洞穴に人が住んで火を使うようになっていた。
細胞から始めた子のはまだ水の中で魚が泳いでいる状態だった。
「あああ、みんなに置いてかれちゃった。」その子は嘆いたが、僕は「そっちのほうが面白そう。」と言っておいた。実際そう思った。
「進化が遅れているようなら、何らかの刺激を与えるといいんだよ。・・・ではまた次の授業で。」先生は帰っていった。
このころになると僕らは皆、協力しあったり、教えあったりするようになっていた。さっき言った細胞から始めた、進化の遅れ気味の子にみんなが同情し、誰かが言い出して、手伝おう、ということになった。みんなで意見を交わして、冷やしたり、あっためたり、ゆすったり・・・。「こっちの星、当ててみたら?」と言い出す子がいて、遠くから星をぶつけたり、いろいろ手荒なこともした。そうこうしているうちにまた六日間が過ぎた。
みんな、その子の星のことに夢中になっている間に、自分の宇宙のことを忘れていた。僕も久しぶりに自分の宇宙に作った星『地球』を見てみると、病気が発生して人口の半分が死んでいた。
「まずっ!」
みんなあわてて自分の宇宙の修正に入った。
翌日の七日目、先生は何も言ってくれなかった。ちょっと怒っているようにも見えた。そのまま先生は帰っていった。
「私たちの事、出来損ないって、思ったのかな。」この授業の最初の日に、緊張して、泣いていた隣の席の子が言った。また、ちょっと涙目で。
「そんなことないよ。」と僕は言ったが、あまり自信はなかった。でも、この子を心配させたくなかった。
みんなひどくがっかりしてあまり口をきかなくなった。
だからそれ以降、あんまり他の子の進み具合は詳しくは知らない。ときどき噂には聞いたけど。
ある子は自分の使いだといってその星の住民の前に姿を現したり、自分がまだ子供のくせに、「指示しやすいから」という理由で自分の子供を作って送り込んだりした。僕はそういうのを聞いて使えそうなものは取り入れさせてもらうことにした。僕独自のやり方としては、独裁者がある周期で現れるようにした。これは自分では、なかなか良い、独創的な発想だと思ったんだけど・・・どうかな?戦争が起こるのを嫌って、人類を女だけにした子もいた。僕はやらなかったけど、これもやってみたら面白かったかもしれない。
先生は七日おきに来て、進み具合をチェックしていった。
そうこうしているうちに、一年が過ぎ、卒業検定の日がやってきた。
先生はみんなの星を見て回った。・・・だが、そのころには、ほとんどの星が崩壊して、人類は全滅していた。みな、時には以前のように協力して、修正しようとしたのだけど、うまくいかなかった。かろうじて残ったのは、生命体をすべてメスにして操作した、僕の隣の、この実習の初日に、泣いていた隣の席の子のものだけだった。でもそれも、かなり衰退していて、もう長くなさそうだった。はっきり言って、ほぼ全員の分が失敗作だ。僕らは卒業できるのだろうか。皆、緊張して先生の言葉を待った。
「わかったかい?何を学ぶべきだったのか。この一年をかけた授業の目的がなんなのか。」
先生はみなを前にして咳払いをした。そして言った。
「今回はあくまで実験的に君たちに宇宙を作ってもらった。君たちに、それを実体験して、責任の重さを理解してもらうために。だからいろいろな不具合が出ても当然なのだ。君たちは、まだ、未完成なのだから。」
先生はそこで言葉を切った。
「あくまで体験版だ。そもそも、七日間で世界を作るなんてところから、無理があったんだ。最初にもっときちんと計画を立てないとね。だからこの結果は想定内だよ。」
先生は笑顔になった。
「みな優秀だ。これからも毎日勉強して、いい神になってくれ。」そして、
「さあ、VR眼鏡をとりなさい。」と言った。やった。全員卒業だ。
その日、僕たちは一人の落第者も出さず、全員そろって神界の義務教育を終えた。・・・もしかして、ところてん方式だという噂は本当だったのかもしれない。でも、それでもいいや。だって隣を見ると、ほっとして笑顔を見せているあの子がいた。
さあ、明日からは、正式な神だ。全知全能の。もうVR眼鏡はいらない。
※VR・・・・Vision of Revelation(与えたもう神の視点)の略。バーチャルリアリティーとは無関係。
この地球はこんな神々によってこんな風に作られたから今現在こんなに混沌としているのかな、と思いながらこの話を作りました。
お読みいただきありがとうございました。