優しさ
そんなの子供の戯言だろうと私は思っていたけれど、この子は変わっているというか、決めたことは必ずやり遂げるという強い意志を持った子だった
母親のことは諦めて誰もいない家に帰ろうとした私の手を強く握って嫌がる私をもろともせずに女の子の家へと連れてかれた
「お父さん、この子は今日から私の妹だから」
「ええっ、誰?」
突然見知らぬ女の子を連れて来た娘にひどく困惑した様子で、それを見て私のほんのかすかに抱いていた希望が消え失せた
「この子のお母さんはいなくなっちゃってひとりぼっちなんだよ?可愛そうじゃない?」
「そうは言ってもなあ」
どうせ私は施設送りにされてしまうんだろう
施設に入ってしまった必要とされない子どもに食べさせるご飯ももったいないから殺されてしまうのかもしれない
突然迫ってきた死ぬという概念に私は恐怖し泣き叫んでしまった
「死にだぐないよぉ」
「ああっ、大丈夫かい?」
まるで父親のように私にすり寄って不安を和らげようとしてくれた
「君の名前は?」
「真衣...」
「じゃあ今日から君の名前は安達真衣だ」
苗字が変わることが何を意味するかよくわからなくてポケーッとしていると
「今日から真衣ちゃんは私たちの家族になるんだよ」
お姉ちゃんのこと一言は今まで言われたどの言葉よりも嬉しいものだったと今でも思う
だから私はこの命に代えてでも2人のことを守らなきゃいけない
「真衣はどうなるの?私たちと一緒に逃げられるんだよね?」
「えっ?」
「もし1人でなんとかしようとしてるなら私は本気で怒るよ?」
お姉ちゃんは私の想像をいつも超えてくる
私の秘密など全て姉の前では露見してしまってるのかもしれない
「今まで一緒に頑張ってきたじゃない。最後までやろうよ」
あの時みたいにお日様のような暖かな笑顔で私のことを包み込む
奈々ちゃんも会長も頷いてくれた
「真衣ちゃんっ、大丈夫??」
あいつを倒すための死を受け入れていた私に取り憑いていた死神がふうっといなくなったみたいに私の身体は軽くなって、恐怖という感情を取り戻して、みんなの優しさが痛くて、思わず泣いてしまった




