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テンプレチート転生最強剣士、平賀桐人は今日も征く  作者: †闇夜に浮かぶ漆黒の平賀桐人†
2章 女神、それは見守るもの
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5.平賀桐人、荷物持ちになる

遅くなってすみませんでしたァーーーーーーーーーー!!!!!!!

 荷物持ち(ポーター)職人の朝は早い。


「まずは荷物のチェックだ。持っていく荷物と帰りの想定荷物全体の量を考えて、どれくらいのバッファを見て準備するかを決める」


 今回のクエストは魔物の討伐……火吹きトカゲ(サラマザード)の討伐だ。この魔物は文字通り火を噴射して攻撃してくる厄介な相手だ。火力自体は特筆するようなものはないが、火は後衛の魔法使いまで届くため前衛がしっかり射線を遮らなければならない。


 そのため、荷物の中に耐熱素材のマントやコートなどを入れていく必要がある。単純に荷物がかさばるのだ。相手の推奨討伐人数は一つ星級の冒険者が四人パーティーを組むことが前提となっている。そこへ、本来は荷物持ちという非戦闘要員を入れて挑むため、冒険者には非戦闘要員の体力管理が求められる。


「とはいえ、今回は俺が戦闘もできるためにその点はクリアしている。もちろん、俺は非戦闘要員扱いのため、戦闘には加わらないが、自衛くらいはできると考えてもらって構わない」

「自衛……? キリトが言うと自衛の定義が崩れると思うのですが。敵を粉々に粉砕してドン引きされたのはどこの誰でしたか? ねえ?」

「ちょっと黙ってて」


 未成年なため冒険者見習いとして事務員の手伝いをしているユーフェイが口をはさんでくるが、概ねお互いの合意は取れた。そして、実際のクエストのWBSとその中で荷物持ちの担当する作業範囲を確認する。冒険者のクエストとは行って終わりではない。クエスト全体を見て作業期間と次回クエストまでに稼がなければならない基準がある。そして、どれくらいの対象を討伐するべきなのかも考えなくてはならないのだ。


 実際は、そこまで考えている冒険者のほうが少ない。このような考え方をするキリトはかなり特別な存在のため、彼に荷物持ちを頼る冒険者も増えてきたくらいだ。基本、冒険者とは大部分が脳筋の塊である。管理のような事をするには向いていない頭の構造をしているものが多い。ギルドが中途半端に管理をしているというのも問題の一つであろうとも考えているが。


「でもよォ、俺たちゃサラマザードをぶち殺しに行けばいいだけなんだぜ? そこまで考える必要があんのかよ?」

「ちょっとリーダー……」

「いや、確かに言ってることは当然なんだけどよ。俺はリーダーだからよォ、決めるところはきっちり決めてェんだよ」

「ああ、確かに貴方の言うとおりだ。この手抜き満載のクソみたいな依頼書にはサラマザードの討伐としか書いていない。それは全くその通りだし、貴方の言い分はまかりとおるのだろう。しかし、だ。このドレイク山脈に住み着いたサラマザードの駆除についてどんなパターンが想定されるのか考えてみろ」

「ん? そりゃ簡単だ! この山に行って魔法使いが緑のドカーーン!! ってやればすぐに死ぬぜ!」

「まず第一に、山登りには体力を使う。これが戦士系の職についていて、体力も相応にあれば構わないだろうが、後衛の体力が消費されていることを考えるとあまり良いとは思えない。したがってどこかで休息及び装備の点検等を行う必要が出てくるな?」

「無視された…………」


 リーダーの冗談をあっさり無視してキリトは説明を続けた。


「とにかく必要なのは体力だ。休息をはさむとしても失われた体力を補うには時間がかかり、それはこちらとしてもよろしくない。そして次に想定よりもサラマザードの数が多かった場合だ。これに関しては事前の打ち合わせ通りに逃走を図るのが一番だろう。サラマザードの数の報告義務もあるため、一旦ギルドに戻りクエストの等級をあげて他のパーティーや上のランクの者に対応してもらう必要がある」

「ねえ、それさっきから思ってたんだけど、私たちで対処できるわよ」

「ほう。根拠は?」

「私はそこらの魔法使いよりも力が上なの。実は魔法都市にある『学院』卒業生でね、普通に考えたら三つ星程度には食い込むと思うわ」

「ハイ却下。実績も何もないただの空論に根拠はない。よしんばそれを信じても一体一体倒していくのなら効率はないにも等しい。そんなクソみたいなプライドは捨てろ。自分を過信するな、これは命がかかっている仕事なんだぞ?」

「…………あっそ」

「異論はないな? 続けるぞ」


 今度はむっとした顔で魔法使いが黙ってしまう。まったくもって険悪な雰囲気だが、これでも仕事に対して真剣に取り組んでいる証拠だ。そうしてキリトは事務的に詳細を詰めていく。こうした微に入り細を穿つ冒険方針はあまり冒険者らしくはないが、脳筋たちにはかゆいところまで手が届く荷物持ちとして重宝されているのだ。ただ、今回のパーティーともすれ違いを起こしているが、これで辛くならないのか? そうキリトに聞くと、


「まあ、効率がいいしな」


 ただ最近はあまり頭のいい冒険者がいないと愚痴をこぼしている。うまいやつはどこでもいて、できないことは誰かにやってもらうというのが冒険者としては頭のいいほうだ。つまり、事務員を雇ったり、引退した冒険者をアドバイザーとして自分たちのコーチにつけたりするものがいるということだ。


「……つまり、後衛の魔法の火力がキモのこのパーティーは、前衛に負担がかかる。そして、前衛は後衛の射線を維持するとともに、相手へのけん制が必要になるんだ。それだけ危険が多いということになるな。今まで、サラマザードを討伐したことは?」

「それはないな、今回が初めてだ」

「だろうな。……ここを見てみろ。ギルドの保管庫にある魔物図鑑から情報を写し取ったものだが、彼らは繁殖に際し、雌の気が立っているため凶暴になるとある。洞窟などの比較的温度変化のない場所で繁殖を行うらしいが、今回はそれがこのドレイク山ということなのだろうな」

「「ほぉ~~」」

「次に、このページに書かれているのは、基本的な群れの数だ。基本、彼らは雄が一匹、雌が三匹の群れを作る。つまり三体のサラマザードは確実に襲い掛かってくると考えられる。そして対象は洞窟にいるんだが……砂漠を歩いたことはあるか? 熱というのはかなり辛いものだ。人体に確実に影響が出る。熱された鉄など誰も持ちたくはないし、汗をかきすぎれば水を補給しなければ死ぬ。俺が先ほどから言っているのはこの環境に対しての適合をしっかり考えろという話だ。まあ、経験がなければ想定はできないが、少なくとも想定はできる。こんな環境で戦うくらいなら退いたほうがマシだろ?」

「なるほどなァ、確かにそうだ。……よしわかった、ここはキリトの言う通り、安全策で行こう。無理して死んだら元も子もないからな」

「そうね……洞窟の壁が熱されて落ちてきて事故死なんて最悪だしね」

「「「確かに!」」」


 今回も何とかいい方向に向かったようだ。少し安心した顔のキリトは和やかな雰囲気に包まれて笑顔まで浮かべていた。




 このように、キリトのそれは特に冒険者として優れている実績があるわけでもないが、言うことがつくづく的を射ているので、ランクが上の冒険者からも対等に扱われている。が、そうでない者も多く…………


「ああ!? こっちはてめーみてえな無星の雑魚を雇ってやってんだぞ!? 俺らのやり方に口はさむんじゃねえよ!! ってかよぉ、てめーホントにあの『銀閃』と引き分けたのかよ? どう見ても雑魚じゃねえか!! ハッハ! もしくはあの銀閃もついに落ちぶれたかぁ? あんまり強いんで男が寄り付かねえからって、幼気なガキにケツ振って媚びるんだもんなぁ!? 俺に任せてくれればベッドで一晩中泣かせてやるのによぉ!!!」


 ワハハハハハ!!! いいぞー!! 言っちまえ!! そんな声が聞こえてくるのはあるパーティーの集会場だ。彼らは毎回酒場でクエストの方針を決めるため、今回雇われたキリトも酒場に向かったのだ。その雑多な喧噪に眉を歪めながら、怜悧な目線で目の前のクマのような大男を見下す。


「……そうか、じゃあ今回は縁がなかったということで」

「は? おいおいおいおい、ちょっと待てよてめーおいこらクソガキ。てめーを雇うためにこっちも金使ってんだよ。できませんハイさよならじゃ社会が成り立たねえのもわかるよなぁ?」


 席を立ったキリトの後ろから肩を組むように近づく大男。はた目からはクマに襲われる少年にしか見えない。


「なぁおい、てめーあの銀閃とつながりがあんだろ? ……呼べよ」

「意図が見えないが?」

「くっくっく、力も弱けりゃ頭も弱ぇなんて可哀そうだな? てめーみてえな雑魚に銀閃はもったいねえ。俺がもらってやるからあのアマ呼んで来いよ、ソッコーでな!」

「断ると言ったら?」

「あぁ!? てめー自分の立場もわかってないみてえだな!? ぶっ殺されてえのか!?」


 大きな体を使って上から潰すように覗き込む男に、ため息を吐きながらもはや零度以下に冷え切った目を向け、見下すキリト。彼もここに来た時点で彼らの目的は察していた。キリトを脅し、『銀閃』ディガート・マクシミリアンを自分たちの手中に収めたいという魂胆だろう。上位の星持ち(冒険者)になってくると途端に少人数の活躍が目に付く。上に行くにはそれ相応の努力と才能が必要なのだ。そのため、新人がこうして上位冒険者とつながりを持っているとやっかみや嫉妬、悪辣な罠を仕掛けてこようとする輩が現れる。


 今回も例に漏れずに想定通りの雰囲気だった。そしてあわよくば、あの美麗な鬼を自分に傅かせたいという欲望も垣間見える。キリトを人質とすることでディガートをいいなりにするつもりか。彼女自身がここで暴れまわる可能性が頭にないというのも片手落ちの作戦だということがわかる。


「まったく……やれやれだな、このゴミどもが。()()()()()()()()()()()()()()()()()? お前たちのようなゴミから仕事を受けてしまうところだったぞ」

「な、なんだよ、てめえ……俺たちは四つ星のパーティー『雷雲の覇者』だぞ……!?」

「で? 確かに四つ星だが、それがどうかしたのか? まさか俺に勝てるとでも思っているのか? 面白い冗談だ。潰すのは最後にしてやる」


 一瞬、後ろからの歓声にキリトから目を離した隙に、彼は大男の手から抜け出して中央のテーブルに腰掛け踏ん反り帰っていた。


 対する大男はあまりの早業に先ほどまでキリトと肩を組んでいた大男は唖然とした表情で振り返ったまま固まっている。その視線の先には先ほどまで自分の下にいたキリト。見下すように口角を上げながら足を組む彼には余裕がありありと見える。


「ば、馬鹿にしやがって……!!」


 男は迷った。何か力を使ったそぶりもない、自分は威嚇するためにかなり力をかけていた、少し目を離しただけだというのにあの状態から逃れ、一瞬で椅子に座っているなど尋常の出来事ではない。つまり、あの子どもは男よりも上だと考え――いや、そんなわけはない。あれはただの見栄を張ったガキだ。そうじゃなければ……そうじゃなければ、今まで積み重ねてきたものは一体何だったのか。これまでの男の人生の足跡はあんな弱そうなガキに踏み荒らされるような軽いものでは――


「どうした? かかって来いよ。()()()()

「う、う……うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

「ばっ、やめろおおおおおお!!!」


 こうして。五分とかからずに酒場に甚大な被害を出しながら総勢十八人のパーティーを潰したキリトは、キャンセル料替わりに酒場の修繕費と飲み食いのツケを茫然と立ち尽くす男になすりつけた。


「ちくしょぉ……なんで、なんでこんなことに……」

「さぁ? 悪いことでもしたんじゃないか?」

「クソッ! クソォ……!! なんだよ……言っておいてくれよ……! こんなに強いなら言ってくれよ……!! なんで、荷物持ちなんかやってんだよ意味わかんねえよ! こんな……こんなのあんまりだ……!!」

「荷物持ち意外だとあんまり自身がないからな。俺の治癒方法は応急処置の域を出ないし、魔法とやらも使えない。畢竟、危ない橋を渡らないためには荷物持ち(これ)しかない」

「他にもあんだろ!? なんでてめえほどのやつが埋もれてんだよ! 詐欺だろうが!! なんで……なんで普通にクエストを受けねえんだよ!! お前のせいで俺たちは! 俺たちはぁ!!!」


 廃墟同然となってしまった酒場の入り口で膝をつきうなだれる男。彼が見上げたキリトの顔は月が照らしておらず影が落ちていた。そのためか、男の目には嫌にはっきり映ったキリトの口元が、愉悦に歪められていくのを余すところなく見ることになってしまった。


「いやあ、実に残念だ。それ以上はない」

「ちくしょう、この化け物が……!!」


 キリトが去ったその後には、十七人のうめき声をあげる男たちと、ちくしょうと涙を流し続ける大男が残されていた。その後、風のうわさに聞いた話によると、彼らは修繕費を何とか工面し、規模も縮小してパーティーを立ちなおしたため、なんとか細々と暮らしているそうだ。


 ――彼らの何がいけなかっただろうか?


「やはり、自分を過信してしまったところかな。そうでなければ俺程度のスピードなんて対処できるはずだった。……さて、今日もこれからまたすぐに荷物持ちだ」


 そういうキリトの目線の先には以前衝突していたパーティーの姿が。彼らはどうやら成功していたようだ。あれからも続いているとは、よい関係を続けているように見える。


「そうだな、やっぱりありがとうとか言われると、この仕事やってて良かったなって思うよ。俺はこの世界でもきちんと役に立つことをやれているんだって思える。毎日毎日相手もクエスト対象も違うからな。機械にはできない」


 荷物持ち職人、キリトの朝は今日も早い。彼は今日もまた、誰かのパーティーで一人、戦い続けるだろう。

花火で疲れたのが悪いんや。あと世界樹クロス

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