第十三話
「失礼いたします」
あれこれと近況を報告しあっていたところへ、女中が細く開けた襖の間から顔を覗かせた。
「お食事のご用意が整いましたので、お持ちしたのですが」
「ああ。ありがとう」
丁寧に頭を下げている女中へ、ソウジが頷いてみせる。それから、彼はサクヤたちに顔を向けると確認するように訊いた。
「本当は、順番に配膳してもらうのが正式な作法なんだが。こういうところでの食事に慣れていないヤツが確実に、一人いるから、料理は一気に運んでもらうことにした。それでいいか?」
ソウジの質問に、今さら食事中の行儀作法を気にするような間柄でもないサクヤたちは頷きを返した。
「その慣れてない一人って、誰だ?」
無邪気に聞き返したコウへ、全員が生暖かい目を向けていた。
よろしく頼むとソウジが告げたところで、襖が大きく開かれ、座敷の外に控えていた女中たちが一斉に料理を運び込み始めた。
次々に座卓の上を埋めてゆく皿の数々に、サクヤは目を見張った。
鶏肉と根菜を煮込んだらしいものや、丸々とした焼き魚。鮮やかな緑の映える葉菜のお浸しに、酢の物、最後には汁物の入ったお椀と、白米のたっぷり盛られた茶碗が目の前に置かれた時、サクヤは思わず「すごい」と口に出していた。
「大した品数をご用意できませんで……」
サクヤの零した感嘆の声を聞きつけたらしい、白髪の女中が申し訳なさそうに頭を下げている向こうでは、ソウジが満面のしたり顔を浮かべていた。
得意そうな彼の表情を見て、別に自分でこの料理を用意したわけでもないだろうにと、眉を顰めているサクヤの前に最後の小鉢が置かれた。配膳してくれたのは、座敷まで案内してくれたあの少女だった。サクヤはありがとうと丁寧にお礼を言った。
少女は、好奇心いっぱいの瞳でサクヤを見ていた。小さな唇が、「大佐さんだ」と動いたような気がした。そんな仕草も可愛らしくて、サクヤはにこやかな笑みを彼女に向けた。
と、少女がサクヤに対してとっている態度に気が付いた白髪の女中が「これ」と叱るような小声を出した。少女の顔が真っ青に染まる。
「申し訳ありません。この子は、まだ修行中なもので。人手が足らないので、こうして店には出しておりますが、とんだ粗相を。どうぞ、お許しください」
「え、はい。……いえ、お気になさらず……?」
頭を下げた年配の女中に、サクヤは何のことか分からないとばかりに首を傾げた。
「なにかありましたら、どうぞ遠慮なくお呼びつけください。それでは、ごゆっくり」
そう告げて、彼女は泣きそうな顔になった少女を引き立てるようにして座敷から出て行った。
「軍隊に限らず、どんな仕事も大変ね」
それを横目で見ていたらしいコトネが、全てを理解したように呟いていた。




