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テンプレチート転生最強剣士、平賀桐人は今日も征く  作者: †闇夜に浮かぶ漆黒の平賀桐人†
2章 女神、それは見守るもの
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3.平賀桐人、負ける

はーい、今日も更新でっす!

え? 次回は日曜だと言ってた? 知らねえなぁ!!


ただ、今回はちょっと量が多いですね。ごめんね! バトルシーン書きたかったんだ!

「…………少年、キミは怖くないのか?」

「は? いやまず俺は少年と言っていい年ごろじゃないぞ」

「そうか。人族は鬼族と違って皆小さいからな……わかりづらいのだ。すまない、キミはいくつなのだ?」

「ぴっちぴちの一七歳」

「子どもじゃないか!!」

「ちなみに私は一二歳です」

「もっと子どもじゃないか!!!!」


 ギルドの訓練場に移動するまで、暇つぶしがてらに鬼の彼女――ディガート・マクシミリアンに話しかけていた。マクシミリアンちゃんだってさ。ごっつい名前してんなこっちの鬼は。


 色々と話を聞いた。彼女は五つ星――こちらでいうと給与のグレードのようなもので、上から三番目に位置するらしい。つまり、それだけ荒事に対して適性があるということの証左に他ならない。なんでも近接においては六つ星にも引けを取らないとか。特に飛ばない地竜(ランドドラゴン)岩巨人(ゴーレム)相手の戦闘が得意で、よくドラゴン狩りをして荒稼ぎしてるとは本人の言。とんだ蛮族だぜ!


 で、そんなマッシヴ女子のマクシミリアンちゃんはどうして俺たちがあそこで騒いでいたのかと聞いてきたのだが、その解答が「こいつを怒らせてちょっと脅してた」だったためしこたま怒られたのだった。それでも生活のために(この世界では)天涯孤独の俺たち(ユーフェイは除く)は冒険者になるしかなかった(わけではない)と言ったところ、涙ぐみながら「わかった、キミのことはお姉さんが鍛えてあげよう!」と仰ってきたのだ。鬼のくせに近所のおばさんみたいな精神しているやつである。おう、見習えよ受付嬢。


「しかし、なぜあんなことをしたんだ? キミならわかっているはずだろうアルール。冒険者は……」

「『冒険者は基本的に自己責任である』……つまり自由度が高い代わりにギルドから得られる保障は少ないということ、何をやろうがギルドには責任を負う必要がないことを表している一文。どんな危険な場所に冒険者が向かったとしても、な。畢竟(ひっきょう)、俺たちが登録さえしなければ危険を負うこともないと思ったんじゃないか?」

「……っ! そ、それは」

「気にしないほうがいいですよ。キリトは相手の精神的弱点を突くのが得意なので」


 へーい。ユーフェイ、それは思ってても言うなよなぁ! いいか幼女、君の言葉は俺を傷つけるってことをいい加減学ぼうぜ?


「別に……ただ、調子に乗った子どもが死ぬのは見たくないのよ……」

「確かにそれは同意するが。何もそこまで頑なになることもないだろう?」

「だって……」

「一つ勘違いを正しておくが、俺は別に戦闘に参加しようとは思っていないぞ?」

「「「えっ!?」」」


 なんでユーフェイまで驚いてるんだよ……。道中に話したと思うが。まあ、いい。俺はとにかくこの世界を救うために呼ばれたのだ。遊んでいる暇などない。よって、可能な限り戦闘を避け、依頼数を多く取ったうえで荷物持ちなどのクエストを消化していこうと考えている。


「戦闘を行う場合考えられるのがケガの問題だ。また、必然的に休養も多く取らなければならなくなる。金銭的にも、武器の新調や手直しなどで出費がかかるし、一日の稼ぎだって不安定だ。よって、俺は継続的にできる仕事を主軸に、所々で荷物持ち等で稼いでいくつもりだ」

「しょ、正気ですか!? キリトの力さえあれば例え災害級の魔獣でも戦えますよ!?」

「それのどこにメリットがある? 俺はそんな無駄なことをしている暇はないんだ」

「む、無駄…………え、ちょっと待ってくれ、キミそんなに強いのか!?」

「そんなに強い時とそんなに強くない時がある」

「えぇ!? どういうことだ!?」

「少なくとも今はマクシミリアンちゃんよりは弱いよ」


 ちゃん付けで呼ぶなよぅ……と顔を赤くするマクシミリアンちゃん御年三四歳。なにこいつクソかわいい。名前呼ぶだけで照れるとか新鮮すぎて俺の周りにはいなかったタイプだ。俺の周り大体メンタルモンスターしかいないからな。類とも? 馬鹿を言うな、俺はちょっと正義感が強いだけの普通の青年だ。


 ……………………頼むからその人を殺しそうな瞳孔ガン開きのハイライト失った瞳でマクシミリアンちゃんを見るのをやめてくれないかユーフェイ。めちゃくちゃ怖い。


「な、何? どうかしたのかい?」

「いえ…………敵を見定めていただけです」

「て、敵!? なんで!?」

「は? キリトにちかづくおんなはみんなつぶすにきまっているでしょう?」


 怖すぎかよこいつ。サイコパスかな? なんでそこまで狂気迸らせているのかわからないが……まあ、たぶん俺の首筋に対して並々ならぬこだわりがあるのだろう。新幹線オタクみたいなものだろうか。過激派なんですね。異世界の幼女は進んでるなぁ!!!


「マクシミリアンちゃんはどれくらい強いんだ?」

「お? ワイバーンくらいは素手で行けるぞ!」

「は?」


 は? 素手? 何言ってんのこのゴリラ。ちょっと腕力おかしくない? ワイバーンってアレだろ、より空中戦に特化した亜竜の弱い部類とはいえ、ドラゴンだぞ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だというのに……これは少し評価を改める必要があるな。なんだかんだ接近戦だけが得意というわけでもなさそうだ。まあそもそも()()()()なんて押しなべて皆化けものだが。


「流石マクシミリアンちゃん、筋肉だな……」

「ああ、ありが……え? ちょっと待って? 筋肉? 筋肉って誉め言葉じゃないよな?」

「お、着いたな。へえ、ここが訓練場か。意外と広いじゃないか」

「ねぇ!!!! 私女子なんだけど!?!?!?」


 知ってる。マッシヴ女子でしょ。













「さて、少年。着いてしまったからには始めなくてはならないが……もういちど問おう。キミは怖くないのか? この私『銀閃』のディガートと戦うことに怯えはないのか? 膂力にかけては最高峰の鬼族――さらに言えば私は闘気を使用した接近戦ではだれにも後れを取るつもりはない。その私に戦いを挑むのに……恐怖はないか?」


 周囲には観客席のようなものがある。ベンチというか、おそらく休憩のために持ち寄ったものなのだろう、規格が統一されていないところを見るとギルドの了承を取っていないのかもしれない。そんなところに幾人かの冒険者たちがたむろしていた。

 ギルドの受付で俺たちの騒動を聞いていたのか、彼らは興味津々でこちらを見てくる。ご丁寧に俺たちが訓練場に上がると、そこで訓練を打ち切って休憩に入るのだ。


 そこでは俺とマクシミリアンちゃんの戦いに関しての賭博すら行われており、もうやりたい放題である。冒険者なんてこんなもんか。ギルド員がぷりぷり怒ってはいるが、あまり注意にはならないようだった。


「ふ、意外と可愛いところもあるんだな、マクシミリアンちゃん。そんなに嫌われるのが怖いか?」

「ち、ちが……! 私はキミのことを純粋に心配して!」


 こいつ本当にからかうと面白いように反応してくれるな。今も顔を真っ赤にして叫んでいるし、随分純粋な心の持ち主みたいだ。ルルに爪の垢を煎じて飲ませれば変わるか? いや、あの性悪クソエルフの性格は治らないな。流石エルフ一の蛮族。蛮族度にかけては右に出るものはいない、か。


「別に、マクシミリアンちゃんにぼこぼこにされたところで特に嫌いになったり怖がったりはしないさ。だから安心すると良い。この俺は女神に選ばれし者。その程度で怯えるような弱い精神などしていない。なんなら終わった後に抱き着いてやろうか?」

「うえぇ!?」


 たじろぐマクシミリアンちゃんが意外だったのか、周りで囃し立てていた冒険者(モブ)たちがざわめいていた。


「あいつ勇気あるな……あの銀閃をちゃん付けだぞ」

「ああ、あの足元見ろよ……ひび入ってんぞ。あれ見てビビらねえやつとかいるのかよ」

「しかも大の男よりもでけえしな。寝たら息子が潰されちまいそうだ」

「おい、聞こえてるぞ!! お前ら後で覚えておけよ!!! 別に潰したこととかないからな!! 寝たこともないけどさ!!!」


 ドンドンと足を踏み鳴らしながら冒険者に向けて怒声を放つマクシミリアンちゃん。姿はかわいいのだが、いかんせん力が強すぎて踏み鳴らすごとに小規模の地震が起きている。恐ろしいことにあれでも力をセーブしているっぽいのだが、それは相手が純粋な鬼だと知った時点でわかっていたことだ。今更驚くようなことでもない。でもセーブなしだと俺の体もぺしゃんこになりそう。


「ほう、マクシミリアンちゃんは処女か」

「ひょえぇ!?!? な、何言って!! わ、私が! 処女で何が悪いんだ!? 私は身持ちが固いんだぞ! 料理も作れます!! あと子どもは好きです!!」

「良いことを聞いた。もしこの戦いで俺が勝ったらなんでも一つ言うことを聞いてくれ。ああ、もちろん拒否権はありだ。そんなに無茶な要求もナシ」

「――――――――――」


 ダメだ、マクシミリアンちゃんは完全にフリーズしてしまった。叩けば治るだろうか。あとユーフェイ、後ろでその身も凍るような魔力を発するのはやめてもらえないだろうか、切実に。いつ殺させるかわからなくて怖いんだが……。


「やべえよ……!! あの銀閃に求婚しやがったぞあいつ!!」

「なんだ? どうなってやがる!? 今日は槍の雨でも降るのか!?」


 …………別に求婚はしていない。彼女には悪いと思うが、この状況なら勘違いさせてしまうほうが扱いやすい。なんせ鬼は人よりも欲求が強い生き物だ。これが人間だったら間違いなくドン引きされる発言だが、鬼は違う。自分が鬼なのだ、よくわかる。彼女にはこれが効果的だろう。なぜならば純粋な鬼に近づけば近づくほど、欲求が強くなる。それはにはもちろん性欲も含まれるため、これは彼女の中の女の部分を相当に揺さぶっていると思われる。

 ……まあ、この年齢まで処女を貫き通しているというのは彼女の申告通り身持ちが固いか、もしくは本人にかなり問題があると言えよう。


「い、いいだろう! 受けて立つ!!」

「はは。……()()()()?」

「ッ! ……ずいぶんと雰囲気が変わるじゃないか。そっちが本性か? ふん、私を騙してヤリ捨てようなんて考えるだけ無駄だぞ? これでも私は速度に自信があるのだ。少なくとも人族に勝てるとは思わないほうがいい。いつまでも食らいついてやる。逃がさないからな……!! 絶対逃がさないからな……!!」

「…………ヤられることは前提なんだ」

「うっさいわぁ!!!!」


 苦笑しながら俺は訓練用の木剣を構え、マクシミリアンちゃんも同じように構えたところで――彼女の顔から一切の遊びが消えた。……なるほど、確かにこれは強い。訓練とはいえ一瞬たりとも気が抜けない相手だろう。先日戦ったあのメイドどもを合わせたよりもさらに上を行く、アッセムと同等かそれ以上の戦士だ。


 良いじゃないか。まさかこれほどの相手とは思いもよらなかった。運がいい。


 同じように苦笑を浮かべた冒険者の一人が手を挙げる。そして、


「始めぇッ!!」


 その瞬間、目の前からマクシミリアンちゃんが消えた。













 ディガート・マクシミリアンは五つ星の冒険者だ。

 それはこの恵まれた鬼族の身体と、高速移動に耐えられる抜群の視力があってのこと。鬼族は生来、闘気を扱い、身体を使うことについてはどの種族にも負けない。しかし、あまりにも強すぎるため、肉体の速度に脳の処理が追い付かないということがままあるのだ。そのため、鬼族の身体を以っても速度に頼る戦い方はできないものが多い。だが彼女は先天的に脳の処理能力に優れ、どれだけ速く動いても視界の情報を認識できるため、鬼族にしては珍しく速度を売りにした戦い方をしている。


 しかし、それは彼女が他の鬼族よりも力が弱いということを示しているわけではない。一般人と野球選手やボクシング選手の動体視力が違うように、彼女とその他の鬼族では生まれ持った才能が違うというだけの話。要するに鬼族の中でも突出した傑物と言えるだろう。


 だが、それは同時に彼女を孤独に陥らせるものだった。男の鬼族よりも強大な彼女は次第に腫物を触るかのような扱いを受け、鬼族の町を飛び出したあとに入ったギルドでさえも、近接戦で彼女に匹敵するものなど数えるほどもいなかった。銀閃、などともてはやされているが、いつもいつも孤独を感じていたのだ。荒事の多い冒険者でさえも彼女を色眼鏡で見ないことはない。彼女は、銀閃の名が邪魔だった。


 そこに現れたのが『少年』だ。彼よりも幾分か高い頭身に怯えることもなく、さりとて相手が『銀閃』だからと無理をするでもない。ごくごく自然にディガートを女扱いしてきたのだ。少なくとも二十を超えてからちゃん付けで名前を呼ばれたことなどない。ギルド長(じじい)にはお嬢ちゃんなどと呼ばれるが、あれはもう生きてる桁が一つ二つ違うため考慮しない。


 これはもう運命と言ってもいいだろう。……多少ヤリチン疑惑があるが、まあそれは逃がさなければいいだけのこと。というか、経験人数が多いのもそれはそれで良いのではないだろうか。つまりはそれだけ自分の槍に自信があるということだ。仮にそうでなかったとしても、二人の初めて同士を捧げ会えるのだ、言うことはない。そう頭の中でぐるぐる回るいやらしい単語に沸騰しそうな思いで剣を構えた。


 つまるところ、彼女は処女をだいぶこじらせていた。そしてたまたま彼女好みの顔をしていたキリトに、彼女自身も気づかないうちに惹かれていたのだ。そこへ放たれるキリトの女扱い攻撃にノックアウトされたディガートは、完全に獲物を狙う肉食獣の目で彼を見ていた。


 ふと、彼の横からにらみつけてくるちんちくりんの幼女が目の端に入る。彼女も『少年』の女なのだろうか? ずいぶんと小さい耳長族だが、あれはなんだろうか。先ほどからこちらに殺気を飛ばし続けているということは、彼女からすれば自分は恋敵として見られているのは間違いないだろう。『少年』の言葉もこちらに女を意識させるようなものばかりだったし、彼から女性として狙われていることは間違いない。つまり……あの幼女よりも一歩先に立っている自信がある。


 ディガートは口元が緩みそうになるのを必死でこらえていた。女の身体としては明らかに自分に分があるだろう。多少背が高いが、これでもスタイルには気を使っているし、筋肉が付きすぎているということもない。胸も大きい。勝ったな!!!


 あとは彼がどれだけの力を見せてくれるか……たとえこの一撃で昏倒したとしても、一から戦士として鍛えられて悪くない。介護の名目で彼をベッドに連れ込めるしな!

 そんな浮ついた気持ちで――しかし、気迫は通常通りを装い――審判の合図を聞いた瞬間に飛び出した。


 鬼の目ですら追いきれない高速移動。彼我の距離を一歩で詰めた彼女はそのまま地面を蹴ってキリトの後ろへ移動し、彼に余計な傷をつけないようになるべく優しく――鋭く打ち込んだ。


 そしてそのままあっさり強烈なカウンターをもらった。


「がぁッ……!?」


 腹部にめり込むような感触と鈍く伝わる痛みを覚え、とっさに後退する。見れば自分の頭のあった場所を木剣が通過するところだった。

 なんだ今のは。一体何が起きた?


「……なぁおい。あんまり失望させないでくれよ」

「しょ、少年?」

「それほど俺は雑魚に見えたか? それは悪かったな。だが、それはあんまりだろう。ふざけるなよ? お前が強いと思ったからせっかくこうして対峙しているのに……手を抜くなよ『銀閃』ディガート・マクシミリアン。俺は人を舐め腐るのは好きだが、舐められるのは大っ嫌いなんだ、覚えておけ」


 まるで別人のように覇気が違う。一瞬でも気を抜けば切り刻まれるような恐ろしい殺気、そして、ディガートの一撃を――手加減したとは言え――反撃する技量。明らかに同格の相手だ。どれだけの力を見せてくれるか? 馬鹿な。そんな甘えた考えで対応できる相手ではなかった。何を浮ついていたのか。なんて不誠実だったのだろうか。彼は自分より遥か格下だなんて、驕っていた。今までの人生が、経験が、認識が、驕っていた!!


 もう一度彼が構える。先ほどの一撃をやり直すように。……ああ、彼はこんな私でも受け止めてくれたのか。鬼族であることにも五つ星であることにも驕っていた私を、許してくれると言うのか。なんて甘さだ。まるで彼といるだけで世界がとろけそうな感覚さえ感じる。


 ――そうか、これが恋か。


 そうして、恋に落ちた『銀閃』ディガートは構える。今までのすべてを捨て去って、彼のために剣を構える。今はまだ、(これ)しか彼に求められていないが、彼が求めるのならすべてを捧げよう。私の身体も金も剣もすべて、何もかも。


「すまなかった。少年……いや、名前を聞いても、よろしいだろうか」

「ん? ああ。俺は平賀桐人だ」

「キリト、か。不思議な名だな……。ありがとう、もう大丈夫。あなたの名はこの胸に刻んだ。これからはあなたのためにこの剣を握ろう。仕切り直しだ…………我は五つ星『銀閃』のディガート!!」

「……はっ。いいぜ、付き合ってやるよ。俺は『星辰太極』平賀桐人!!」

「「参る!!」」


 同時に、二人の姿が消えた。否、ぶつかり合う地点は、先ほどと同じ――!


「はっ!!」

「ッチィ!」


 ――そして結果は先ほどとは違う。一瞬でキリトの目の前に移動したディガートが振り下ろした木剣を、キリトが何とか軌道を逸らしたのだ。

 そこからディガートの猛攻が始まる。ヒットアンドアウェイで縦横無尽に動き回り、キリトに剣戟を浴びせ続ける。右肩への突き、かと思いきや翻しての袈裟切り。うまく流したと思ったらすでに後ろに回り込まれている。胴薙ぎ、逆袈裟、正中線を狙った三点突き、右から首へ迫る薙ぎ、そのまま今度は左から首を狙う袈裟切り、最後に転身しての首への突きのコンビネーション、鬼族の身体能力を駆使した足払い――息もつかせぬ猛攻に、いつしかギャラリーも静まり返っていた。


 彼我の身体能力の差は明らかに違っている。それを覆すのはキリトの読み。ギリギリのところで目線を読み、思考をトレースして何とか防御に成功している状態だった。だが、それも長くは続かない。『銀閃』ディガート・マクシミリアンは超一流の戦士だ。そんなもの、すぐに対応されてしまう。――更に速くなればいいだけだ。


「そこっ!」


 キリトの後ろに回り込み、それを読んでいたキリトが後ろへ肘を突き出し、さらにそれを読んでいたディガートが前へ回り込んで上段から剣を振り下ろし――それすらも読んでいたキリトの剣ごと叩き潰して、彼の身体を吹き飛ばした。


 だが、終わらない。ディガートは再度加速すると、たなびくプラチナブロンドが銀色の軌跡を残しつつ、キリトに切りかかる。これぞギルド五つ星の冒険者『銀閃』であった。あまりにもバカげたスピードのディガートは、冒険者の目から見てもそこに残るのは銀色の軌跡のみ。後に残るのは蹂躙された獲物の死骸だけだったが故につけられた二つ名が『銀閃』だ。


 その彼女が圧倒的なスピードで斬撃を繰り出す。審判が止めようとするも、既に彼女はキリトの目の前に到達していた。吹き飛ばされる人間に追いつき追撃を加えるなど、なんと現実的ではない光景だろうか。控えめに言って化け物だった。


 だが、対するキリトもまた、常識の範疇に収まるものではない。

 彼は吹き飛ばされながらも()()()()()()()()()()()蹴りを放っていた。そこへ飛び込んできたのはディガート。このスピードの彼女に合わせてカウンターをしてくる人族など見たことがなく、それ故、キリトの蹴りをもろに脇腹へ打ち込ませることになった。


 観客からはディガートが突っ込んでいって勝手に吹っ飛んだように見えたことだろう。ゴロゴロと地面を転がったディガートは、同じく地面を転がっていたキリトと同時に起き上がる。痛みはほぼない。鬼族の身体は強度が違うのだ。ダメージで言えばキリトのほうが深刻だろう。だが最小限で済んでいる。驚異的な防御技術だった。


「やるな」

「当然だ。俺を誰だと思っている」


 お互いににやりと笑い、攻防が再開した。

 今度はキリトが守ることなく反撃に出る。ディガートの動きを読み、一瞬先に剣を置いておくのだ。いくら圧倒的なスピードをもってしても先読みされてはたまったものではない。彼が執拗に狙うのは足。もちろん、鬼族のディガートの機動力はそんなことで削がれるほど柔ではないが……少なくとも不安材料にはなるだろう。更にキリトが反撃の対象を右足のみに切り替えると、しつこく狙われ続けてうまく攻撃が繰り出せなくなってしまう。頭部への薙ぎ払い、それに付随して後ろ回し蹴りの要領で足払い、ディガートの右足が通り過ぎるときに右足への打擲、一瞬の隙を見せたディガートへ倒れこむような突きを繰り出してくる。あっさりと回避すると、わかっていたかのように剣を跳ね上げる。回り込んだディガートの目の前に置かれた木剣は、このまま進むと彼女の首を強かに打ち付けるだろう。そして、剣はそのまま軌道を変えて下へ。思わずのけ反ったディガートの右ひざへ着弾する。

 あまりにも高度な駆け引きに、ディガートの思考はまとまらないままだ。どうしてこれが読まれるのか、何故自分が出てくる場所がわかるのか。一度彼の頭の中を覗いてみたいくらいだった。


 だから、彼女はさらに加速した。それしか知らない幼児のように、彼女は加速したのだ。もはや一人二人とディガートが増えていくような錯覚すら覚える速度に、思わず舌打ちが出るキリト。いくら読んでいても、肉体的な限界は必ずある。それを打ち破るのは、単純なごり押しが一番だということを本能でわかっているようだ。


 右払い、受け止められて転身し、左肩へ突き、正中線に沿っての六連突き、がむしゃらに振り回すかのような数多の剣閃。薙ぎ払い、回り込んで薙ぎ払い、回り込んで薙ぎ払い、回り込んで――!


 嵐だ。そう、冒険者の一人がつぶやく。まさしく嵐。今やキリトを中心とした銀の嵐が巻き起こっていた。これはもう人の力の次元を超えている。驚嘆すべきはこの嵐を生み出しているディガートか、それを凌いでいるキリトか。


 そして状況が動いた。キリトが一撃をもらったのだ。そこから始まるは剣戟のラッシュ。打たれたことによるひるみに追いつくように次の剣閃がキリトを狙う。いや、彼女にとってはキリトの身体の反応など無視できるものなのだろう。もはやキリトは剣の波にのまれる哀れな遭難者のようだった。


「キリト!!」


 ユーフェイの叫びが聞こえた気がする……掠れた意識でキリトは思考する。今は何をしているところだったか? そういえばあの反応がかわいい鬼っ娘の相手をしていたか。この連続する身体の痛みは彼女が打ち込んでいるもの。しかも、これは彼女の最速ではない上に力も手加減されている。急所も狙われず、一撃で吹っ飛ぶような威力も出していない。威力のほうは連撃を考えたうえでの全力かもしれないが、これだけの実力で急所を狙えないというのも変な話だ。まったく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 至極簡単に剣のラッシュをはじくと、キリトは地面を蹴って飛び上がる。空中で身をひねりながらディガートへ目を向けると……にやりと口元を歪ませたディガートが視界に映った。


「それは悪手だ!」


 ディガートの特徴は速さ。それは身体を動かす速度でもあるし、剣を振るう速度でもある。畢竟、彼女の前に空を飛べないものが空中戦を挑むなど馬鹿のする行為でしかない。ディガートは狙いを定めると、この訓練――と呼んでいいものかわからないが――を終わらせるための一撃を放った。


 だが、


「それは、悪手だ」


 彼女は相手をしている者のことをわかっていなかった。彼は平賀桐人。この世界の女神アダマスに望まれて呼び寄せられるほどの実力者。犯した大罪を払拭するために戦い続ける正義のヒーロー。彼はくるりと一回転すると、ディガートの剣を避けたどころか、彼女の木剣の上に立ってしまった!


 もちろん、これにはディガートも焦る。曲芸じみた動きで避けられたと思った瞬間彼女は剣速を抑え、キリトへの追撃を行おうとしていたが、キリトはそんな彼女の剣の上に着地、狙ったように木剣が上段から放たれたのだ。とっさに木剣を引き戻してキリトの剣への防御とするが、ディガートはこの試合始まって初の能動的な防御だった。それもこちらが圧倒的に不利な体勢で。


 そして――――


「む」

「あ」


 バキンッ! と乾いた音が響く。お互いの木剣はあまりに理不尽な使用に耐えられなかったのか、抗議するかのように見事に砕け散ってしまった。


「……あぁ、しかた、ねえ……な。ここま、で、か……」


 それを見届けながら、キリトの視界は落ちていく。彼に駆け寄る二人の人影をみながら、あんまり怒られないといいなぁなどとぼんやりと思い、やがて眠ったのだった。

はい、そろそろキリト君には負けてもらいましょうということで。

ちなみにマクシミリアンちゃんは全然最速じゃないです。彼女が本気出したら音を置き去りにして戦います。まだ身体強化してないですしねー。


というわけで、可愛い鬼っ娘がかわいいと思った方は評価や感想を送ってください!!

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