いつも通り。
「このカラダ…ヲ使って…人間…どもを…」
暗き闇の中。巨大な化け物が言った。
「ニンゲンヲ…ホロボシ…ワレガオウニ…」
「あァァアぁあああぁあ!!!!」
1人の金髪の少年は叫んだ。意識を乗っ取られるのは苦痛なのだろう。あまりにも辛い叫び声だった。
「助けてくれ…誰か…絢斗…」
〜♪
翌日の学校。終業の音楽が鳴り、俺とルシファーは龍弥の後をつけてみることにした。
「して絢斗よ」
魔道書から声が聞こえる。下校中なのだ。そろそろ出してもいいだろう。俺は魔道書を開きルシファーの目を見て話す事にした。
「なんだ。ルシファー」
「龍弥の事だが、もうすでに奴の支配は悪魔が握っておる。」
「つまりは今から奴の目的の場所…奴が魔力を蓄える場所に行くのか。」
「そういう事じゃろうな。悪魔の匂いがプンプンする。」
確かに。あの方向は龍弥の家の方向ではない。むしろ逆の道を辿っている。遊びに行くにしてもこの先は山。深い木々に囲まれ薄暗く気味の悪い山だ。
「なるほど。身を隠すには絶好の場所じゃな。」
「追いかけてみるぞ」
山の中はやけに静かで生き物の気配はなく。ただ静かに木の葉が揺れる音がした。
「この近くじゃ…この近くに奴の気配がする。」
気づかれれば何をされるか分からない。ゆっくり、慎重にルシファーについて行った。
「シバラク…ネムッテいろ…」
そういうと悪魔は龍弥の体から一旦離れ何やら大人しくただ座っている。文字通り羽を伸ばしているようだ。龍弥はまるで力が抜けたかのようにただ地面に倒れていた。
「あれ…は…」
「ふむ…「ベルゼブブ」か…中々厄介な相手じゃなぁ…」
ベルゼブブ。聞き覚えのある名前だ。確か何色かの球をいくつか揃えてコンボを決めるというゲームで強かった気がする。
「どうやって倒す?」
「そうじゃな…お主の体に憑依させてはくれぬか?一瞬だけでいい。なあに痛いのは一瞬だけじゃ。」
なぜ痛いのかが分からない。それに憑依する理由もわからない。
「なぜ俺に憑依するんだ。」
「我は悪魔の中の王。この姿は少なからず知られておる。この姿のまま行けば王戦脱落者であれば興奮し、そのものを巻き込みかねん」
龍弥を巻き込むのはさすがに困る。失敗に終わったが協力してくれた昔からの親友だ。
「分かったよ。こいつを助けるためならいくらでも取り憑いてくれ。」
「では、行くぞ。」
ーー暗い空間に1人。俺はそこにいた。辺りを見回すとそこにはなにもない。「無」の空間に俺は存在していた。
「絢斗よ。なるべくすぐに終わらせる。体を使わせてもらう事に感謝するぞ。」
どこからともなく声が聞こえる。おそらく銀髪の少女。ルシファーなのだろう。
「ああ!龍弥を頼んだぞ!」
そうすると俺は深い眠りに落ちた。ただ暗い闇の空間の中に1人。俺はそっと目を閉じた。
「ダレだ。お前…ハ」
「我が名は…俺は絢斗と言ってな。こいつの知り合いなんだよ」
「ナニを…しに来た…」
「いやぁ少しこの子返して欲しくてぇ…」
「ソレは…デキナイ…俺ハ…このカラダを使って世界を…シハイする!!」
「邪魔したら?」
「邪魔ヲするのナラ…殺す…」
そういうと悪魔は喉の奥から大剣を取り出した。長さは恐らく2mほどだろうか。
「そんなもので我を殺せるとでも?」
「人間ゴトきが…」
悪魔がルシファーに向かって大剣を振るとルシファーは避けず。まともに一撃を食らった。
はずだった。ルシファーの目の前で刃が止まっていた。まるで時が止まったかのように。周りのものは全て静止し、ルシファーだけに意識があった。
時を止める能力。それが彼女の力。
「能力を使うのは久しぶりじゃ。何せ、相手の攻撃をくらう直前にしか発動できないからなぁ」
そう呟くとルシファーは悪魔の手から剣を奪い、悪魔の腹に刃を差し込んだ。ルシファーが指を鳴らすとまるで時が再び動き始めたかのように木の葉の揺れる音が聞こえた。
「グウ…ゴパァ…」
悪魔の吐いた血がルシファーを紅に染める。
「我に刃向かった罰じゃ。我は悪魔の王。ルシファーじゃ。」
「ルシ…ファー…オレの夢ヲ…カエ…」
全てを言い終わる前に悪魔は倒れた。悪魔の体は灰に変わり、ルシファーの手から出る炎によって一瞬にして消え去った。
しばらくして俺は目が覚めた。
「うう…体が…重い…」
「最初はそうじゃろうな。我も憑依にはあまり慣れてなく少々疲れた。」
隣でそう声が聞こえた。見覚えのある天井。ここは自分の部屋だ。仰向けになっているということはベッドにいるのだろう。それにしてもとてもいい匂いが…
「ッ!?」
「どうしたのだ絢斗よ。顔を真っ赤にして」
それはそうだろう。悪魔とはいえ相手は女だ。同年代…もしくはその下のような見た目の女の子と一緒に寝るのはあまりよろしく…
「龍弥は…どうなったんだ。」
「あやつなら生きておる。今頃は目が覚めているじゃろう」
「良かった…」
〜♪
始業の音楽がなる。教室を見回すとそこには龍弥の姿があった。
「龍弥!大丈夫か!」
「ん、ああ…なんだか嫌な夢を見ていた気がするよ」
「良かった…無事で…」
思わず涙がこぼれた
「何泣いてんだお前」
龍弥は笑っていた。二人でいつものように笑っていた。いつも通りの風景がそこにはあった。
「えー、みなさん席についてください。みなさんには少し大切なお話があります。」
何やら重苦しい空気だ。
「実は平野さんが先日から行方不明になっており、現在警察が捜査していると…」
「…え?」
頭の中が真っ白になった。