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テンプレチート転生最強剣士、平賀桐人は今日も征く  作者: †闇夜に浮かぶ漆黒の平賀桐人†
2章 女神、それは見守るもの
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6.平賀桐人、勇者に会う

遅くなってしまって申し訳ありません。お詫びに何でもしますから!(何でもとは言っていない)

 アダマンテは女神アダマスを信奉する者が多い。それはこの国の成り立ちや、歴史などから分かるとおり、国が興る際に女神アダマスが関わる事柄が多かったためである。この国の王の権威付けには顔をだし、何か祭りがあればお忍びで現れ、たまにそこらへんの定食屋でバイトをしている……等々、割と人間との接触機会が多いのも一役買っているだろう。しかし代々の国王に宣言させているとおり、政治には絶対に口を出さず、統治にも手を貸すことはない。“神は人のために在らず、人は神のために在らず”とは彼の女神から賜った至言である。


 そんなことが書かれているガイド本を手に取りながら、男はため息を一つ。


「おっ、そこの格好いいお兄さん! 最近来たばかりかい? それならこの『アダマンテを歩こう』がお勧めだよ!」

「ああ、いや……これを一つ」

「おっ! お兄さんも好きだね~! 咲き誇る可憐な花! 麗しき肢体と恥じらいに染まる白いかんばせ! 開く前の蕾を閉じ込めた逸品だ!」

「そういうのいいから! 一つくれるだけでいいから!」

「はいよ~」


 男の右手にあるのはそう――――グラビア雑誌。売ってるのは当然神官。出ているのは女神アダマス。およそ神殿としてはあり得ない販売物に何かしらの狂気を感じる。なぜ女神がグラビアに出ているのか、男には全くわからない。というか、女神がこんな簡単に肌を晒していいのかとも思うし、そもそもこれを普通に売ってる神殿も頭おかしい。所と時代が違えば聖遺物として崇められてもおかしくない。


「なんだこれ……」


 男――キリトは困惑した。キリトには神の考えることがわからぬ。彼にできることはただグラビア雑誌を買うだけだった。


「これ絶対ユーフェイに怒られるやつだ」



 ――――余談だが、グラビア自体は結構良かった。








「キリト君、パーティーの申請が来てるわよ」

「ああ。じゃあいつも通りにやってくれ」


 受付嬢と短い会話を交わしながら手続きを進める。もうこの動作も慣れたものだ。一日に何度も依頼を受けることもあるため、依頼を受けるための誓約書を記入する枚数が人より多いからだろう。それでなくとも俺は元から天才的に学習能力が高いのだ。当然、この程度のことなど息をするよりも簡単にできるため、その時間を利用したその他の学習なども効率的に行える。例えば今見ているのは神聖術と呼ばれる神官戦士の必須終了要項をまとめた本だ。この本によると、これには神聖術と呼ばれる神官戦士になるための必須要項が書かれているらしい。ふざんけんな。


「はい、終わったわ。今回の依頼は水巻き鯰(ウンディーノシューロ)の討伐、およびその周辺地域の調査よ。……ってなに? キリト君そんな本読んでるの? 今度は神殿にでも殴り込みに行くの?」

「いやそういうわけではないが、いざとなった時に困るだろう? というか殴り込みってなんだ、俺は喧嘩屋か。俺にできることと言えば精々神殿を爆破できるくらいだ。……うむ。あの神殿程度なら今すぐにでも砕いて見せよう」

「おいやめろ」


 そんな素敵なジャパニーズジョークを叩きあい、さらりと指定された席に着くと、俺を待っていたのはきらりと光る笑顔がまぶしいイケメンだった。


 もう一度言おう。キューティクルが艶やかな黒髪を適度に伸ばし、爽やかな笑顔を浮かべたイケメンが両手に違った美しい花を侍らし、時折流れる美少女たちの熱っぽい視線に応えながら俺を待っていた。


 端的に言うとイケメンだった。


「やあ! 君が荷物持ちの人だね? 僕の名前はミツル! 今回はよろしく頼むよ!」

「ああ。俺は……キリト。よろしく」

「まあ安心してよ、僕がいるから君にケガはさせないさ」


 きらきらとした笑顔でそう宣言するミツル。……ミツルか、あからさまというかなんというか。この鼻につく感じは一体なんだ?


「そうか。じゃあ早速今回の段取りを……」


 と、そこで。


「あのさぁ。さっきから思ってたんだけど、あんた何様のつもりなの?」


 とミツルの隣に侍る美少女が口を挟んできた。なんだお前。帰れ。ここからは楽しい愉しいビジネスの話だろうが……!! 頭あっぱらぱーなのは依頼人だけで良いんだよクソが!!


 とまれ、そんなことを言えるはずもなく。しかし、急に口を挟んできたのは何故なのか。私気になります! ちょっと煽ってみるか。


「なんだお前、失せろド低脳の畜生が。のっけからけんか腰か? 買うぞ? 目、鼻、口、耳、髪の毛の一本一本に至るまでばらばらにしてやろうか? どうせお前『荷物持ち程度の人間が頭が高い』とか言うつもりだろう? 馬鹿が! これだからビジネスを理解していないやつは困る。何故俺が荷物持ちなのか、その事を一瞬も考えちゃいない。目の前のできごとをそのまま受け取るしかできない想像力の足りないお前のような蛮族が、俺の緻密にして綿密な計画を邪魔するのは許さんぞ。いいか? 俺はこれでもプロだ。そしてお前達も。つまり俺たちの立場は対等なんだよ。わかるな? 仕事に貴賎はない。そこにあるのはユーザーのもとめる需要とそれに合わせた供給のバランスを理解した商売だけだ。……理解できないか? 知能の低い顔をしているなぁ。まあお前のような蛮族に理解を求めた俺が悪かったよ。さ、ビジネスの話といこうか」


「……アッハイ」


 つい口から漏れてしまった言葉に若干顔を引きつらせながらも返答してくれるミツル。ちょっと熱く語りすぎたかな? いや、これが大人の情熱と言うやつだ。彼には分かって貰いたい。俺もまだ十代だが。


「……ち、ちょっと待ちなさいよ! 何勝手に話進めてるのよ!」


 先ほどまで口をあんぐりと開けて呆けていた魔法使い風の美少女。――もとい、頭の悪そうな女蛮族。次はどんな知性のない言葉が飛び出すのかわくわく……否、面白がりながら見ていると隣のミツルと口論を始めてしまった。


「ダメよ、こんなやつ解雇しましょう! 荷物持ちごときでこんな偉そうな奴に任せるなんてできないわ!」

「い、いやでも彼の言ってることは正しいし……」

「正しいわけないでしょ!? こいつは雇われる側なのよ? それなのに私たちに何の敬意もないとか頭おかしいんじゃないの!? あまつさえこの私に知能が低いだとか蛮族とか……ふざけんじゃないわよ! 私が誰かもわからない程度のゴミと一緒にいるなんて吐き気がするわ!!!」


 言いたい放題である。ここまで言われるともう笑える。どうでもいいが。先ほどから罵倒の止まらない彼女とミツル、そしてここまで一言も話していないもう一人はにこやかにその言い合いを見ているだけだ。会話に加わる気がないのか? それともどうでもいいと思っているのだろうか。


「い、いや彼は僕が守るから戦闘力とかいらないし……」

「私は最低限必要と言っているの! それに仕事をするうえでこんな上から目線の大して実力もないクズなんていらないのよ! 見ればわかるでしょう? こんな奴口だけの男よ! ミツルにかかればひとひねりなんだから! 大体、アンタはゆ……」

「あ、ちょ、ちょっと待って! わかったから! それは言っちゃいけないって王様にも言われていただろ!?」


 唐突に美少女の口を抑えるミツル。こいつら面白すぎるだろ。なんでこうぽんぽんと相手に情報を与える真似ができるのか不思議だ。特にこの魔法使い風の女はおそらく一定以上の貴族位を持つ令嬢だろうと予想できる。そしてミツルの口から出た『王様』という単語……彼が王族に謁見でき、さらには何か使命を帯びていることがわかる。しかも俗人には秘密裡に。ということは自ずとこいつらの正体も判明してくるというものだ。


 ――勇者。ホーリーブレイブ、終わらせる者、救世主(メシア)……呼び方は様々だが、それらは全て一つの存在を指している。おそらくミツルは何某かの神に見初められた勇者だ。あの吸血鬼どもが暗躍していたことから、今代の勇者かそれに該当する何かが呼び出されていることは予想がついていた。それを示唆する文言も聞こえてきたしな。気になるのは、あの一件が本当にただ失敗しただけなのか、だが……まぁ、それは追々分かっていくことだろう。しばらくはこいつを見張っていればいい。勇者とやらの動向を注意していればこの世界の問題も明らかになるはずだろう。


「痴話喧嘩は後にしてくれ。まずは仕事の話だ。違うか?」

「あ、ああ、そうだね。じゃあ話を進めようか」


 まったく、面白くなってきたじゃないか。










 ――――時を同じくして、某所。

「例の研究はどうだ?」

「ええ、順調に進んでおりますよ。これならば次の冬が来る頃には完成に至るかと」

「ふふふ……そうかそうか。ああ、やはりお前に頼んでよかった。これであの愚物どもに目にもの見せてくれるわ……」

「ありがたきお言葉。……しかし、災難ですな。まさか『勇者』がこの国に現れるとは。人族のためとはいえ、これは魔族の力を借りた研究ですのでアレに嗅ぎつけられると少々面倒なことになるでしょう」

「心配せずとももう手を打ってある。アレの手中には私の駒を送り込んであるのでな。じゃじゃ馬なのが困りものだが、問題はなかろう。少々強引でも勇者の意見を操ってくれるはずだ」

「流石でございます。……では、人族の繁栄を願って」

「人族の繁栄を願って」


 二人の男がいた。ともに人族の繁栄をこれ以上ないほど願っていた。彼らは同志だった。


 ――――ただただ、その手段が圧倒的に間違っていただけだった。


 彼らの頭の中では自分たちの研究こそが人族の輝かしい未来を照らす光であり、この研究を避難したものは魔族の手先とすら考えていた。それこそが悪だとは思いもよらず、指摘されればこう答えるだろう。


「私たちは民を救うためにあるのだ。ならばこそ、それを弾劾するとは貴様悪の手先であるな? 死に絶えるがいい」


 その目は狂った正義に閉ざされ、ただ前が見えないほどに曇っていた。

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