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桜花舞う!!  作者: 高嶺の悪魔
第二章 夏(前) 恋する連隊
62/205

007

昨日すっぽかしてすみません・・・

今日2話投稿します。

「はぁ……」

 サクヤの去っていった衛門を見つめていた兵の一人が、やがて夢見るような吐息を漏らした。

「木花連隊長……やっぱり可愛かったなぁ……」

 彼の呟きを聞いた周りの者たちが、賛同するように次々頷いてゆく。

「ああ。可愛い」

「可憐だった……」

「いや。前よりももっと綺麗になった気がする……髪型とか」

 誰も彼もがため息に乗せて、どうしようもない切なさを吐き出している中、一人が照れくさそうに後頭部を掻きながら言った。

「俺、名前呼んでもらっちゃったよ」

 へへへと笑った彼へ、俺も俺もと声があがる。

「俺なんかのことも憶えていてくれたんだなぁ、連隊長は」

「ま、待ってくれよ! 俺は?」

 感に堪えないという表情で呟いた兵の横で、別の兵が酷く慌てた声を出した。

「連隊長、俺のことは何か言ってなかったか? 誰か、聞いてないか?」

 彼は今日、朝から夕刻まで武器庫の歩哨に就いていたため、サクヤと会う機会があったのは最後の見送りだけになってしまったのだった。

「なぁ、連隊長は俺のことも、憶えてくれているかな?」

「大丈夫、憶えてくれてるさ」

助けを求めるように尋ねる彼の背中を、隣にいた兵が励ますように叩く。

「あの人を誰だと思ってるんだ? 我らが木花連隊長だぞ?」

 その言葉に、泣きそうだった兵は希望を取り戻したように顔を上げた。

「そっか。……そうだよな、あの木花連隊長だもんな」

 そうそうと周りの者たちが頷きながら、彼を励ますように肩や背を叩いた。

「はぁ……それにしても。やっぱり、可愛いなぁ……」

 わいわいと騒ぐ仲間たちには目もくれず、最初に呟いた兵がもう一度同じ言葉を繰り返す。蕩けるような口調で吐露されるその本心に、誰もが一様に、深く頷いていた。


 つまり、結局。第587連隊とはそういう集まりだった。

 大戦を終わらせた英雄たち。史上最大の激戦を潜り抜けてきた、歴戦の将兵。帝国陸軍に残された最後にして最強の戦力。

 彼らを誇大に謳う言葉は数あれど、その正体はたった一人の少女に想いを寄せる少年たちの徒党であった。


明確な目的も与えられず、ただ戦争を継続させるためだけに、わずか十五才で戦場へ送り出された彼らにとって、青春とは即ち、破壊と殺戮、恐怖と絶望に彩られた日々に他ならなかった。

 そんな彼らの前へ、ある日突然現れた少女は言った。

 この戦争を終わらせようと。

 その一言は衝撃的だった。戦争が、この殺し合いの日々が終わる。それは、誰も考えたことない未来だったから。

 今日を戦い、生き残り。そして次の戦場へ。何時か、何処かの戦野で討ち果されるその日まで、営々と繰り返されるだけの日々。そこに、初めて与えられた大きな目的とささやかな希望。


 実際のところ、戦争を終わらせるというサクヤの言葉を、彼らがどれほど理解していたのかは分からない。

 けれどその時から、少女の願いは彼らが戦う理由となった。

 それはいったい、どれほどの救いだっただろうか。

 意味もなく、意義もなく、戦って死ぬだけだったはずの彼らの人生に、初めて意味と意義が与えられた瞬間だった。

 だからこそ、いつしか彼らはこの少女の願いを何としてでも叶えてやりたいと思うようになった。

 そして、思いは想いへ変わり。少年たちがサクヤへ抱いていた感謝と敬愛の念は、やがて淡い恋心へと昇華した。もっとも、彼らの中でそれが恋なのだと自覚している者は少ない。

 当然ではある。彼らは生来、戦争についてだけを教えられてきたからだ。

 恋愛のやり方はおろか、それがどういうものなのかすら、彼らは知らなかったのだから。

 しかし、それでも。或いはだからこそ。その想いは純粋で、そうであるが故に強靭だった。

 だからこそ、たった一人の少女によって率いられた彼らは、五十年にも及んだあの大戦へ遂に終止符を打ったのだ。



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