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テンプレチート転生最強剣士、平賀桐人は今日も征く  作者: †闇夜に浮かぶ漆黒の平賀桐人†
2章 女神、それは見守るもの
18/24

7.平賀桐人、勇者を鍛える

新しく小説も執筆しました!

雪女といちゃいちゃするだけの話です! え? 不定期ですよそりゃあ

https://ncode.syosetu.com/n5176ey/


今回は勇者PTの魔法使いちゃんの話です

「なんでお前たちは好んで自分が傷つくような行動に出るんだ? ほら、そこ足を止めるな。死ぬぞ。むしろ殺す気で行くから死ぬ前に避けろ。当たったらごめん」

「死ぬ死ぬ死ぬ! マジで死ぬから!! 助けて神様ぁあああああああ!!!!」

「神頼みはママの腹の中に置いてこい。お前はあんよが上手だろう? ほら足が止まってる!!」


 逃げ惑う勇者とそれを追いかけるように甚振る青年――その名もキリト。彼の顔にはサディスティックな笑みが浮かんでおり、明らかに現状を楽しんでいた。


 現状……そう、今は水巻き鯰の討伐任務の最中だというのに、彼らはこんなことをして遊んで……いや、勇者は必死に逃げているが、あの悪魔のような笑みを浮かべた青年はそれを見て楽しんでいた。


 始まりはいつもの通り、勇者ミツルがその正義感によって田畑を荒らす猪武者(ブードン)――荷物持ちはオークと呼んでいた――を斃した時だ。そこまでは問題など何もなく、あのクソ野郎も普通に解体と荷物持ちをしていただけだった。しかし、さて進もうかという時にあの男が言ったのだ。「先ほどよりも強い個体が近づいてきている。逃げろ」と。今思えばあの言葉に従っておくべきだった。だが、その時の私はあいつの言葉を何も信用しておらず、水巻き鯰(ウンディーノシューロ)や魔物に怖気づいていると思ったのだ。だから私は「怖気づくなら一人で帰れば? あんたなんていてもいなくても変わらないんだから」と挑発してみた。ギルドで私を挑発してきた仕返しだ。しかし、あいつは特にその挑発にも乗ることなく「手は貸さない」とだけ言ってついてきたため、私は迂闊にもちょっとは意気地があるようだと見直してしまった。


 そして、私たちは横合いから現れた魔物に蹂躙された。


 それは猪将軍(ランドン)と呼ばれる通常のブードンよりも上位の個体。通常のブードンが戦士として成長し、集団を率いるほどの傑物になってしまった時に成る上位種だ。単体の強さで言うなら三つ星級の大物。こいつがブードンを率いた時の脅威としては四つ星になる。

 通常、ブードンは人間より少々大きいほどの体格で、横幅が広く田畑を荒らして食料をむさぼることを目的としている。時には棍棒を使って人を襲うこともある魔獣だ。それがランドンともなると、ブードンよりもさらに大きく、鎧のような筋肉を纏い、棍棒を巧みに扱って一介の戦士よりもよほど強い個体になるのだ。それがどれほどのものかは三つ星という討伐難度が示しているだろう。


 当然正義の獣である勇者は奴に立ち向かった。私たちはそれを援護する(荷物持ちのクソ野郎はあくびをかましていた)が、未だに一つ星級の勇者ではランドンに敵うことはない。隙を見て撤退しようとした矢先に、逆に私が隙を突かれて体当たりを食らってしまった。荷物持ちの男の足元まで転がっていった私は、絶望的な状況でも諦めずに立ち向かうミツルの雄姿を見て――ただ殴り飛ばされる彼の姿を目に入れてしまったのだ。


 ああ、これはダメだ。勇者は立ち上がれずにいるし、神官戦士のマリアは何もないところですっころんでいる。荷物持ちなど先ほどから諦めているのか、一歩も動くことはない。くそ、くそ! こんなところで終わるものか! せめてあのクソ豚に一泡吹かせてやる! と、私たちの恐怖心を煽るためか、殊の外ゆっくりと歩いてくるランドンを視界に映し、そいつが荷物持ちに襲い掛かる瞬間に合わせて爆発魔法をぶち込もうとした瞬間、いつの間にか棍棒を持つ手を大きく振り上げたランドンの腹に荷物持ちの右腕が食い込んでいた。


「は?」


 それは当然の疑問だった。勇者も目を丸くしていたし、マリアもよくわからずに目をこすっていた。もちろん私も目を見開いていたが、一番目を剥いていたのはランドン自身だったと思う。


 ズドン、と腹に響くような重量感のある音をまき散らしながらランドンの巨体が浮き上がり、近くの木々をなぎ倒しながら吹っ飛んでいく。無様に転がったランドンは手足を震えさせながらもすぐに起き上がり、凶悪な顔をさらに凶悪に染め、まさに瞬間移動としか思えないような速度でまたもや荷物持ちの目の前に現れた。次こそ必ず殺す気だろう。まるで遊びが見えない一瞬のうちに荷物持ちの急所に狙いを定めて、


 そしてまた腹パンされた。


 またもや破城槌のような一撃がランドンの腹を穿ち、次の瞬間には荷物持ちの男が二歩ほど進んだ場所でランドンの顔を左手で鷲掴みにし、更に右腕を振るって追撃の腹パンをぶち込み、荷物持ちの左手を支点に振り子のような動きをしたランドンは迎え撃つ右手にまたもや腹パンされて吹き飛んだ。


 意味が分からない。まったく意味が分からない。なんだこれ。私は死の間際に夢でも見ているのだろうか? 何故無星の荷物持ちがランドンに腹パンできるのかもわからないし、何故腹パンをしようと思ったのかもわからない。その腹パンでランドンの巨体が吹っ飛ぶのもわからない。もうだめ、しにそう。


 荷物持ちが拳を振るうたびに泣き叫ぶランドンを哀れに思ったのか、ダメージから回復した勇者が突っかかっている。ほら、「いたずらに魔物を苦しめるのは看過できない」ですって。魔物にさえも慈愛の心を持ち合わせる勇者。まったく、魔物を殺す者として異世界から呼ばれたのにそんなんでこれから魔王を倒せるのかしら……。まあ、でも、なんというか、そういう優しいところがその……好きなんだけども。いや、別に私がミツルのことを好いてるとかそういう話じゃなくて、勇者として選ばれるほどの優しさがいいというかまあ優しいだけじゃなくてちゃんとその人のことを想った厳しさもあるし、ちょっと無鉄砲すぎることもあるけど勇者のくせにどこかこどもっぽいところが可愛いっていうか意外と仲間にしか本当の笑顔を見せない慎重さがあるしそれほど信頼されてるのも悪い気はしないっていうかまあぶっちゃけ好きなんだけどもそれはそれとして勇者は腹パンされた。


 いやもう勇者にすら腹パンするってどういうことよ!! 意味わかんない通り越して不気味なんだけど!! なんであいつ一介の冒険者のくせして勇者に腹パンしてんのよ!! むしろお前が勇者だわ!!


 ランドンの隣でうずくまる勇者と勇者の隣で震えているランドン。それを見下ろしながら仁王立ちしてよくわからない説教をし始める荷物持ちのクソ野郎。だめだ、この状況頭おかしくなりそう。なんであのクソ野郎は勇者相手にあそこまで強気で出られるのか? お前相手は勇者だぞ? いや、知らないとは思うけど、何となくわかるでしょ!? こう、なんとなくあふれ出る魔力がそう感じさせるでしょ! わかれよ! 格が違うんだよ! だからおま、また!! また腹パンした!! なんでお前そう気軽にミツルに腹パンしてくれてんだよ!!


 そして腹パンクソ野郎は何を思ったのか、震えるランドンに化け物のような笑みを浮かべながら近づき、最初よりも縮こまってしまった背中を蹴り飛ばしながら涙目のランドンをを勇者にけしかけさせ始めた。もちろん勇者は応戦しようとしたが、いくら勇者とはいえ先ほども負けた相手に勝てる道理はない。案の定、逃げ始める勇者と追うランドンと腹パンクソ野郎――パンクソ。パンクソは度重なる腹パンダメージで弱っているランドンをうまく操って掠る一歩手前に調整した攻撃をさせている。それも勇者のギリギリ躱せるような動きで。勇者がランドンの動きに慣れてくるとさらに調整した動きで攻撃させる。これにより、勇者は常に必死で動かなければならなくなった。


 本来ならば私――マダルタルマ・インセチア・リィンバイドが勇者を助けるための魔法を放ちあの憎きパンクソに天誅を下さなければならないのだが、先ほどのランドンの体当たりを受けたため、身体に力が入らないのだ。そして声も出せずにいるので詠唱もできない。すなわち、それはただ無力に転がっていることしかできないということを示している。今この場で最も無力なのは私だった。


 そんな私を心配してか、隣でマリアが必死に治癒魔法(ヒール)をかけてくれているが……正直効果は薄い。神官戦士の彼女は所謂悪魔祓いと呼ばれる術に長けているため、あまり治癒術は得意としていないのだ。元来、瘴気などを浄化するために私たちとともにいる彼女では、重体の私を完全に回復させることは難しい。しかし、それも長く続けば少しづつ力が戻ってくるが……マリアを横目で見ると、涙目になりながらも治癒魔法を放っている。が、魔法の効力が弱くなっているのが如実にわかってしまう。これでは戦闘に復帰できない……! 私は、私はあのクソ野郎に勇者が殺されるところを見ていることしかできないというのか……!





 そして勇者が逃げ始めてから二時間は経っただろうか。唐突にパンクソがランドンを蹴り飛ばし、勇者がそれを受け止めた。


「よし、そろそろ回避訓練も終わりにしようか。お前も疲れてきただろうし、俺もそろそろ楽しくなくなってきた。何が楽しくて豚のケツを追いかけなきゃならんのだ」

「あからさまに私情はさんでる!! 楽しんでるよこの人ぉ!? 悪魔! 鬼!」

「その通り。ミツル君、俺は君を鍛えるために心を鬼に、性格を悪魔に、そして思考を阿修羅にしてお送りしていこうと思う。――地獄へようこそ!」

「ひぃぃぃぃ!!」


 こうして、いきなり始まった勇者への理不尽な攻撃は、同じくいきなり終わったのだった。――と、なればよかったのだが……物陰に隠れて回復していた私の下へ戻ってきた勇者が言うには、どうやらこれから毎日これが続くらしい。おのれパンクソめ……!! 隙を見て必ず殺してやるからな……!!






 それからは、あの男の訓練は熾烈を極めた。

 私たちが寝ているところに「訓練だ」とか言って強襲を仕掛けてきたり、私は魔法使いだというのに何時間も走らされ、抗議をしようとしたら「訓練だ」とかぬかされ、あまりにも腹が立ったので魔法をぶつけてやったら「次からはもっと隠密性に優れるものか、相手を威圧するような魔法を撃ってこい。今のままでは中途半端だ」とか言われるし、勇者はなんかランドンと仲良くなってるし、なんだこれ。


「くそがぁぁぁあああああッ!!」

「う、うわ、何? どうしたんだ? ……ってセチアか。驚かさないでよもう」


 あまりの憤りに思わず叫んでしまうと、隣で寝ていた勇者を起こしてしまった。これはいけないと反省しつつも、やはり納得がいかない。なんで私が責められるのだ。責められるべきはあのパンクソだろう。


「限界よ、ミツル。あのパンクソを殺しましょう」

「ちょ、ちょっと待って! え? 何? なんでいきなりそんなこと言うの? ていうかパンクソって何?」

「あの男、朝から晩まで特訓特訓って……なんなのよ! 何がしたいのよ! 荷物持ちだろ!? 荷物持ってろよクソが!! 腹パンしてんじゃねえよクソ野郎!!」

「ああ、そういう……や、でもキリトさんのおかげで体力ついてきたし、悪い人じゃなさそうだし。セチアが言う荷物持ちの仕事もちゃんとしてくれてるよ? それに今日だって湿地帯の調査をしているときに魔物の強襲を気づけたのはキリトさんのおかげじゃないか。そう怒ることでもないと思うよ」


 良い笑顔で言う勇者。こいつの顔にはありありと浮かんでいるのが「いいから早く寝たい」という言葉だ。そんなもん私だって早く寝たい。宿屋のベッドでぐっすりしたい。でもダメなのだ。わかっちゃいない。あの男をこの世から消し去らなければ、私は後顧の憂いを無くして純粋に睡眠を楽しめないし、デザートだって夜しか食べられない。ならば倒すしかないだろう、あの腹パンクソ野郎を。


「いいミツル? おかしいと思わない? なんであの荷物持ちは急に私たちの前に現れたと思う?」

「仕事でしょ」

「そうじゃなくて、状況ができすぎてるのよ。私たちは今まであまり遠くには行かなかったし、この湿地帯の調査のために何日も泊りがけで過ごすこともなかった。そこへ現れたのがあのクソ野郎よ。当初は上から目線で頭のおかしい理論を振り回すただの雑魚だと思ってたし、意味の分からない挑発とかしてくるから死ねばいいのにって思ってた」

「えっ怖すぎ」

「でも実態はランドンを腹パンで簡単に沈めるほどの力を持っている無星。ランドンは単体でも三つ星級の相手よ。それを戦士でも何でもない荷物持ちが腹パンだけで勝てるとか、普通に考えて頭おかしいとしか思われないわ。あのギルドでそんな話をしてみなさい、馬鹿にされて笑われるわよ」


 ――実際は「ああ、まあキリトだしな。わかる」という反応を返されるのだが、それはまた別の話。


「それほどの強者が何故無星なのか、そしてこの湿地帯の調査という環境、それらを複合して考えた時、私はすぐに閃いたわ。あいつは『魔王軍の用意した暗殺者』だって」

「えぇ……」

「何処から嗅ぎつけたのかは知らないけれど、そう考えるとしっくりくるのよ。「初めて遠征をする私たち」の前に現れた、「無星なのにそこらの三つ星の戦士より強い荷物持ち」で、私たちを弱らせるために「訓練と称した拷問」を繰り返しているの。そして弱り切ったところを蹂躙するに違いないわ。ああ、憐れにも暗殺者に囚われてしまう可憐な私……そこへ颯爽と現れる勇者! そして勇者はこう言うの「随分とおしゃべりだな、魔法使い」って………………ひぃ!?」


 ぎりぎりと音がしそうなくらいに固まった首を後ろへ曲げつつ、振り向くとそこには月を背に笑顔の荷物持ちがいた。化け物のごとく瞳孔の開いた狂気迸る顔は、夜に会えば確実に連続殺人犯と間違われるだろう。事実、私も振り向いた時にはあられもない悲鳴を上げかけた。怖い。


「キリトさん!」

「ああ、軽く調査してたんだが、戻ってきてみればおかしな流言が聞こえてきたからな? ちょーっとお仕置きしとこうかな、と」

「ひぃいいいい! た、たしゅけて! しんじゃうわ! たしゅけてミツル!!」

「あ、僕もう寝るからうるさくしないでね」

「うるせえ、冗談だよ。寝てろアホども。…………あの神官はどこ行った?」


 すんすんと鼻え鳴らした荷物持ちはきょろきょろと見まわす。まさかこいつマリアまで手籠めにする気かしら!? なんてけだもの、なんて凶悪なやつなの! 絶対に許せない!


「マリアならあっちに行ったのを見かけたわ! 早く行きなさい!!」


 ごめんね! 後で敵は取ってあげるから許して!


「お、おう。そうか……なるほどな、確かにあの場にはあの神官がいた。そしてこの場には鼻につくにおいもしない。これは確定かな……ちょっと迎えに行ってくる。お前らはおとなしくここで待っていろ」

「マリアなら神官戦士ですし、彼女の魔力で魔物除けもできます。セリアよりは走るのも速いので、魔物と会っても逃げるくらいはできると思いますよ?」

「うん? あーそうだな。うんうん、まあなんだ、ぶっちゃけ信用ならん。ざっこざこのお前基準で話されてもな。まあそう遠くに行ってないだろうしちょっと行ってくる」

「そうですか、お気をつけて」


 はあ、これでやっと安心して眠れるわ。あんなのが近くにいたらいつ襲われるかわからなくて眠れやしないし! そのままドラゴンにでも食べられて死ねばいいのに!!


 次の朝から訓練量が倍になった。

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