打ち上げと決定
あのキャラが久々に出てきます
2019年6月2日サンサ王国宮殿会議室
宮殿会議室は謁見の間を会議室に変えたような部屋だ。その会議室の中央、一番上座の席に座っている男は禿げるほど髪の毛が抜けるのにも構わず頭を掻きむしっていた。しかも悔しそうに。
「ええいあのクソジジイ!どこまで長生きしやがる!」
机を叩き、調度品を床へ投げつけ、書類を撒き散らし踏みつける男、サンサ王国国王パルセ・サンサは神聖サザンクロス帝国が自分たちよりも早くにニホンに接触し、大胆にも世界圏内会議への推薦することを決定したのだ。
昔から神聖サザンクロス帝国とは裏で競い合う関係(神聖サザンクロス帝国はどう考えているのかわからない)にあったサンサ王国としては今回の出来事を悔しく思っていた。
「王様、そこまで怒ったって仕方ありません。しかも神聖サザンクロス帝国の推薦は会議への出席許可と同等。ここは認めざるをえないでしょう」
「ダメだ!新参の蛮族を高尚なる会議に参加させるなどもっての他!容認できないと返事を送っておけ!」
「…は…」
結局、神聖サザンクロス帝国には推薦は容認できないというサンサ王国の回答が届き、両国の関係は悪化していくが、それはまた別の話。
後日、各先進国からの回答はサンサ王国以外の国が推薦、参加を容認した。これに伴って、日本に再び使者が送られることとなった。
2019年6月5日日本国首相官邸総理執務室
「わかりました。国会にて審議にかけます」
佐藤は再び使者として派遣されたレイモンドにそう答える。
日本は民主国家だ。普段ならばそう簡単には決まらないので渋るところだが、ここは異世界。それを理由に多少のゴリ押しは効くだろう。もっとも、件の国籍不明な党首とか、暴力革命家な野党とかは頭ごなしに反対するだろうが…
レイモンドが執務室から出て行くと、佐藤は机の上にある新聞を一瞥し、窓から空を仰ぐ。
「そろそろですかね…」
2019年6月5日12:00、種子島航空宇宙センター
種子島航空宇宙センターロケット発射台から離れた山の上、そこにはたくさんの人で溢れかえっていた。その訳は…
『まもなく、ロケット発射1分前です。まもなくカウントダウンに入ります』
ロケット発射、つまり転移前から予定されていた日本初軍事衛星と観察衛星、気象衛星が今日、打ち上げられる。
『5、4、3、2、1…0!』
エンジン噴射音と共にロケットが宇宙へ打ち上がる。同時に山の上でも大歓声が上がり、管制塔などはいうまでもなかった。
この後、予定通り衛星は起動し、5日後、この星の正確な地図が作られた。
さて、ロケット打ち上げだ、世界地図だなんだと大騒ぎしてる頃、国家は大紛糾していた。
議題は当然、世界圏内会議への参加への是非である。
大紛糾といっても大半の野党は賛成である。が、問題は先に取り上げた支離滅裂ブーメランな党と暴力革命家な党なのである。まぁ思想が真逆な党が共同戦線を張るというシュールな光景に一部有識者は大爆笑、これにはネットも大草原の嵐であった。
だが問題はそれ以外の党で、この二つの党にいい加減迷惑しているのである。
国会で誰かしら議員が寝てるのはお馴染みだが、今回はなんと半分が寝こけてしまった。
結局、議長が寝こけている議員を議長席から叩き起こし、採決をとる。結果はいうまでもなかった。もちろんその後の二つの党の命運も。
後日、佐藤はレイモンドに国会での採決の結果を伝える。
「国会での採決の結果、我が国は世界圏内会議への参加を可決いたしました。このことを本国によろしくお伝えください」
「わかりました。かならずや伝えましょう」
両者は握手を交わし、佐藤は細かい日程を聞いた。
レイモンドによると、世界圏内会議は来年1月10日、場所は神聖サザンクロス帝国帝都バルショイグラードとのこと。バルショイグラードは海に面している為、大半の国家は船で来るそうだ。
レイモンドは公式で伝えるべきことは一通り伝え、最後に私的なことでこんなことを言い残した。
「会議は大概、砲艦外交です。その辺りお踏まえください」
と。
佐藤は思った。砲艦外交ならば戦艦はりまだけではどうにもならない。故に、早急に戦艦ながとの就航を急ぐべきだと。幸いほとんどできているので公試を行いクリアすれば就航となる。
おそらく年末にはできるだろう。
佐藤は佐江島と海軍幕僚を呼び、戦艦ながとの就航を急ぐように指示した。
その後、10月29日、予定よりも早く戦艦ながとは就航した。
アシハラ皇国謁見の間
「我が国もあっという間に成長したな…」
テルヒトは感慨深く軍の訓練の様子を眺める。
兵士が持つのは後装式ライフル。俗に言われるスナイドル銃である。海軍も一気に進化し、80門戦列艦をすでに150隻もつ大海軍である。これでも既に先進国の下っ端から半ばぐらいまでなら余裕で相手できる。
技術は日本がある程度支援したが元はテルヒトの知識で成り立つ。戦列艦にはカロネード砲のコピー版や長砲が使用された本格的なもの。こちらは元々水軍が強いアシハラ皇国は練度上昇が早い。陸はそれよりかは遅いが十分なものである。
「なんかロマンですね〜」
隣にいた日本大使こと村上久が声をかける。
「そうだなぁ。いやぁいいもんだ。だが…」
「だが、何でしょう?」
「一回日本に帰りたい!」
テルヒトは顔を上げ、叫んだ。
「え、えっと…本国にそのように伝えておきます…」
「すまん、たのむ。ところで村上殿」
「はい?」
テルヒトは村上にニタニタした顔を向ける。それを見た村上は
「あ…マズった…」
と一瞬で理解したが時すでに遅し。
「ミユキ君と上手くやってる?」
村上の顔が一気に紅潮する。
経緯を説明すると、ゲール戦の後、村上はアシハラ皇国に派遣され、大使となった。そこでミユキと再会し、なんだかんだもじもじしていると、しびれを切らしたテルヒトが
「もう、そこ二人付き合えよ」
と後押ししたわけである。
「作者、あんたらあの2人忘れかけてたろ、本当は?」
…メタいのはやめてください。
閑話休題。
そんなわけで付き合い始めてから大体1ヶ月ほど経つ。ミユキとしても親に無理やりお見合い結婚させられるよりもマシと付き合い始めたら意外と上手くいっている模様である。
ちなみに両者の同僚は皆口を揃えて、
「「「知ってた」」」
と答えたそうだ。
村上とテルヒトがそんな話で盛り上がっている(テルヒトが村上をいじる)と…
「とりゃあーーーーー!」
テルヒトが吹き飛んだ。
ミユキが助走付きドロップキックをテルヒトにお見舞いしてやったのだ。
「陛下!そんなに弄らないでください!ヒサシも何ぼさっとしてんの!何か言い返さなきゃダメでしょ!」
「い、いやそんなこと言われてもなぁ…」
「もともとのほほんとした人だから打とうが何しようが基本ツッコミと捉えるタフな人よ!気にすることないわ!」
それはいささか失礼ではなかろうか、と村上は思う。するとテルヒトがやっと起き上がった。
「ミ、ミユキ君…いきなり酷いツッコミを食らったなぁ…いつつ…」
うわ…本当にツッコミって捉えたよこの人…
村上は少し引いた。
「それはそうと、陛下、これを…ニホンから届きました」
ミユキはそう言って、テルヒトに封筒を差し出す。
「ふむ…ん?これは…」
中身にテルヒトは思わず眉を顰めた。