5.平賀桐人、殺す算段をされる
ちょっと減らしました!
「まだか! まだ合図はないのか!?」
キリトたちが巨大怪獣に襲われていたころ――
耳長族にしてイエの森の守護者の一族戦士長であるルル・イエは、山の中にある渓谷を流れる川の上流に来ていた。もちろん、それはキングと戦う上で重要な戦術であり、異邦人にして神のお気に入りである平賀桐人が提案したキング対策のためだった。
「戦士長、限界です! 若い者たちがシルフィーネの怒りに触れたの如く悲鳴を上げています!」
「まだだ、まだ持たせろ! 少しくらいは流していい、大切なのは勢いだ。ここぞというときに勢いをつけて流せれば問題ない!」
ルルは迷っていた。こんなところで自分も油を売っていていいものか……いますぐあの二人の助太刀に入るべきではないかと。しかし、今はあの平賀桐人を信じるしかない。無駄に自信に満ちた態度に腹立つほどに抵抗を諦めない瞳、そして無駄に頭の回転が早いやつを。
ルルの感覚では平賀桐人は戦士ではなかった。あのような乱れた太刀筋の剣士など見たことがなく、体の動かし方も戦いを生業とする者の動きではない。そして、本人が言っていたことだが剣をまともに握ったこともないという。元居たところでは剣も弓も握らずに狩りをしないなど、どんな暮らしをしていたのか気になるがそれは今更気にしてもしょうがないことだ。
とにかく、そんな平賀桐人は戦士ではないのだから守られるべきだ、というのがルルの考えである。
ルル・イエは守護者の一族でも卓越した戦士の娘だった。彼はその重厚な剣と他を圧倒する巨体から繰り出す巨人の如き一撃を以って戦う一族でも指折りの剣士だったのだ。
だが死んだ。
キングと戦って死んだのだ。
あの時もそうだった。雨の降った次の日、ぬかるんだ足元とよどんだ空、ごうごうとうなりをあげて流れる渓谷の川。そんな中、緑の巨体を持つキングが現れ里を蹂躙しようとしていた。
父は里のみんなを助けるために単身キングに挑み、そして彼がキングを引き付けている間に里のものは逃げ出し、しかし父は戻ってくることはなかった。
それからルルは成長し、父のような戦士になりたいと修練を積み、いつの間にか戦士長にまでたどり着いていた。今ではあの時の父を超えるとまで言われているほどの戦士に成長したのだ。
だからキングを見つけた時に少しうれしかった。『ああ、これでやっと父のような戦士として死ぬことができる』と。あの時は少し平静ではなかったため気づかなかったが、おそらく以前父が戦って死んだことが負い目になっていたのだろう。悲しいというよりも、すっきりした、といった気持ちのほうが強いが。
だというのにあの異邦人はそんな自分を否定した。誰かのために命を投げ出すだけなど認めないと言った。死にたがってる奴に素直に死なせてやるほど優しくないんだ、と。
違う、私は守りたかっただけだ。父の名誉とキングに挑んだあの背中を今でも思い出す。それをなぞって戦いを挑むだけだ、戦士として最高の誉れだ!
そう言いたかった。
言えなかった。
「私は、弱いな……」
「あら、そうでもないでしょ。あんた結構強いと思うわよ」
「誰だッッ!!!!」
振り向いた先にいたのは、赤い髪、豊満な肢体、赤黒い翼をもつ魔族。ザザ――いや、それは擬装していた名前だったか。ザザ(仮)がいた。
「貴様、死んだはずでは……!?」
「はぁーい、テンプレな対応ありがとうー。ホントバカみたいじゃないあんたら? 魔族の私があんなクソみたいなガキの放ったクソみたいなざっこ魔法にやられるとか本気で思ってたの? そんなんだから雑魚雑魚ざぁーこなのよ!! あんたの親父みたいにね!!」
「そうか死ね」
抜剣、そして切りかかる。耳長の剣術は独特だ。シルフィーネのように舞い、サラマンドラのように切る。美しく、そして力強い剣を――しかし魔族はひらりと躱していた。
「ざぁーこ! ほんとざっこいわよねぇ。あんたらの使う剣術なんてもう見飽きてるのよ。いまさらそんな顔したところで当たるなんて」
「付与疾風」
「あっぶなぁあああああああああいいいい!!!」
避けられた……いやすこし掠った程度か。だが追いつめられるな。どこで見たのかは知らないが――いや潜入していた時にでも剣士の稽古を見学していたのだろう。だからと言って我々がたやすく負けるとも思わないが。
「はぁ、はぁ……け、けっこうやるじゃない」
「そうか」
「あっちょっと、ちょっと待ちなさいよ! 私がなんでここに来たとか気にならないわけ!?」
「いや?」
「なんでそんな『え? いや別にこれから切り殺すからお前のことなんか知らないけど? 話とか切った後にすればいいよね! わぁい解決!』みたいな顔して剣を構えてるのよ! やめてよ! 死んじゃうでしょ! 私は裏方なの!」
「ふん、この私の前に現れたということは、お前は戦士なのだろう? だからこそ、このタイミングでこの私の前に現れた……つまりお前は切ってもいい。そういうことだな?」
「頭が完全にバーサーカーというか人斬りなんですけどぉ!? ああああもおおおおだからこんな蛮族どものところで工作なんて嫌だったのよ!! 頭おかしいでしょ! なぁにが『戦士なのだろう? ならお前は切ってもいい。そういうことだな?』よ! この蛮族! 蛮族クイーン!」
というか、こいつの目的など明確だろう。狙いはこの堤防……作戦の要を破壊しに来たとしか思えない。まあわざわざ私に声をかけてきたのは謎だが。戦士だから……というわけでもなさそうだ。こいつの身体能力自体は高いが、特段気にすることでもない。注意すべきはあの肉体変化能力とでもいうべき耐久性だろうか?
「で? なぜ貴様は今になってここへ戻ってきた、ザザ(仮)」
「ぐ、この……ま、まあ目的くらいわかってるでしょ? あの勇者君の殺害もしくは傀儡化よ」
「勇者……キリトのことか。殺害とはなぜだ? そこまでするほどの男ではないと思うが? やつは口は悪いし性格も悪いが根は正しいものだと思ったぞ」
「はーまったくこれだから外のことを知らない蛮族ちゃんは。いい? これまでに勇者が何度召喚されてきたか知ってる?」
「勇者……召喚? ――!! 禁忌召喚魔法のことか! 確か五百年前と千年前に記録が残っていたな。里の爺たちならなにか覚えているかもしれんが」
「そ。勇者召喚――それは今は滅亡したある王国の残した災害の爪痕。禁忌とされるにはそれ相応の理由がある。今まで召喚された勇者は六人。これは確認された数よ。そしてそのたびに――世界を混乱に陥れ、退廃させている。それが勇者。異世界からの侵略者よ」
だから、あの男を殺すのを手伝ってくれない? そう、目の前の魔族はこちらへ手を差し伸べてきたのだった。
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