握手
私坂本が圭太に出会ったのは中3のときの中体連県大会だった
率直に言ってど田舎に住んでいたおれはその地区ではかろうじて1番の剣豪であり、いくら参加者が少ないとはいえ地区大会で優勝したときおれは剣道の才能があるなと感じていた
そんなおれが挑んだ県大会、初戦は相手が季節外れのインフルエンザにより不戦勝となり、ほぼほぼ運のおかげとはいえ県大会で記念すべき一勝を勝ち取った
そして二回戦、相手はシードで二回戦から登場の神野圭太であった
当時は運でシードを取った幸運なやつだと思っていたが、実際は前回大会の優勝者であり第1シードを実力で勝ち取っていたらしい
そんなことは知らず、意気揚々と挑んだ二回戦
たった3秒
気づいたら面を打たれて負けていた
このとき自分が鶏の口だと気づいた
それからおれは圭太を倒すため、必死に特訓を重ねた
受験勉強もそこそこに頑張って、なるべく多く戦えるように圭太の住む市の高校へと進学した
どうせあいつは私立の強豪校に進学するのだろうと決めつけ、練習試合をやったことがありなおかつ自分が合格できるところを受験しなんとか合格することができた
そして迎えた学校初日
教室に入り真っ先に目に入ったのは圭太の姿だった
「なんでお前がうちの学校にいるんだよ??」
「えっ?」
突然見ず知らずのやつからそんなこと言われ狼狽えている
こいつやっぱりおれの事覚えてないよな
「お前なら附属とかもっと強いところから推薦とか来てただろ?」
「あー」
ここでようやくおれが剣道をやっていて神野圭太がどれだけ強いのか知っていることを理解したようだ
そして衝撃の理由を言い放った
「この高校が1番家から近かったから」
「はあ??」
「剣道なんてどこでもできるし、通学めんどいし...」
何個か理由のようなものを挙げていたが、どれもクソみたいなものばかりで、そんなものでおれが納得できるわけなかった
「お前、剣道続けんの?」
今までのおれの計画が全て頓挫し、意気消沈しそうなおれにそんなしょうもない質問をしてきた
「当たり前だろ」
「じゃあ一緒に附属倒そうぜ」
日帝大附属高校通称附属は全国大会の常連で、団体戦では県大会6連覇とかしているやべーところだ
そこを倒そうと思うことが中々恐ろしいことなのに、そんなことを出会ったばかりのおれに言ってくるとは、思っていた以上にヤバい奴だなと思った
そんなぶっ飛んだ発言に自分の頭も不具合が発生したのか、なぜか倒せるんじゃないかという気がしてきた
「ああ、やってやろうぜ」
差し出された手を握りつぶすようにして神野圭太に同調してしまった
固い握手をしてしまったことをおれは後々後悔する




