新たなる選択肢
2本目です。
アストラル軍邦総統、パントラ・ロンは軍人だ。といっても、軍人の中でも、歴代総統の中でもとびっきりの奇人変人で、なのに歴代総統の中でもとびっきりの名君といういろんな意味でなんとも言えない性格な人だ。
後者については説明不要だろう、が前者はどういうことかを説明しよう。
彼は、軍人なのに根っからの「技術屋」なのだ。もちろん知識はあるし、指揮もできる。だが彼は昔から軍人らしからぬ所謂もやしっ子なのだ。そしてこの親してこの子ありとはよくいったものだ。そう彼の娘、ヘルヘラ・ロンも技術屋なのだ。
閑話休題。そんな感じのパントラに今、来客である。以前の予想が当たった、つまり日本の外交官が来ている。というか向かっている。
「どんなのでくるかなー、どんなのでくるかなー」
るんるんしてる…五十路のオヤジがるんるんしてる。
はたから見ればこの一言に尽きる。まぁ楽しみなのだろう。
そしてそんなるんるんしてる五十路オヤジの元に知らせが入る。
「閣下!ニホンの使節が参りました!」
「おお!来たか!何で来た?」
るんるんオヤジ、興味津々の図。知らせを届けた人物は笑いをこらえながら報告する。
「何かまでは判別できませんが、遅いですね。ただそこそこ大型です」
「ふむ…まぁ行けばわかるか…」
この発言に場は一瞬凍りつく。
「か、閣下?今なんと?空耳でなければご自身で出向くと聞こえたのですが?」
パントラはけろっとした顔でこう答えた。
「そうだが?客人を出向くのは当たり前だろう?」
と。そしてその場にいたパントラ以外全員が思った。
(((もうやだこのオヤジ)))
当然である。
パタパタパタパタ…
2019年5月20日、日本国国防陸軍所属CH-47《チヌーク》は日本国外交使節団を乗せ、バイル大陸、ゲール共和国領を経由し、アストラル軍邦首都シャープールに到着。外交使節団をアストラル総統及び高官が出迎えてくれた。
パン!パン!パン!パパーン!
「「「…………………………」」」
チヌークから降りて来た一同を出迎えたのは……クラッカーもったアストラル総統と高官たちである。そしてパントラをみてのちにこう語った。「向こうに着いたら、アロハな雰囲気でてる武藤みたいな人と高官にクラッカーで出迎えられた」と。
「ようこそ!ニホンのみなさん!」
パントラは外交使節団を笑顔で迎える。
「あ、日本国外交使節団代表の村田です。よろしくお願いします」
やっと反応ができるようになった外交使節団代表の村田はパントラと握手を交わす。
「総統のパントラ・ロンです。我が国とより良い関係をきずけることを願います。我々とニホンは似たような境遇なのですから」
「は?それはどういう…」
「そのうち話しましょう。さぁまずは博物館と街へ行きましょう。そのあとは…まぁ基地でもご覧に入れましょう。うちはこれぐらいしかないので」
パントラの言葉には嘘がない。嘘をつく余裕などないのだ。実はパントラはかなり動揺している。それどころかもう怖すぎていっそ地べたを這い蹲ってでも命乞いをしたい気分だ。
(え、嘘…回転翼機?マジかよ…)
こんな具合である。回転翼機、つまりヘリコプターは飛行機に劣ると思われがちであるが、非常に高度な技術が必要だ。まず、プロペラ回転は下へ向かう力だけではなく、力をプロペラの回転方向にも出しているため、トルクが発生する。そしてそれを綺麗に相殺できるだけの横方向への力を加えねばならない。それが小さなプロペラだ。そして、大きなプロペラには当然高い馬力がいる。そのエンジン技術が高度なのだ。
それを理解したパントラは正直膝が笑いそうなのだがそれよりも勝ったのが、ヘリコプターを娘に見せたいということだ。つまりは好奇心が勝った。それだけだ。
そうこうするうちに博物館、街の様子を視察した後、使節団は軍港に向かう。
「うわぁ、なんだろう。旧帝国軍の基地を見てる気分だ…あれ?あれは飛行機?」
村田は基地内にある複葉機に目を留めた。
「ん?興味がおありですか?これはスコルという機種で時速400kmが出る我が国の最新機です。魔法を使用しない飛空機では最速ですよ」
「ほう…いやはや、懐かしいものを見させていただきましたよ」
「な、懐かしい…ですか…」
「えぇ、もう、うちの国では博物館とか出ないと見れないので」
(博物館に展示されるほどニホンにとっては古いのか…)
パントラが少し考え込んでる間に、村田は今度は使節団と一緒に船を眺めて会話している。
「あれって…戦艦…だよな?」
「多分ドレッドノート級ぐらいですかね〜。いやはや、レシプロ機といいドレッドノート級といい、なんか歴史の勉強に来た気分です」
するとパントラは使節団の後ろから戦艦の解説をする。
「あの船は戦艦ウトリア。我が国の最新鋭艦です。最近就航しました。ところで皆様懐かしいやらなんやらおっしゃるようですが、具体的にどの位前なのでしょう?」
村田たちは少し固まって相談したあと切り出す。
「だいたい100年程前ですね。戦艦はつい最近うちも再配備しました」
(うちの技術100年前なの…)
こんな感じでパントラの気持ちは沈みつつ、よりニホンへの興味が高まっていく形で外交使節団訪問はことなきを得て、通商条約、友好条約が締結された。
日本国首相官邸総理執務室
「そうですか。アストラル軍邦との国交は成立しましたか」
佐藤は執務室の窓から外を見ながら言う。
「はい。ですが総統に関する第一印象が…」
外務大臣の大友が言葉を詰まらせる。
「どうかしましたか?」
「はい、なんでも…アロハな雰囲気でてる武藤みたいな人、とのことで…」
「なんですかそれ…ただの厳ついアロハオヤジみたいですね…その言い方」
「差し支えないかと」
「はぁ…先が思いやられます…」
佐藤はそう言うとがっくり項垂れた。
すると執務室のドアを誰かがノックした。佐藤はどうぞと言って入室を許可する。すると防衛大臣の佐江島が入って来た。
「佐藤さん、神聖サザンクロス帝国から使者が来たぞ」
「…………………………………はい?」
佐藤は思わずどこかの特命係のあの人のような返事をしてしまった。
本日2本目となりました。
最近は解説とか増えて来たのでもうちょいなんとかしようとは思うんですけど…以外と難しいもんですね。
あと、余談ですがもしかしたらテルヒトを主人公にした物語を構想しております。そちらもできましたら投稿します。
皆様、ご感想、評価いつもありがとうございます。今後ともよろしくお願いします