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アポカリプスへようこそ  作者: 匙尾ナゲル
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憔悴のち落下のち戦場

 「なんだ?この穴」 


しがない大学生、喜多見総司(きたみそうじ)は憔悴しきっていた。原因は昨今社会問題にまで発展している就職活動のせいだ。そう、全く終わる気配がないのだ。

 今日もまた、就活帰りの帰路につく。総司が独り暮らしをしているアパートは住宅街のど真ん中にあるため、通常であれば日が落ちるこの時間は少なからず数人の人影があるが不思議と今は誰も通ってはいない。人の目を気にしないで済むので疲れた顔を隠しもせず、総司は俯き気味のまま前に進む。ここまでは日常と特に変わらぬ風景であった。しかし今日は違ったところがある。彼が普段歩くコンクリートの地面の一部が突如吸い取られたように穴が空いたのだ。彼の目の前で、それも音もなくだ。

 周囲を見渡しても、道路工事などを行っていた形跡は全くなく、なにより穴が不自然なくらいきれいに空いているのだ。地下に空洞があってコンクリートが落ちたとかではなく、空間にそのまま抉り取った

ようにその穴は存在したのだ。穴を覗き見ても底が暗闇が支配していてどのくらい深いのか見当がつかない。総司は試しに落ちていた小石を投げ入れてみた。


「-----」

 

本来聞こえるはずの石がぶつかる音はなくただただ静寂がこの場を包んでいた。総司の中でこの穴の気味悪さのパラメーターが数段飛ばしで上昇する。 

 あまりに奇妙な光景を目の当たりにして、様々な思考をしながらも疲れ切った頭では明確な答えは期待できなかった。普段であれば警察に通報するなりしたであろうが今の総司にそんな余裕は無かった。疲れた体を休ませたい彼はとにかく家に帰ることしか考えられないため穴を避けて歩こうとし、歩みを始める。幸い穴の大きさはマンホール程度で、避けて通るのは簡単である。十分に注意を払い歩みを始める。

 

 「えっ」

 

 穴を避けるために道端に向かっていた一歩目に地面を踏みしめる感触はなく、あるのは足が空を切る感覚のみ。

 結果、総司は穴に落ちた

 

 「っなぁぁぁ!?」


 

 なぜと言おうとして素っ頓狂な悲鳴をあげながら落ちていく。だが、すんでのところで穴のふちに手をかけた。


 「あ、あぶな!?」 

  

 助かった、そう思ったその瞬間...。


 掴んでいたはずの穴の淵の感触が消え、突然の浮遊感が総司を包む。

  

 「は?」

 

 疑問が浮かぶよりも先に答えが目の前にあった。穴がひとりでに動き、形を変えたのだ。

 

 (生き物か!?こいつ。)

 

 今度こそ総司は底の見えない穴に落ちていった。

 (穴はそんなに大きくなかった、せめて掴まれるところがあれば。)

 助かりたい一心で穴の側面に手を伸ばす。しかし目の前にある壁は幻のように感触がなく触れることすらままならない。

 (ここで死ぬのか。)

 総司はふとそんなことを考える。 

 (せめて就職決まってから死にたかったな。)

 とそんなことを思いながら、

 (じいさん、ばあさんごめん。今までありがとう、せめて社会人になった姿見せたかった。)

 今は離れて暮らしている育ててくれた祖父母に謝罪と感謝の言葉を頭の中でささやく。そして受け入れるようにまぶたを閉じた。

 

 しばらく後...


 「------ぅん。」


 背中に当たるかすかな衝撃により、煙がかった総司の意識は少しずつ現実に移っていく。どうやらいつの間にか眠ってしまったようだ。

 (----あれ?俺いつのまに寝たんだ?っていうか何がどうしたんだっけ?)

 「...。」

 「---は!!」

 朦朧としていた意識が完全に呼び戻された。

 (そうだ、俺は穴に落ちてそのまま死...。)


 死んでいない。

 体の感覚はあり、記憶もある。今こうして考えることができている事実が自分が死んでいないと判断できた。

 「...っ!?」

 次に体が受け取った情報は臭いである。今まで嗅いだことのない臭いがしたのだ。

 (なんだこの臭い、気持ち悪い。)

 その時総司は初めて顔を上げた。

 「え...?」

 彼が立っていたのは屍の大地だった。

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