篝の失恋
1.好きな人の好きな悪魔
俺の名前は篝 絢斗。高校二年生。
俺には中学時代から想う女の子がいる。つまりは「好きな人」だ。
彼女の名前は平野 綺羅。あまり目立った子ではなく、明るい子というわけではなかった。おしとやかというものだろう。
「おはよう、平野」
「あ、おはよう!篝君!」
このように毎朝挨拶を交わすように仲はいい。幼馴染ってやつで昔からよく遊んだりしていた。漫画や小説などで幼馴染を好きになる話が多い気がするが、やはりそれは良くあることなのだろうか。
〜♪
始業の音楽がなる。この学校では珍しくチャイムではなく音楽がなる。いつものように席に着き、授業を受ける。そんな毎日を送っていた。
だがある日奇妙なものを見たのだ。
学校が終わり、チャイムと共に一斉に生徒が解散する。部活をする者、帰る者。それぞれに分かれて行った。が、平野は教室に残ったままだ。勉強でもしているのだろうか。しかし奇妙な本を読んでいるな…何やら分厚い。
「気になるのか?」
「うわっ!なんだよいきなり!」
後ろには金髪の不良少年が立っていた。こいつは俺にとっては親友のような奴。名前は佐藤 龍弥。この辺じゃちょっと有名な不良少年だ。
「お前最近平野のことばかり気にしてるみたいだが、どうしたんだ?」
「そ、それは…」
「もしかして…好きなのか?」
龍弥はニヤっとした。こいつは不良少年だが人の秘密をばらまくような奴ではない。根はいい奴なのだ。親友でもあるし、こいつになら教えても…
「そうだよ…何か悪いか?」
「にひひ、やっぱりな!そんな感じがしてたよ!なんなら協力してやってもいいぜ?」
こいつはやっぱりいい奴d…
「条件付きでな!」
「やっぱりか。」
いつもこういうパターンだ。どちらかが頼みごとをするとき、条件というものをつける。まあその方が仮を増やさないいい方法だと思うが…
「んで?なんだよ条件ってのは。」
「腹減ったから飯、奢ってくれ!」
「わーったよ、じゃあ行くか。」
そう行って俺と龍弥は最寄りのファミレスに行った。家に帰る道には遠回りになるが協力してくれるというのだ。そこは諦めよう。
「そんで?」
「むぐっ?」
さすが不良少年。がっつく姿がよく似合っている。
「…協力って一体何を」
「そうだなぁ…」
「考えてなかったのか。」
「ああ、ごめん」
彼は笑いながらそう答えた。考えてもないのに条件付きで協力すると言ってきたのか。なんと馬鹿なのか。
…いい奴め。
「あ、それじゃあさ!」
龍弥は何かを閃いたかのか。頭の回転は早いようだが…それをいうのはまだ早い。何を閃いたのか…
「後をつけて平野のことを観察してみるのは?」
「な、何だとっ///」
それじゃあまるでストーカーだ。周りの客がこちらを見ている。明らかに俺は変態という目で見られている。俺は顔を真っ赤にし、俯いた…
「でも…」
「でも?」
確かにそうだ。どんな形であれその人のことを知る事は大切だ。大丈夫だ、誰かが必ずやったことがあるはずだ。意中の子をストーカーすることくらい…
「やってみる価値はあるな…」
「本当か!考えてみたかいがあったなぁ…!」
「でもいつそんなことができる。」
「ん?学校帰りでいんじゃね?」
それはそうか。一番単純でやりやすい時間だ。
「じゃあそうしてみるよ」
「おう!感謝したまえよ!絢斗くん!」
そして俺と龍弥はファミレスを出た。
龍弥は少し用事があるといい、急いで帰っていった。
あまり通らない道だ。しかもあたりは暗くなりよくわからない。
「困ったな…」
とりあえず、きた道を辿ってみることにした。
明日はストーカーという少々犯罪じみたことをするのだ早く帰って多少の覚悟は決めておきたい。そう思いきた道を辿り歩き出そうとする。
「あれ?」
暗くてよくわからないがこの感じ。
彼女、平野 綺羅がそこにいた。
こちらには気づいていないようで何やらそわそわしながら細い路地に入っていった。
もう8時近く回っている。真っ暗だし危ない。
「決行は明日の予定だが…予定変更。今から追いかけてみるか」
これはストーカーではない、彼女の身を案じての行為だ。そう言い聞かせ、俺は細い路地に入っていった。
そこには人影など全くなく、何やら薄気味悪い感覚だった。角を曲がると彼女がそこにいた。
「平…」
彼女の名前を呼ぼうとしたその時だった。
バサッバサッ
そう聞こえた。何かが飛んでいるような音。
鳥?違う。コウモリ…違う。もっと大きい音だ。
空を見上げるとそこには身長は170センチほどの人型の羽の生えた…よくみると角のようなものも生えている。まるで…「悪魔」のようだ。そしてその生物は彼女の前に舞い降りると口を開いた。
「平野…綺羅…会いに…きた…」
「こんばんは、ベルフェゴール。また会ったね」
「…ああ…」
そのようなやり取りをすると彼女と悪魔の影が重なったように見えた。悪魔の特徴である角や羽の影はない。まるで人同士がキスを…
「ッ!!!!」
その時声を失ってしまった。心臓の音が止まらない。頭の中がぐちゃぐちゃだ。俺の好きな人が見知らぬ奴に…唇を奪われているかと思うと…憎悪、怒り、悲しみ、言い表せない。分かっている。それは自分の勝手なことだと。だけど感情が溢れでるのを止められない。ここで泣いてはダメだ、帰って泣こう。
ダメだ…もう…
「うっ…うう…」
思わず声が漏れた。その瞬間刃の様な風が俺を襲った。頬から血が流れている。けど痛みはない。それどころでない。
「お前は…ダレ…だ…」
人型の悪魔のような生物はそう言った。随分と低い声が俺の恐怖心を煽る。
「篝…くん?」
終わった…完全に嫌われてしまった。こんなところを見てしまったんだ。それに相手には悪魔がいる。殺されるに違いない。
「う、ウワァァァァァ!!!!!」
頭を抱え地面に額をつけ、叫んだ。無様だ。かっこ悪い。好きな人の前で。
…何も反応がない。あまりの無様さに呆れて声も出ないのだろうか。
「…え?」
そこには何の影もなかった。悪魔はもちろん平野の姿も。俺は暗く静まり返った夜道を歩き、何とか家に着いた。布団に潜りその夜は泣いた。男は泣くな。そんなことは出来ない。人間だ。悲しいものは悲しい。
「俺の…好きな人の…好きな悪魔…」
いつの間にか俺は眠りに就いていた。