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テンプレチート転生最強剣士、平賀桐人は今日も征く  作者: †闇夜に浮かぶ漆黒の平賀桐人†
1章 主人公、その立ち位置について
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2.平賀桐人、にんじんを切る

ついに異世界に転生したキリトの力が目覚め始める――――!

「キリト! 下がって! 魔法使いが一人で相手にできる野菜じゃないです! あれは赤の戦士、そのヘタの一振りは熟練の剣士の一撃に相当するとも言われている怪物……ここは素直に撤退しましょう」


 目の前には赤の戦士……もとい、にんじんが立ちふさがっている。一度だけ写真でヒグマを見たことがあるが、こいつはその写真のヒグマよりも大きく感じた。実際に目にしたからそう思うだけかもしれないが、プレッシャーは想像以上だった。

 ……本当に今からこいつと戦うのか? 一瞬弱気に包まれそうになる。しかし、俺も男だ。一度口に出したというのにここで引き下がったらなんのために前に出たのかわからない。

 とはいえ、見る限り固そうな外皮を纏ったにんじん相手に素手では無理がある。使える武器が必要だ。周りを見渡しながら、今の俺で使えそうな武器を探す。周囲には人の気配がなく、残っているのは住人が退避した家ばかり。当たり前だが、普通、民家に武器など――この場合は剣や弓が――置いてあるはずもなく。何かないかと考えていた時に閃く。


「問題ない。俺は――――最強だ」


 そうして俺はピンボールのように弾き飛ばされた。







「キリトッ!」

 最初は変な服を来た貧相な魔法使いとしか思っていなかった。だが、彼と話すうちに理知的な考えと一つの物事から多数を理解するその洞察力、そしてどこから湧いてくるのか不思議でしょうがない無駄に圧倒的な自信に興味を示している自分に気が付いた。

 耳長族は美意識の塊であり、それぞれ求める美が違う。あるものは自分の容姿に美を見出し、あるものは肉体の練度に美を見出す。その中で私は……知に美を求めた。もちろん、私も耳長としての誇りに則り外見的な美も重要視していたが、やはり、私は知を求めるのだろう。それが耳長としての性だった。

 そのため、日々を過ごしていく中で突然現れた異物に興味を示すのは耳長として仕方がないことである。早々に結論付けた私は、彼を拘留中の牢に見張り番として志願した。

 ――そう。実は拘留中の罪人と話すのはあまり褒められた行為ではない。それが少しでも黙認されていたのは、自分の求める欲求を解消しなければならない耳長の習性を理解されていたのと、彼があまりにも不思議な旅人――いわゆる異邦人(てんせいしゃ)だと考えられたからだ。

 彼らは私たちを『エルフ』と呼ぶ。それが今まで確認されていた異邦人の共通した特徴の一つだ。なぜエルフなのかはわからないが、彼もそう呼んでいたし、おそらくは異邦人なのだろう。彼の話の中にも理解できないものがたくさんあった。鉄の塔や鉄の馬車など、今の人間の技術力では到底再現できないであろう。


 少しの時間だったが、彼と話すのはとても刺激的で、まるで英雄アンドロラージの冒険譚のように心が躍るという体験ができた。同世代の耳長は皆彼のような知的な者はおらず、長たちが話すようなことは大体覚えてしまっていた。そんな中、彼は私に新しい知識を与えてくれたのだ。子育てをするアンガルダのひな鳥のように彼になついてしまうのも当然だった。彼は私の話も聞き流さず、時には鋭い指摘で助言を与えてくれることもあった。ああ、なんて理知的で素敵なひと時だったか!


 ……今思い浮かべれば、もうこの時には彼に惹きつけられていたのだろう。できればこのまま彼が一生牢の中にいればいいとさえ思っていた。そんなことあるわけがないのだが。

 その彼が今まさに弾き飛ばされて、民家に突っ込んでいった。一瞬だった。何も見えなかった。土ぼこりをあげる民家の中に彼がいるのだけは分かる。いや、だめだ。何もわからない。


「くっ! 今のうちに撤退するぞ!」

「え……? で、でもキリトが……」

「何のために彼が身を挺して囮になったと思っている!? 安心しろ、彼はおそらく無事だ!」

「そんなことわかるわけないでしょう!? 家を破壊するような力で弾き飛ばされたんですよ! 生まれたばかりのオークだってもっとまともな言い訳を考えつきます!」

「ユー!」


 私は無我夢中で飛び出した。キリトを追って家に向かう赤の戦士を止めなければ。最低でもこいつを倒せばキリトをあの中から探し出して逃げる程度の時間は作れるはず!


「くっ! これでもくらえ!」


 走りながら準備していた火炎魔法をその赤い面にぶちかます。私は知っているのだ。赤の戦士は凶悪な面で赤く強固な表皮を纏っているが、熱に弱い。主にその頭頂部に生えているヘタを狙うと弱体化するということもだ。もちろん、私の未熟な魔法では具体的に狙うのは難しいため、顔のあたりを狙うことでヘタにも延焼を広げる算段だったが……


「効いて、ない……」


 それも当然のこと。熟練の戦士の一撃にも匹敵する攻撃を放てる強靭なヘタに、それ以上の硬度を持つ外皮。一度の火炎魔法で仕留められると考えたのが誤りだったか。ならば――


「ユー! 何をしている!」

「今のうちにキリトを探し出して! 今度は私が囮になる!」

「馬鹿を言うな! お前はもっと冷静で理知的な子だっただろう! シルフィーネの捨て子にでもなるつもりか!?」


 本当に厄介な! これ以上ない作戦だというのに私の言うことも聞いてくれない。これだから知の巡りが悪い大人は嫌いなのだ。そうこうしているうちにキリトを探す時間も短くなってしまう!

 早くこいつを倒さなければという焦りも伴い、火炎魔法を次々と叩き込むも、時間ばかり消費している気になってくる。こいつらの援軍はいつ来るのか? 赤の戦士だけでも手一杯なのに、追加が来たら本当に撤退しかなくなる。

 それは、いやだ。


「…………っちぃ! どうなっても知らんぞ!」


 どうやら援護してくれるらしい。こいつを早く倒せばその分キリトを探す余裕も出てくる。それならそれでいい。私は彼に牽制を任せ、仕留めることに集中するだけだ。


「――理を統べる(風よ、火よ、)大いなるものよ(水よ、土よ、)我が詩を聞け(どうか応えて)


 腕がちぎれそうな突風が吹く。それでも、


この空を支配する(天よ、雲よ、)強きものよ(我らがシルフィーネよ)我が声を聞け(どうか応えて)


 はじけ飛びそうな魔力に体中が悲鳴を上げても、


「神の怒りよ、落ちよ! 我が眼前の敵を滅ぼせ!」


 たぶん、ひとめぼれだったから。


天の(ロ・ライネス・)怒り(ライディーン)!」


 お前は許さない。死ね。


 天から私の怒り(かみなり)が落ちる。目も明けられないほどの光とシルフィーネの悲鳴のような強烈な音とともに、この魔法は炸裂する。私の使える最高位の魔法であり、威力と速さを追求された故に開発された魔法だ。逃げることもできなかっただろう。少しばかり準備がいるが、昨日雨が降ったばかりでよかった。その準備も幾分か短縮できた。


 当然、私の怒りを買った哀れな赤いゴミは――――灰の一片も残さずに消滅したのだった。


「すさまじい魔法だな」

「当然」


 そんなことよりキリトを探さないと……!

 そうして振り返った私たちは、絶望的な状況を目にする。


「えっ……?」


 私たちを囲むように立ちふさがる赤の戦士の群れ。ケタケタとふざけた笑い声を上げるそいつらは、呆然とする私を嘲笑っているようだった。


 そんな……時間切れだったなんて……


「ここまで、か」

「…………」

「だが、好都合だ! 我が肉体にかけて、一匹でも多く貴様らを粉砕してやる!」

「そうだな。じゃあやるか」


 キリト……ごめんなさい。私は……………………

 …………ん?

 あれ?


「いや、大量だな。根菜如きに笑われるとは癪だが、まあいい。かたっぱしから切り刻んでやる」

「む! お客人、その手にあるのはナイフか? そうか、それを探していたのか」

「ああ。ちょうどよさそうな武器がなかったからな。家の中に突っ込んでいったから、流石に探すのに手間がかかった。あぁ、後で返すから心配しなくていい」

「え? き、キリト?」

「おっと? お前まだ逃げてなかったのか? この世界のエルフは随分好戦的なんだな……こんな幼い子も逃げないとは」


 幼くはない。エルフの感覚から言えば、世間一般よりも精神的に成長しており優れているはずだ。幼くはない。


「そ、そうじゃなくて! あなた、あの赤の戦士にやられたんじゃ!?」

「ユー。彼は無事だと言っただろう。攻撃を受けるときにうまく力をいなし、自分から飛んでいたからな。一流の戦士と比較しても引けを取らない動きだった」

「え゛」


 そ、そんな…………

 そういうのは、早く言って欲しかった……






「ふぅ……やれやれだな。こいつらいったい何匹いるんだ? 害虫のごとく現れやがって。まったく、不愉快極まる」

「ここまで集まるなどほかに例を見ないがな。おそらく近隣の野良も混じっているのだろう」


 野良とかいるんだ。野菜に野良とかいるんだ……

 まあ、いい。なんだかんだ言っても所詮は野菜だ。少しばかり先ほどの戦闘を見学させてもらったが、こいつらの動き自体は鈍重で、攻撃そのものは重いが、基本ブンブン丸だった。まあ当然だろう。こんな変な形をした謎野菜が剣豪張りの動きを見せたらそれこそ悪夢だからな。

 とにかくヒットアンドアウェイを心掛けて、各個切り刻むことに専念すべきか。


「さて、お前らは自分の身を守っていろ。俺が前に出て仕留める」

「援護は?」

「ご勝手に」


 クソイケメンエルフの腕は一流と言える。先の戦闘の際も、ユーフェイの動きを邪魔せずににんじんの動きを的確に止める矢を放っていた。恐ろしく鋭い矢を放つ射手だ、俺でなければ見逃していただろうな。援護するというのも奴らを甘く見ているつもりではなく、あくまで子供を守りながらも援護が可能だからこその余裕。相当自分の腕に自信がなければ言えはしまい。


 まあ、俺が全て片付けるんだが。


 ふっ、という呼気とともに駆け出す。右手には包丁、左手にはナイフ。これが俺の今の最強装備だ。なんともかっこいいじゃないか? こんな化け物野菜を相手にするにはちょうどいい。


「今度はこちらの番だ」


 一閃。


 それだけで目の前にいたにんじんの頭が飛んだ。

 俺に接近されたことに今頃気が付いたのか、周囲の仲間が慌てて距離をとる。ふっ……遅すぎるぞ。その程度で俺の剣から逃げ切れると思っているのか? ――だとしたら、認識を改めなければならないだろう。こいつらは化け物野菜などではなく、臆病な生ごみだと。


「さあ、収穫のじかんだ……!!」


 駆ける、駆ける、駆ける。縦横無尽に刃物――否、剣を操り、でかいにんじんを切り裂いていく。見る間に細切れになるにんじんどもは、無様に抵抗するだけの生ごみとなっている。死角から俺を狙おうとするやつは、弓使いのエルフの援護によりその尽くが阻まれていた。


 そして、気が付けば――辺りはにんじんどもの体液で赤く染まっていた。所詮は野菜、真の力に目覚めた俺にかかればこの程度たやすいことよ。


「キリト!」

「問題ない。片はついた」


 見ればイケメンクソ射手とマセガキがこちらへ来るところだった。ユーフェイは正直いてもいなくてもあまり変わらなかったが、射手の男はやはりかなりの使い手だったようだ。彼らの待機していた場所にはにんじんがばらばらになって転がっている。弓で接近戦ってどうやるんだ……?


「やはり強いな。お客人、こちらへ来る前にどこかでその勇名をはせていたのではないか? やつらは動きが鈍重とは言えそう簡単に勝てる相手でもない。見ろ、シルフィーネの怒りのようだ」

「ふっ……まあな」

「やはりか……それは重畳。お客人が――失礼、キリト殿がこちらにこられたのも本当に女神アダマスの思し召しということだな。素晴らしい……シルフィーネの愛し子というわけだ」

「ああ……まあな」


 抱き着いてくるユーフェイをあやしながら射手の男に適当な相槌をかましていく。まあなんとかなるだろう。何せ俺は女神に選ばれし男だからな。よくわからんがなるようになる。ガナビーオーケーというやつだ。


 そうこうしているうちに急造の対策本部とやらについたようだ。入口からもわかるくらいに喧々囂々と意見が飛び交っている。蛮族どもの考えなど休むに似たりと言いたいところだが、彼らもこのようなことに対する経験があるのだろう。素人の俺が出しゃばっても会議の進行を妨げるだけなのでおとなしく隅のほうに座っておくとしよう。

 と、その時隣にいた射手の男が一歩前に出る。何をするつもりだと目線で問いかけると彼は軽くうなづいて、手を大きく打ち鳴らして注目を集め始めた。

 いやホントに何してんだお前。


「皆の者、聞いてくれ! こちらの異邦人キリト殿が我らの手伝いを買って出てくれた! 彼の腕はこの私が保証しよう。先ほども赤の戦士を尽く蹴散らしていた、素晴らしい筋肉を持った熱い男だ! さあ、彼にシルフィーネの祝福を!」


 会議場から驚きと困惑のざわめきが漏れる。いまだにまとわりついて離さないユーフェイは置いといて、その場にいたほぼすべての美形がこちらを一斉に向き、希望を持ったような目で見てきた。おい、そんなこと一切聞いてないぞクソエルフ。了承もした覚えがないぞ! お前から解体してやろうかこの蛮族が!


 …………まあ、いい。

 俺は選ばれし男だ。ここまでの経緯に納得がいってなくても、異世界で最初に遭遇したのがこんな美形だらけの蛮族どもの村でも、俺はこいつらを救ってやる義務がある。だから言ってやった。


「自分でやれよ蛮族ども」


 あ、間違った。

ユーフェイちゃんは御年12歳です。

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