紛失
ホテルまで連れ戻された後
私は心配しすぎな会長のご配慮を全て丁重にお断りして何とか自室で1人きりになることができた
とりあえず誰かが部屋に訪ねてきても私がいないことが悟られないように細工をし、転移装置であの村へ舞い戻った
ここまでして私が村へ戻ったのは非常に大事な忘れ物を取りに行くためである
あの胡散臭い牧師の部屋に入ったとき、牧師がハッキングの犯人であるという証拠を、そして真衣先輩が無罪であるという証拠を手に入れたくて超小型のカメラを仕掛けていた
誰かに見つかる前に回収しないと私たちが目をつけられかねないし何より肝心の映像が見れなくなってしまう
映像のデータをちゃんと私のもとに送信されるように設定しておいたのだけどなぜか届いてなかったのだ
再びやってきた教会の一室は初めに来た時と変わった様子がなく、この部屋で証拠となるような出来事が起きていない気がしてきた
「いやいや、何かしらあるはず」
ネガティブな考えを振り落として、気を取り直してカメラを探す
しかし
「あれ、ない、ないんだけど」
カメラはあるべき場所になかった
もしかしたらあの牧師さんが部屋中を走り回って埃と一緒に飛んで行ったと考えあちこち探すものの
「どこ行ったのー?」
手がかりを完全に失い犯人探しも暗礁に乗り上げてしまった
もしカメラを拾ったのが犯人なら映像データの送信先を調べられ私のことを特定されるかもしれない
何か手を打たなければ
この先のことを考えただけで頭が痛くなってくる
私はただこのゲームを純粋に楽しみたかっただけなのに
せっかく電脳世界を創ったのにこんなにも思い通りにならないなんて
争いを続ける人類に頭を抱える神様の気持ちが 少しわかった気がする
失意のまま私は宿へと戻った
グシャッ
「あいつが黒田をやったのか」
男は怒りに任せて拳を強く握った
「アニキ、今カメラが潰れたような音がしたんですけど...」
「あ?」
手のひらを見てみるとカメラが粉々になった金属に変わり果てていた
「ああああああ?!」
「あ、アニキィ?」
取り乱すアニキを見ておどおどする子分
「ふん、まあいい。犯人はわかったんだ」
すぐさま冷静さを取り戻したアニキを見て胸をなでおろす子分
「おい、服部。お前今のやつを殺ってこい」
「え、あっしがですか?」
「いいからさっさと行け」
「は、はいっす」
そもそも今の女がどこの誰なのかわからないじゃないかと不満を募らせるがそれがバレたら殺されかねないのであてもないのにとりあえずワープしてこの場から逃げ出した
「あの女、どうやって黒田を倒したか知らねえが覚悟しておけよ」
手のひらについたカメラだったものを地面に叩きつけ足で思い切り踏み潰した
まるでそれがあの少女だと思いながら




