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春菜様の1日①

「眠れないわね」


 私紅春菜は、眠れないでいた。


 私には、幼なじみがいる。生まれた時から一緒の幼なじみだ。


 秋人くんとは、私が何かするときはいつも一緒だった。いやそれはちょっと違う。いつも一緒に居たかったから私が無理やり引っ張っていったという方が正しい。今だってそうだ。学園生活、本当は一緒にいることなんて、かなうはずがないのに、秋人くんには無理をして一緒に通ってもらってる。


「私だけが知っている秘密。私と秋人くんだけの関係」


 そう私たちだけの秘密だ。無理をしてもらって、心苦しく思っているのは本当だ。でも、私と彼が共有する秘密。嬉しいと思い優越感に浸っているこの心を否定できるはずもない。


「それが……」


 そう、それが今日なくなった。霧江先輩は、秋人くんの昔の同級生らしい。らしいというのはおかしいな。私は、彼女のことを知っていた。秋人くんが学校に通っていたころ、彼女の話はよく出てきた。そのたびに私は、彼女に対して強く嫉妬を覚えていた。


「私と秋人くんだけの関係を奪わないで……」


 私は、秋人くんが好きだ。いや大好きだ。それはもう何時からだか覚えていないほど昔、きっと生まれた時から好きだったのだろう。私が一緒に居たかったのは、家族みたいに思っているからとか、幼なじみとして好きだからとかではない。いや少しはそうなのも否定しないが、私が彼といっしょにいたいのは私が彼とくっつきたいのは、愛しているからだ。恋愛として、異性として恋人になりたいほど好きだからだ。


「秋人くん。私はあなたが好きなの……」


 1人の時は、こんなにも簡単に言える言葉が、彼には言える気がしない。それもこれも彼のせいだ。好きだと言おうとするたびに、あの光景がフラッシュバックする。


「秋人くん! 話があるの」


 それは私たちが、まだ小学生の時だった。その日は特に何があるというわけでもなく、ただただいつもの日常だった。だが小学生。少しはませてくる年頃でもある。私も御多分にもれず、ませていた。


「なんですか?」


 それに秋人くんと恋人みたいなことをしたいという欲もあった。だから私はその日、秋人くんに告白することを決意していた。


「あのね、私と秋人くんっていつも一緒に居るじゃない」


「うん、そうだね。でもいきなりどうしたの?」

 

「それでね、私ね、秋人くんともっと一緒にいたいし、大きくなってからもずっと一緒にいたいしくらしたいの。だからね、そのね、私と付き合って欲しいの。私を秋人くんの彼女にしてください」


 その後の彼のセリフと、彼のきょとんとした顔が今も頭から離れない。この表情と言葉が、今も私を進ませないでいる。


「なにをいってるの? 僕は、春菜様の遊び相手だし、将来は執事だよ。執事がお嬢様の恋人になれるはずがないじゃないか。立場が違うよ。でも、大きくなっても、春菜様が望む限りは執事として一緒にいるからね」


 その後のことは、あまり覚えていない。このできごとがきっかけで、秋人くんが執事と言うたびに、少し気持ち悪くなるくらいにはトラウマになっている。彼に好きだと伝えようとするだけで、膝から崩れ落ちそうになる。


 秋人くんの気持ちは今も変わらないのだろう。今も執事とお嬢様。この前は妹みたいだとか言ってはいたが、根本的なところでは、彼は私の執事以外の何物でもないのだ。


「でも、もしかしたらって思っていたのに……」


 そう。この学園生活で、もしかしたらなにか変わるのではないかと少し期待していたのだ。今までの家だけでの関係から飛び出し、メイドとしてではあるが学友として、唯一の秘密の共有者として、そこから関係は進み、対等な関係として、恋人同士として、そうでなくとも少しは関係が進むのではないかと期待していた。


 実際うまく行っていた。この前も私の執事じゃなくなったら友人として一緒に居て欲しいと言われた。正直あの時は飛び上がるほど嬉しかった。もしかしたらこのまま関係が変わっていってくれるのではないかと期待していた。


 だが現実は、そんなに甘くなかった。霧江さんのことを話す秋人くんを見て悟ってしまった。私はきっといつまでたってもこの関係から進むことはできないんだろう。私は秋人くんから見ていつまでもお嬢様であり、異性ではないのだ。霧絵さんと秋人くんのような関係にはいくら頑張ってもなれそうにない。


「つらいよ……」


 きっと秋人くんの彼女になるのは、霧江さんみたいな普通の人なのだろう。秋人くんは、それでも私の執事として、一緒にいてくれるんだろう。でもそれはもう、私の秋人くんじゃない。他の誰かの秋人くんなんだ。その想像だけで、私は涙が止まらなくなった。


「もう、諦めるしかないのでしょうか……」


 彼を諦めることができれば、彼を好きじゃなければこんな痛みもつらさも味合わなかったのかな。こんな気持を味わい続けなければいけないのならば、いっそ止まらないこの涙と一緒に、彼への恋心も流れていって欲しいと思った。だがいくら涙を流しても、この思いが流れていくことはないようだった。


 結局その日は、朝になるまで1睡もすることができなかった。

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