人として。悪魔として。
ずっと否定してきた。俺は人間だ。例え生まれ変わりでも悪魔ではない。そう思い続けてきた。でも受け入れた。あの時の姿を思い返すと悪魔の他何者でもない。平野の死がそれを強く自覚させる。
「俺は悪魔だ」
「これからどうすればいい。悪魔として生きて行くのか、人として生きて行くのか。」
「人として生きれば良い」
ルシファーがドアの外でそう答えた。
「お前、一人にしろと…」
「一人にしてるではないか。部屋にはお前一人だぞ。」
「…とんだ屁理屈だな。」
人として生きる。果たしてそんなことができるのだろうか。またいつ、あのようなことが起きるのかわからない。怖い。人として生きるのは怖い。
「大丈夫じゃ。私がいる。何が起きても私が止める。仮にも同じとは契約をしている仲。恋人同士だからの」
「…お前…」
「はは、いちゃつくのは私がいないときにしてほしいですね。」
「グラウト…別にいちゃついてねえよ」
「いいんじゃないですか。人として生きても。私も付いてますよ。篝さん。」
人間との共存を許されない悪魔たちだが、こんなに心優しい悪魔がいるのなら共存しても良いのではないのか。そう思った。
「大丈夫じゃ。自信を持て。絢斗」
「どうなってもお前が止めるんじゃないのかよ」
「だからこそじゃ。わしとグラウトがいる。人間として、自信を持って生きるのじゃ」
「ルシファー…」
でも自信は持てない。平野は死んだのだ。それを助けられなかった自分に自信など…
「平野さんも、きっと貴方がそうやって後ろ向きに生きることを望んでいないのでは?」
「グラウト…」
確かにそうだ。俺だって逆の立場なら、例え自分が死んでも平野には生きていてほしい。
「分かったよ。これからもよろしく頼むよ。ルシファー。グラウト。」
「ところで絢斗よ。部屋の中に入っても良いかの?」
そう言えばそうだった。ずっと部屋の外へ追い出しっぱなしだ。このまま頼みごとをするのは失礼ではないのだろうか。
「あ、あぁ、すまない…」
「では…」
すると二人は中に入ってきた
「お前ら、その格好…」
「どうじゃ?似合うかの。」
「はは、お恥ずかしい。」
いかにも人間らしい格好。それに
「綺麗…」
「お主、自分の想い人が死んだというのに、他の女に見とれてどうする。」
「ルシファー様。そこに触れるのはあまりよろしくないかと」
思わず口を開いてしまった。それほどルシファーは綺麗だった。悪魔という事実を知らなければ普通の女の子だ。
「ところで絢斗様!私は!私も似合っているのでしょう!?」
「お前はその腰の剣をなんとかしろよ…」
確かにグラウトも普通の格好だ。しかし、剣を腰に携えると痛々しい男に見える。
「は、はぁ…仕方ありませんね。騎士として、剣を手放すことはあまりしたくはないのですが…」
「まあ、戦いになれば、持てば良いではないか。」
「ところで何故お前らそんな格好を?」
「我々もこの世界にいる間は人として生きることに決めた。絢斗と同じじゃな。」
「ええ。」
二人は微笑んだ。やっぱりルシファーの笑顔は綺麗だ。平野のことでいっぱいで気づかなかったがルシファーも可愛い。
「あ、そうじゃ。」
「ん?」
ちゅ。とルシファーそっと俺にキスをした。
「なっ…」
「悪魔界に行くときに一度契約を解いてしまったのではないか。もう一度、契約じゃ。」
「あ、ああ…」
「私は何も見ていない。私は何も…」
「グラウト。もう目を開けていいぞ。」
何故かグラウトは恥ずかしそうにしていた。
「ほんとに人として生きていいのか。」
「もちろんじゃ。自信を持て。」
「ええ。私達が付いてます。」
頼もしい二人だ。まだ迷いがあるが、俺は人として生きて行くことを決めた。