秋人の1日①
学園に通う理由は今後一切話してはいけないことになった。まあ、もう話す相手もいないんだけどね。でもあそこまで、恥ずかしそうにさせちゃって悪いことをしたな。霧江も言ってたけど、今日は春菜様をよく観察することにしよう。
「おはようございます春菜様。今日も頑張ろうね。って春菜様!? クマ酷いけど大丈夫?」
朝、春菜様を迎えに行くと、よく観察するまでもなく春菜様の目の下にはわかりやすいクマができていた。もしかして恥ずかしすぎて、目が冴えちゃって眠れなかったのかな。ほんとうに悪いことをした。反省しよう。
「大丈夫よ。少し昨日夜更かしをしてしまっただけよ。別に今日は体育とかもないし普通に授業を受ける分には問題無いわ」
「本当に? 今日は休んでもいいんだよ? 僕が原因みたいだし、一日中看病するから今日は寝てても良いんじゃない?」
春菜様はピクッと反応を一瞬したが、結局は僕を鼻で笑っていつものように僕のことをバカにしだした。
「僕が原因? 自意識過剰じゃないかしら。断じてあなたが思っているような理由で寝れなかったわけではないから、安心しなさい。それに、寝不足だから学校休みますー。なんてできるわけ無いでしょう」
僕が原因ではないみたいだ。でもだからといって、春菜様の体調が良くなるわけでもないし、とても心配だ。
「ほんとうに大丈夫? 春菜様が学校行くって言うなら僕は従うけど、ほんとうに無理そうになったら、保健室行こうね。というより、僕が春菜様が辛そうだなと思ったら、無理やりにでも保健室連れて行くからね」
春菜様は、嬉しいような、残念そうな顔をしている。いつもだったらここで流してしまうけれども、ここは昨日の霧江のアドバイスを活かして、しっかりと春菜様を観察してみよう。むむむ……
「なに? そんなに凝視してくると、少し気持ち悪いんだけど」
ごめんね霧江。あんまりアドバイスを活かせそうにないかも。
「そんなに心配しなくても、大丈夫よ。確かに少し調子は悪いけれども、どうにかなってしまうほど悪いわけではないわ」
僕の視線を、心配の視線と感じたのか、春菜様は僕に向かって、ほほ笑みを浮かべた。
今日は少しでも無理そうだと思ったら、春菜様は嫌がるだろうけど僕が無理やりにでも休ませないといけないな。
「そろそろ行かないと遅刻してしまうわ。行きましょう」
確かに、そろそろ時間だ。取り敢えずは出発しなくちゃ。
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これから午後の授業が始まる。春菜様は午前中は、完璧だった。授業中も少し眠そうな顔を見せてはいたものの、周りにはわからない程度だったし、夏樹様や冬歌様とも普段通りに話している。流石春菜様だな。
どちらかと言うと、怪しがられているのは僕の方だ。昼食の前に、僕が1人になった所で皐月さんに。
「紅葉さん。今日は、よく春菜様の方を見ていますね。なにか気になることでもあるんですか? それともやっぱり……」
皐月さんの疑念は未だに完全には晴れていなかったらしい。どこを見たらそう思うんだろうか? でも、僕の行動を不審がられても行けないので、なるべくわからないように、見ていたはずなのによく気付いたね。
「やっぱりの後の内容は聞きませんけど違います。実は昨日他のメイドさんから、もう少し春菜様を見たほうが良いのではないか? と言われてしまったので、今日は少し春菜様を見るようにしているんですよ」
霧江のことを言うわけにも行かないので、少し嘘をついてしまった。
「紅葉さんはいつも十分に、春菜様を見てる気がしますけど? それこそ私がまだ同士なのではないかと諦められないほどには。それもあって、紅葉さんのことはよく見ているんですよ」
皐月さんは首を傾げている。春菜様をしっかり見てますよと言ってくれるのは嬉しいけど、そのせいで同士扱いはかんべんしてほしいな。あと僕を見過ぎると、他のことが見えてきてしまう可能性があるからかんべんしてほしいな。
「前も言いましたけど、確かに春菜様のことは好きです。けれどそれは親愛の情であって、そうですね家族に向けるような愛情ですから。決してLoveではありません」
僕は、今一度しっかりと否定しておくことにした。これ以上僕のことを探られても危ないし、春菜様は好きだけど、実際に家族に向けるような愛情だからね。
皐月さんはつまらなそうな顔をしている。ごめんね同士になれなくて。
「何を話しているのですか?」
僕たちが話していると、春菜様がやってきた。それからすぐに、何時ものメンバーもやってきたため、僕たちは話を止め、昼食のため喫茶店に向かった。
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午後の授業も終わった。春菜様は、午前中に比べてとても辛そうだった。だが僕が心配そうにしても、大丈夫というだけで、保健室に行ってくれる気はなかった。
「では帰りましょうか」
僕たちは、いつもの4人に別れの挨拶をしてから教室を出た。
「春菜様大丈夫ですか? 肩かしましょうか?」
「廊下とはいえ、今ここで肩をかりたら目立つでしょう。それにあなたに肩を借りるほどひどくはないわ」
春菜様は、朝よりも辛そうだが僕に力を借りるのは嫌みたいだ。
結局春菜様は車につくまで、僕に肩を借りることはなかった。
「春菜様、大丈夫ですか?」
車に乗ってしばらくすると、春菜様から返事がなくなってしまった。少し眠ってしまったみたいだ。今日は、朝から辛そうだったのに、頑張ったのだから仕方ない。しばらく寝かせてあげよう。
それからしばらくして。
「着きましたよ」
家の前に付いたようだ。だが、春菜様は起きる気配がない。
「中から誰か呼びましょうか?」
運転手さんは、眠っている春菜様を運ぶために、誰かを中から呼んでこようとしている。
「いえ、大丈夫です。僕が運びます」
今日一日春菜様をしっかりと見ていてわかったことがある。さっきもそうだ。僕が肩をかそうかといった時、春菜様は断ったが、少し後悔しているように見えた。きっと、それ以外にも僕に頼りたいことはあるのだろう。でもそれは春菜様のプライドが許さないんだ。春菜様はプライドが強い人だ。僕に頼ることは恥だとでも、考えてるんじゃないだろうか?……でも眠ってる時くらいは良いよね。
「わかりました。では私にも、2人のかばんくらいは持たしてください」
運転手さんは僕に笑いかけながら、僕と彼女のかばんを持ってくれた。
「ありがとうございます。よいしょっと」
運転手さんがかばんを持ったように僕は、春菜様を背中に背負った。
春菜様はとても軽かった。でもこの体で、僕のことを含めて、いろいろなものを背負っているのだろう。
「起きる気配はないようですね。では行きましょうか」
運転手さんと僕は車を降りて、お屋敷に向けて歩き出した。
「ねえ春菜様」
僕は歩きながら春菜様に語りかける。こんなことを起きている時に言えば、どうせバカにされてしまうに決まっているからね。
「いつもありがとうね。僕は春菜様のおかげでとても助かってるし、とても楽しいよ。でもね、前も言ったけど僕は春菜様と一緒に楽しみたいんだ」
まだ学園生活が始まってまもないけど、それでも今はとても充実している。でも、改めて今日分かったけれども、僕のせいで春菜様はとても大変そうに、気に病んでいるのも事実だ。
「だからね、少し頼りないかもしれないけど、なるべく僕を頼ってほしいな。一緒に楽しんで、一緒に悩んでこその、1度きりの輝かしい学園生活だと思うから」
「て、眠っているとはいえなんか恥ずかしいね」
僕が自分の言葉に少し恥ずかしがっていると、首に回された春菜様の手がキュッとしまった気がした。




