国交成立
村上はミユキに日本の状況を粗方説明した。食料難、資源不足などなど…そしてミユキの目を最も見開かせたのは、日本がおそらく、否、確実に異世界から転移してきたと言うことも。
「な…で、では貴国はこの世界の国ではなく、なんらかの理由で転移してきた…と?」
「そうですね。原因はこちらでも究明中です。しかし、その間にも食料やそのほかの資源の備蓄は減りつつあるのです。食料だけでもそちらから輸入出来ませんか?」
「はあ、食料ですか…どれほどご所望ですか?」
「だいたい…年間5500万tほど…ですかね…いかんせんうちは自給率が低いのです。」
「ご…5500万t⁈」
「やはり無理ですか?」
村上のこの質問に対してミユキはかぶりを振る。
「い、いえ、この量は我が国一国でもご用意できます。ですがこれほどの量を迅速に運ぶ交通網は…」
「ならば対価として、こちらは交通網整備を行いましょう。資金は途上国支援金として捻出させます。」
「ほ、本当ですか!直ちに本国に報告しますわ!魔信機を持ってきて!」
ミユキは衛兵に頼み、魔信機を持ってきてもらう。そして本国に日本という国名、状況、転移してきた事を話す。
アシハラ皇国国皇執務室
「何⁈ニホン⁈本当にそう名乗ったのだな⁈」
アシハラ皇国国皇、テルヒト・アシハラは思わず叫んだ。
「はっ!その様であります!」
「わかった、外交官にはニホンの要求を呑むように伝えろ。」
テルヒトは報告にきた役人にそう言って下がらせた。
「(日本…まさか…飛ばされた?あの人や私と同様に?いや、今はそんなことを考えている場合では無い。帝国との戦争をどうにかせねば…)」
そうして、テルヒトはだんだんと考えにふけっていった。
外交派遣艦隊旗艦はりま艦内会議室
「ムラカミさん、陛下の許可がおりました。交渉成立です。」
「ありがとうございます!直ちに本国に報告します!」
すると村上の後ろでタイミングを図っていたのだろう、大谷が口を開く。
「まとまったところすいません。一つ質問があるのですが、ミユキさん…でしたかな?よろしいですか?」
「え、えぇ、構いませんわ?」
「ではお言葉に甘えて。我々が先日、ここを通りかかった時に、貴国の軍艦と思しき船と遭遇しました。するとなんらかの警告と思われる声が聞こえたのですが、聞いたことのない言語でした。しかし今は言葉が通じている。これはどういうことなのでしょう?」
ミユキは一瞬考えて、そしてすぐにハッとした顔になる。
「それはおそらく大陸間共通語だと思います。今私が話している言葉はアシハラ皇国の公用語、アシハラ語と呼ばれるものです。確か我が国の巡視用軍艦が未確認船を確認し、臨検をしようとしたところその船は引き返したと報告が上がっています。」
「なるほど、面白い偶然もあったものですな。」
大谷はそのまま納得顔で引き下がることにした。後にわかったことだが、どうやらミユキの言う大陸間共通語とは元の世界で言うエスペラント語に酷似していたと言うことだそうだ。
一方のミユキは質問の内容に少し身構えていた分、少し肩透かしを食らった気分だった。
「(フゥ…よかったわ…あまり深い内容に踏み込んでくれなくて…)そうですわね。では私は一度本国に戻ります。また2日後、細かい内容を詰めましょう。」
「わかりました。本日はありがとうございました。では2日後、今度は専門の役人も連れてまいります。」
この言葉をもって、最初の外交交渉は終了した。2日後、さらに細かい内容を詰め、正式な取り決めが以下の通りに決まった。
◯アシハラ皇国は日本国に対して年間5500万tの食料と資源を売る。
◯日本国はアシハラ皇国に食料、資源の対価としてアシハラ皇国のインフラ整備を行う。
◯日本国とアシハラ皇国は以上の内容をもって、通商条約、及び、友好条約を結ぶ。
日本はこの内容で条約を締結したことによって、さらなる深みへ沈んでいくことにまだ気づいていなかった。
さぁどんどん沈んでいきますよ〜