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夜明け

作者: ZERO&PACHIRA

自分は、家族の中で一番大きな翼を持っていた。

けど、僕は飛べなかった。

皆、早くこの翼を広げ、飛んで見せろと僕に言う。

翼は誰のものでもなかったのに。

生まれた時から、僕には翼が生えていた。

誰かが望んだわけではなく、僕が欲しかったわけでもない。

ただ必然的に、あったのだ。


家族からは誰よりも大きな翼を持った僕は、なんて幸運なんだと褒められた。

けど、僕が作り上げたものではない。

他者から褒められた事に違和感を感じた。

だから僕は、この生まれ持った翼を、誰のものでもないのだと悟った。


又、僕は翼を持っていながら、飛べなかった。

空を大きく横切る他人の翼を、その人達を、羨ましいとも思わなかった。


皆、僕に早く飛べと言う。巣立ちしろと急かす。

これを、世間では宝の持ち腐れと言うのか。

いや、自分のものでは無いのだから、それは違う気がした。


だが、時が経てば状況も変わる。

家族すら、一度も羽を広げない僕を冷たい目で軽蔑してくる。


何がいけないのか。

何故、飛ばなくてはいけないのか。

この翼で、何処へ行けば良いのか。


僕は答えが見つからないまま、遥か遠くの月をじっと見つめた。

その日、家族は巣に戻って来なかった。


明くる朝、目を開けると、薄い朝日が僕の身体を、真っ赤に染めていた。

その時、僕は初めて巣の外の世界を見てみたいと思った。


試しに、巣の外側に立ってみた。

僕は、変わりたい。

一人は悲しい、寂しい。

軽蔑されるより、ずっと。


でも、その思いは下を見下ろした途端消え失せた。


吐き気がした。

無理だ、こんな高い所から飛ぶなんて。

どうしたって、出来っこない。

嫌だ、嫌だ。


でも、このままじゃ変わらない。

ああ、矛盾している。

もう、疲れた。

飛べばいいのか、今すぐ。

僕は全勇気を振り絞った。

最後の一滴まで。


僕は、思い切り飛び上がった。

そして、

虚しく空をかいた。

必死で息をして、もがきまわった。

苦しい、痛い、

風の圧力で、羽が今にも折れそうだった。

嗚呼、無理だ。怖い。

もう、死んでしまうのか。

僕は、何もしないまま、、、、、、、、、、、、


そろそろ、硬い地面に打ち付けられる頃だと思った。

だが、意外にもそれは、ふわっとしたものだった。

温かみまで感じた。


それは、僕と同じ、トリだった。


そのトリは、必死になって僕を支えているようだった。

驚いたのは、それだけじゃ無い。

トリは、僕よりずっっと小さかったのだ。

苦しそうに息をするそれをみて、僕は何故そんなに頑張っているのかと疑問に思った。

だが、そう思うのもつかの間、僕等はグラウンドの芝生に突撃した。


痛かった。けれど、あのトリが居なかったら、僕は死んで居たかもしれない。

そう思うと、ゾッとする様な寒気を感じた。


近くに、あのトリが居た。

くるしそうに、肩で息をして。


良く見てみると、

そのトリは、緑がかった美しい色のトリだった。


「あの、ありがとう」

恐る恐る言う。外の世界を知らなかった僕は、

当然家族とその知人以外は話した事もない。


するとトリは、起き上がるやいなや、僕を睨みつけた。


「あのさ、話しかけないで」


僕は反応に困った。


「簡単に死のうとしないで。やめて。」


僕は、相変わらず反応に困っていた。


「どうして、君が怒っているんだ?君は飛んで僕を助けてくれたけど」


すると彼女は、顔を歪ませ言った。


「私は、飛べない。さっきは、貴方が落ちる直前にジャンプして支えたの。

私は生まれつき、怪我をして飛びたくても飛べないの。」


吐き捨てる様に。それでいて、哀しげに。


そして、

彼女は羽をパタパタさせながら、グラウンドの奥に消えて行ってしまった。


出来事が早送りされた様で、状況がすぐに飲み込めなかった。

飛べない、?ジャンプした?

何故僕を助けたのか。

疑問が頭を駆け巡る。


残ったのは、夜になりかけの冷え冷えとした空気だった。


とりあえず僕は、近くの木に、疲れた足を運び、なんとかして登ることが出来た。

寒さと寂しさが、水の様に僕の中に流れ込んでくる。


あのトリは、飛びたくても飛べないと言っていた。

まるで僕と正反対だと思った。

羽を失っても。

死にたくないという気持ちを掻き立たせる、彼女は何だ。

彼女の心は、どんな色だろうか。

今まで、どんな経験をしてきたのだろう。


僕は今でも、殻の中に閉じこもったままだと言うのに。


夜、

空のずっと上の月は、欠けた形をしていた。



いつの間にか、

僕は寝てしまっていたらしい。

極度の空腹が刺す様に、僕を起こした。


目を開けると、辺りは真っ暗な空間だった。

ふと、目に留まった。

本当に、偶然だった。

もしかしたら、神の悪戯かもしれないと思ったくらいだ。


彼女だった。足を引きずり、怪我をしている。

あれが、生まれつき持った怪我か?

いや、ならば何故あんなにぎこちない歩き方をしているのだろう。

ゆっくり、ゆっくり、彼女は歩いていた。


何故、あんなアスファルトの上にいる?

この時間はあまり車が通っていないものの、トリにとって危ない事に変わりない。


ハラハラしながら彼女を見つめていた。


いや、よく考えろ。

僕には関係ないはずだ。

知り合ったばかりの他人が、

自分の不注意で車に引かれようと。


でも。

僕の目は彼女をしっかり捉えていた。


そして、、、

神が居るのなら。

この時ほど、その存在を呪ったことは無かったはずだ。



彼女に向かって、

闇に紛れた軽自動車が、静かに近づいていた。


ああ、これであのトリはおわりだ。確実に。

その事は、彼女も気づいていた。



そして、僕は。

一瞬だった。



まるで、風の様なスピードで、

いやもっと速い、光の様なスピードで、僕は木から急降下した。



僕は、飛べない。

今も、飛べない。


だけど、そんなのどうだっていい。

あの場所、あの小さなトリを守れるのなら、

僕は怪我でも致命傷でも負うから。


彼女を、守りたい…



僕は、軽自動車と衝突した。

かなり派手に。


衝撃が全身に走って、その時分かった。


僕は二度と羽を広げられないだろう。

もう広げることは出来ない。


でも、それより。


辛うじて、彼女を庇ったこの翼を、

僕は心底誇りに思った。


僕は、夜明け直前の、心地よい薄明かりに照らされた。

闇と化した感情に、光が差し込んできた。


冷えたトリを、優しく包み込む。

じわじわと、全身を痛みと寒さに貪られた。


それでも。

良かった。


その小さなトリが、震えながら僕を見上げた。

目を大きく見開いて。


僕は。

ただ、この翼が、この僕が生まれてきた意味を、

空を飛ぶ以外の必要性を感じたかった。


空が飛べなくていい、飛ばなくていい。

でも。

大きな羽を、せめて、

この小さい身体を温めてあげる事は出来ると思った。

それくらい、してあげたいと思った。

小さいのに、僕より勇気がある、この子に。

自分のものじゃ無い、でも他者のものでも無いから。

これくらいのわがままを、どうか許してください。


紅色に染まった、いつもよりも濃い朝日が、僕の心を真っ赤に染め上げた。

熱い、あつい、燃え上がる様な感情。

僕が生まれた日と、同じ景色、においがした。


もう、その頃僕は目を閉じていただろう。

自分の体が徐々に冷えていくのを感じたのかもしれない。


でも、確かに、

この翼の内側に、微かな温もりを感じながら。


僕は、神と対話した。


神は、僕の願いを叶えて、もう一度生まれ変わらせてくれると言った。


ぼくは、何てくだらないのだろうと思いながらも、一つだけお願いをした。


「翼は要らない。でも、

誰かを守る勇気が欲しい。」

と。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 思わず読み入ってしまいました。 前書きと後書きの使い方が面白いな、と感じました。 主人公の気持ちに共感し、引き込まれました。 あなたが書いた作品の中で、私の中では一番心に残りました。(他の…
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