022
晴れやかな笑い声に誘われたのか。大海から一陣の風が帝都へと吹き寄せた。
それは通りを抜けて丘を駆け上ると、千年桜の枝に無数に綻ぶ花弁を攫い、薄紅の奔流となって大空に舞い上がり、帝都を、いや、この国を、或いは世界そのものを桜色に染めあげんとばかりに吹き荒れた。
それは一つの千年の閉幕であった。
戦乱と悲劇によって彩られた千年はここに幕を下ろし、この国が積み上げてきた何もかもが、落花の儚さとともに散ってゆく。
そして同時に、新たな千年の幕開けでもあった。
長きに渡って続く厳寒の季節は終わり、今また騒がしい季節がやってくる。
――結局、私たちは振り出しに戻っただけなのかもしれない。
笑い合う少年たちの中心で、桜色に染まる帝都の空を見上げながら、サクヤはそんなことを思った。
得たものは少なく、失ったものは還ってこない。
過去はどうしようもなく取り返しのつかない事ばかりだ。
けれど、それこそが人の歴史というものなのだろう。
数多の最善と過失を繰り返し、その都度に僅かばかりの修正と反省を付け加えて次世代へと引き継がれる。そこに正解は存在せず、正否すら知ることはできない。
そこに生きる者たちの決断に評価を下すのは、後代の者にしかできないからだ。
そんな営みを連綿と、幾星霜と乗り越えたその先で、人類は真の平和を手に入れるのか。
それもやはり、誰にも分からない。
この先、サクヤが、彼らが、どのような未来を歩むとしても。どのような決断をし、どのような答えを出すにしても。千年桜は変わらず、見守り続けるのだろう。
桜花舞う、この国を。
「桜花舞う!!」これにて完結となります。
これまでお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
好きなものを、好きなように書いた結果、なんだか良く分からないものになってしまった感が否めないのですが、いかがでしたでしょうか。
それでは。ここまでお読みいただいた読者の皆様へ心よりの感謝を。




