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テンプレチート転生最強剣士、平賀桐人は今日も征く  作者: †闇夜に浮かぶ漆黒の平賀桐人†
2章 女神、それは見守るもの
20/24

9.平賀桐人、契約を結ぶ

最近は暑かったり寒かったりして大変ですよね。

体調には気をつけてください。

「このクソ(なまず)!!」


 魔法使いが吠える。

 俺たちが相手をしているのは今回の討伐対象である、水巻き鯰(ウンディーノシューロ)だ。こいつは沼地に多く出現するかなり大きな鯰で、大体子牛くらいの体長の魔物だった。


 魔物――この世界には魔物と呼ばれる存在が多数いる。神秘学者としてはかなり興味を惹かれるワードだが、どうしてそう言った化け物が蔓延ることになったのか疑問が尽きない。まぁとにかくこの魔物とやらは、元ネタになった生物及び存在の性質をある程度受け継ぐということが分かった。このよくわからん鯰もそう。水巻きという言葉から何かしらの水に対する加護でも受けた鯰が魔物になることによって発生したのかとも思ったが、実はそうではない。数日観察した結果、こいつは、実は精霊のなりそこないであることが判明した。このような醜い鯰の姿になってしまうのは、土地の影響を受けた結果、その土地で過ごしやすいように自分の性質を変化させてしまうからだった。精霊が自分自身を変質させるなどもはやホラーの域だが、概念の昇華存在である精霊になろうとした『何か』が影響されやすいものだったのだろう。昇華の途中で邪魔され、変性してしまった哀れな精霊のなりそこない。それがこいつの正体だ。


「もおおおおおお!!」

「落ち着いて! あいつが沼から出てきた時が狙いどころだよ!」


 魔法使いという職業は冷静さを求められることが多い。魔法を使う際に隙の多い彼らは、できるだけ被弾しないように立ち位置を調整し、射線に味方を巻き込まないように常に戦況を予測し、敵の隙をいつでも穿てるように注意して気を張っていなければならない等、精神的に優位に立たなければいけないのだ。その点、彼女はまだ未熟と言えよう。未熟も未熟、半熟ですらない卵だ。


「潜るなこの鯰めええええええ!!」

「落ち着いて! ねえ!? 人の話聞いてる!? ちょ、おい! 聞いてるのかって! おい!!」


 片や泥まみれでぶち切れている少女と、片やなだめようと必死でぶち切れている勇者。それを見ながらおろおろとしている神官に後ろで見ながら笑っている俺。だめだ。面白すぎて腹が痛い。


「…………なに笑ってんのよアンタ」

「ひぃっふふふ! い、いや、随分いい女になったじゃないか? こう、流行りの芸術みたいな? あっはははは!!」

「ぶっ殺してやる!! お前絶対ぶっ殺してやるからな!?」

「落ち着けよ!! キリトさんじゃなくてあの鯰殺せよ!!」


 やめろ。マジで笑い死ぬからやめろ。なんで敵を目の前にしてコントできるんだお前ら。俺を殺す気か? 殺す気でしたねそこの泥まみれ魔法少女。


『いい加減にしてくださーい!』


 ゴン! っと、頭に固いものが叩きつけられたような音が鳴り響く。神官の少女が手に持っていたバトルメイスで勇者と魔法使いを殴り倒したからだ。痛そう。


『もう! 敵が目の前にいるんですよ!? 二人とも遊んでる場合じゃないでしょう!?』


 そう言って彼女はもう一度勇者と魔法使いの頭を殴りつけてから襟元を掴んで揺さぶった。いや、二回殴る必要なくない? なんで殴ったのこの子?


「はい……」

「ごめんなさい……」


 二人とも目がうつろだ。おそらくこの神官の福音を受け入れ身体と思考が支配されているのだろう。……勇者と言えども自分を召喚した神の分霊を宿す現身に力を使われては抵抗などできはしない、ということか。まさしく操り人形だな。


『あ! ……もう、二人とももっと頑張ってくださいよぅ……はぁ。もういいです、私が行きますからついてきてください!』


 てや! と駆け出す神官。そしてそれに続いて走り出す勇者と魔法使い。沼から顔を出し、様子を見ていた巨大鯰は接近する神官を確認すると臨戦態勢に入る。それを確認した神官は自身にブレッシング――祝福の奇跡。敵の攻撃を躱しやすくなったり、自分の攻撃が上手く威力が乗って躱されづらくなったりするような運命を引き寄せる奇跡――を使用して、バトルメイスを握りしめ、渾身の一撃を放とうとして――転んだ。


『へぶ!』


 うわ、顔面からいったよ。その上を通り過ぎるのは鯰の尾の一撃。隠れていた巨大な下半身から打ち出される斧のようなそれを躱すために、運命を味方につけた彼女は転んだのだろう。なにもあそこまで思いっきりいかなくてもいいのではないかと思うが……。


 そして彼女が止まったことにより、後ろの二人も自然と止まる。何より、二人の目に輝きが戻り、支配から解放されたことがうかがえる。なるほど、確かに彼女が戦うよりもあの二人に戦わせたほうが効率が良いし、どう考えても後衛が敵と接近戦するなどアホの極みでしかない。彼女の運命は彼女を戦わせない方向で決まったようだ。


「え、あ、あれ? ウィンディーノシューロが目の前に!?」

「うそ!? ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 私後衛なのよ! ってかマリアはなんでそんなところで転んでるのよ!!」

『痛いですぅ……』

「あはははははははは!! た、戦えよ! お前ら! はははは!!」

「クソが!! お前が戦えよパンクソ!!」


 もうだめだ。笑って前が見えない! 雑魚魔法使いが何か叫んでるようだが、自分の笑い声で聞こえなかった。もう一度言ってくれ! 高笑いして馬鹿にしてやるからさ!!


 と、そこで。


「くっ、仕方ない! ()()()()! あいつを止めて!」

「承知した」


 渋い声で近くの沼から豚が飛び出す。奴の名はイベリコ。ブードンというオークさんの進化個体……ランドンの戦士だ。そう、先日勇者パーティーに襲い掛かったあの豚である。勇者を倒したことからこれは使えると思い、ぶちのめして勇者の強化に使っていたのだが……いつの間にか人間の言語を覚え、勇者と使い魔契約を結んでいたようだ。


「ぬん!!」

「はぁっ!」


 二方向からの斬撃を受け流そうと必死な鯰。その隙を見逃さずに膨大な魔力を練り上げる魔法使い。少しでも気を緩めれば三枚に下ろされそうな気迫を纏う戦士二人に沼に潜ることができないため、憎々しげににらむしかない。そして――


「日輪よ、焼き尽くせ。天より落ちし灼熱の徒花!」


 一瞬の閃光と共に打ち抜かれる鯰の額。頭蓋に大きな穴を開けた相手は、大きく体を震わせると力を失って倒れこんだ。瞳からは力を失っていることがわかる。完全に死んでいた。まああれで死なない生物など一握りしかいないのだから当然だろう。逆に言えば死なないのならそれはそれで対処のしようがあるのだが。


『……』


 泥まみれになった神官がこちらをじっと見つめてくる。わかっている、大丈夫だから心配するなよ。そう睨むんじゃない。特にその女神ミィアフォルテの眼光はすさまじいのだから。


「ミツル、無事か?」

「ありがとうイベリコ。君には助けてもらってばかりだね」

「なに、戦士として未熟なお前を助けるのは群れの者として当然だ。それにお前は筋がいい。すぐに強くなる」

「ふふ、そうかい? ありがとう」

「くっ!? 勇者が豚に助けられるなんて……!? ぐぎぎぎ……私の中の勇者像が崩れてくぅぅぅぅぅ!!」


 女神ミィアフォルテと神官の少女マリアと交わした約束、それは勇者を鍛え、この世界の希望とすることだ。俺がその見返りに求めたものは大したものじゃないが、それでもこちらにとっては重要なこと。これぞビジネスライクな素晴らしい関係だ。












 ――数日前。


「それで、どうしてあなたは勇者に目を付けたのですか? 異邦人よ、答えなさい」

「ふん、流石は神と言ったところか? 分霊でも魂の色を見分けられるのか。その通り、俺は女神アダマスに選ばれし者、勇者でもなく魔王でもない、救いをもたらす者だ。覚えておけ、俺こそが人類の絶対的な味方だ」

『もぐもぐ。あ、お紅茶がおいしく淹れられましたよ~』

「いただこう」


 一旦剣を収めた俺は、マリアという少女とそれに憑いている女神ミィアフォルテとの三人……二人と一柱でお茶をすすりつつ会議をしていた。


「俺が勇者を発見したのは偶然によるところが大きい。まあ、物の流れが多い国だ。どこかしらかに勇者の情報は落ちていると想定していたが。商人のネットワークを使えばすぐに情報は手に入る。精度はともかく、彼らは機を見るに敏感な性質を持っているからな」

「ふん? ねっとわーくというものが何かは分かりませんが、確かに商人は情報を主な武器として扱ってますからね」

「そして勇者を鍛えている理由だが……俺は人類の守護者にして救済者だ。その俺が同じ人類の助けになるように鍛えて何が悪いというのかな?」

「不十分ですね。ここ数日観察していましたが、あなたはそのような確実性の低い手段はとらない性質でしょう? 本当の理由を吐きなさい」


 まったく、疑り深い女神だ。これも理由の半分だというのに……これだから無駄に長く存在している神という存在は面倒なのだ。それに少女を依り代にしている点もいただけない。この子が十分耐えられるほどの力の持ち主だったからよかったのものの、本来ならすぐに魂が蒸発して死んでいるため、神の憑依という神代の奇跡でも命がけの奇跡を使わせるなど邪神判定してもおかしくない。


「本当……というか、理由のもう半分はある。それは()()()()()()()()は彼だからだ」

「は? …………意味が分かりませんが。ふざけたことを言ってごまかそうとしても無駄ですよ。こちらには嘘を判別する奇跡があります。マリア」

『えぇ~? 嘘言ってないですよぉ。私もう結構ヘロヘロですし、ちょっと勘弁してほしいかなーって』

「マリア! これは大切なことなのです! 私が召喚した彼に何かあれば魔王の思うように世界が改変されてしまいます!」


 ふむ、そこまで強制力がないのか。……いや、この少女の力が強すぎて神の権能――と言っても、劣化した権能のそれも一部――を使用しても支配できないのだろう。まさしく奇跡。この少女が生まれてきたことこそが至高の奇跡だ。おそらく世界が用意した何らかのカウンター。元居た世界の俺と同じく、世界によって望まれて生まれてきた天然の化け物ということか。俺とは違ってひねた性格をしていないようだが。


「主人公というのはあながち間違いではないだろう? ――私が召喚した、と言ったな? つまり、彼を拉致してきたのは貴様ということだ。そんな悲劇の勇者が神に権能を渡され、この世界の知りもしない赤の他人のために命を削っている。これが主人公でなくて何だというのだ? ハッ、今どき三流小説でももっとまともなものを書くぜ? 馬鹿にしやがって。これだから貴様ら神は嫌いなんだ。人間の命をなんだと思っている」

「ら、拉致!? これだから野蛮人は嫌いなのです! 勇者であるミツルの崇高な目的を理解できないなんて……」

「崇高? じゃあお前がやれよ。いいか? お前がやっていることは気にくわない相手を殺すための暗殺者を育成しているだけだ。それも自分が守らなくてもいいような使い捨てのな。それから、彼の目的ではなく、貴様の目的を彼に押し付けているだけだろう? お前が召喚しなければ彼は魔王を倒すなんて頭になかったはずだ。違うか?」

「屁理屈を……! ミツルには召喚したときにその意思を問いただしました! 彼には魔王を倒す意思があります! あなたに口を出される筋合いはありません!」

「論点をすり替えるな。事実だけ挙げていこうか。まず一つ、勇者ミツルはこの世界の住民じゃないため、例え死亡してもお前たち及びこの世界事態に損害はない。二つ、彼の意思はいきなり召喚されるという珍事に出くわしたため、混乱状態のところに提示された条件であるため、信頼性が薄い。魔法なんて自分の身に起きたら年頃の男子高校生なんて興奮するに決まってるからな。三つ、彼の為す仕事に対して正当な報酬を支払うべきであり、事前に提示していない契約など詐欺である。四つ、彼を召喚したために被った被召喚側の世界に対する損害賠償を支払うべきであり、そうでないのなら確実に拉致であると言える。まだあるが、とりあえず以上のことからお前のすた行為は拉致監禁、ついでに洗脳に殺害教唆などだ。最低だな」

「……………………」


 黙ってしまった。向こうにも言いたいことは山ほどあるだろうが、こちらが論理的に反論しているため、感情的になってしまっても自分が負けだと感じているのだろう。俺の言い分にも多分に感情的な面があるが、やはりこうした対話は尊重すべきである。例え人間の心理を理解できない化け物であろうとも、対話こそがお互いの理解を深める一歩になるのだ。


『もうやめましょうよミィアフォルテ様。彼に口で勝てるわけないでしょう?』

「……どうやらその通りですね。こちらがどんなに訴えても屁理屈で返されるなど……」

『えぇぇー? どう考えてもキリトさんのほうが論理的で筋が通ってますよ? 私も言われれば確かにって納得しちゃいましたし。例えばミィアフォルテ様は、もし私がどこかの世界に召喚されて魔王を殺させられそうになっても何も感じないのですか?』

「それは……! っく!」


 ほう? 一応の収束はつきそうか。


 それから、俺が求めたのは勇者の権能を封じることと彼を無事に元の世界に帰すこと。神々のくだらない争いから遠ざけること。そして、女神アダマスへの取次ぎを行うこと。

 ミィアフォルテが求めたのは彼を鍛え、この世界の希望の象徴とすること。これはもちろんだった。彼を無事に元も世界に帰すためには、この世界は危険が多すぎる。それから可能な限り魔王討伐の手伝いをすること。これもまた是である。魔王は話を聞く限り人類の敵だ。例えどんなものであろうとも、人類の敵はつまり俺の敵だ。


『以上を以って契約とする』

「いいだろう」

「ふん、あなたが本当に契約を守るか甚だ怪しいものですが」


 言ってろ。とにかく、そうして俺と神ミィアフォルテの契約は完了した。特にこの国に来た目的の一つである女神アダマスへの取次ぎを頼めたのはでかい。どうして神殿に忍び入ってやろうか考えていたところだった。最悪神殿を爆破することも考えていたからな!


『よし! じゃあお茶会ですよ! お茶会しましょ!!』

「まったく……この子には気を抜かれるな」


 こうして、一つの契約を終えた俺は魔物を討伐し、帰路へとつくのだった。

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