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願いはいっぱい

「やあやあ久しぶりー。元気にしてた?」


 学園案内が終わった後は何事もなく放課後になった。その後、春奈様と屋敷に帰った後僕は普段の私服に着替え、電車を乗り継ぎ待ち合わせのファミレスに向かった。そして先に待っていた霧江の一言目がこれだ。


「さすがに白々しすぎるよ。でも、ある意味久しぶりでもあってるのかな?」


「そうだよ、久しぶりだよー。だってさっき会ったのは紅葉ちゃんで、今あってるのは、秋人君だからね」


 そういって、霧江は不敵な笑みを浮かべている。


「でも、本当に助かったよ。もしあそこで、ばらされちゃってたらどうなっていたかわからないし」


「いやー私もびっくりしたよ。なんか見たことあるような子がいるなと思ったら、その子もこっち向いてるし、それでよく見てみれば秋人君だし。あそこで名前を呼ばなかった私を、褒めてあげたいよ」


 本当に、あそこは危なかった。半分名前を呼んでたし、あのままばれるんじゃないかと思ったよ。


「いやーでも、笑っちゃうのは仕方ないよね。だって、知り合いが女装してしかも似合ってるからばれてないとか、誰も思わないでしょ。おもしろすぎるよー」


 それは、僕も思う。実際最初は、すぐばれたり、まず学園に入れないんじゃないかと思ってたから。まあ今でも戦々恐々としてるけどね。


「でも途中で、僕が女装してるの忘れてたでしょ」


「忘れてたんじゃなくて、違和感がなさ過ぎて、当たり前に受け入れちゃってたんだよー。それで、改めて昔の明人君と重ね合わせて……くくくっ」


 また霧江は笑い出してしまった。そんなに違和感ないって言われると、落ち込むからやめてほしいな。


「笑いすぎだよ。多分まだ冬歌様は納得していないし、僕たちの関係疑ってるよ」


「まあそうだろうねー。冬歌さん、最後まで僕たちのこと観察してきてたし。でも、私と秋人君に何か関係があるとはわかっても、さすがにそこから、秋人君が女装してる! とまでは結びつかないんじゃないかな?」


 疑っているのはなんとなくわかってたけど、僕と霧江のことを観察してたのまでは、気づかなかったな。意外に周りのことを見てるんだな。


「確かに、昔の知り合いだってわかっても、そこから僕が女装してる! とまではばれそうにないね。ん? じゃあなんで知り合いだって言わなかったの?」


「もし知り合いだって言った場合、秋人君が用意した過去話と齟齬が生じたらそれこそ困るからねー。一応他人ってことにしといたよ」


 確かに、霧江は僕が彼女たちにどんな話をしているのか知らないのだから、そこから過去に何かあると怪しまれたら危なかったかもしれない。

 霧江はそこまで考えて、とっさに僕をかばってくれたらしい。


「そこまで考えてくれていたんだね。僕をかばってくれたことといい、今回は本当に助かったよ。ありがとう。僕にできることならなんでもするよ。だから何でも言って」


「ん?本当に何でもしてくれるの??」


 僕の言葉を聞いた霧江は、顔をにやりとゆがめながら体を近づけてきた。すこし早まったかもしれない。でも、それだけのことを、彼女はやってくれたんだ。なるべくなら叶えるように努力しよう。


「うん。僕にかなえられる願いなら、なるべく努力はするよ」


 霧江は僕の発言に満足そうに笑みを深めた。何をお願いするのだろうか怖すぎる。今からでも撤回しようかな。


「そうだなー、じゃあまず願いを3つにしてもらおうかな」


 えぇー……。その願いは、よくあるかなえられない願いに当てはまると思うんだけど……。でも今回僕はかなえられない願いの指定をしてないからなー。それに3つでも少ないほど助けてもらったから仕方ないか。


「わかったよ。3つに増やすことを認めるよ。でもこれ以上は増やさないからね」


「ありがとね。でもまあランプの魔人でさえ3つかなえてくれるんだしそれくらいならいいよね」


 ランプの魔人でも、願い事を増やす願いはダメだったと思うけどね。


「じゃあ願い事の1つ目ね。そもそもなんで学園にメイドとして通うことになったの? 多分春菜さんが影響してるんだろうけどしっかり教えてよ」


「そんなことでいいの?」


 正直もっとどぎついお願いが来ると思っていた。それこそ、僕の恥ずかしい秘密暴露大会くらいは覚悟していた。


「そんなことって、春菜さんに口止めとかされてないの?」


「別にされてないけど? あっでも春菜様というかほかの人には絶対言っちゃだめだよ。守ってくれるなら話すよ」


「当たり前だよ。それに誰に話すっていうのさ。話す人なんていないよ」


「じゃあ、話すね--」


 僕は霧江に向かって僕が学園に通うことになった理由を細かく、それこそ幼少期の女装させられてたところから話した。まあ、それくらいはかばってくれたことに、感謝しているってことだ。

 僕が話し終えると、霧江は難しい顔をしていた。確かに、ひどい理由だよね。


「うん。秋人君ってだいぶ最低だよね」


「なんで!?」


 難しい顔をしながら霧江はため息をついた。春菜様がひどいならわからなくもないけど、僕は悪くないと思うんだけど。


「きっと、これ以上に秋人君がどうでもいいと思って語ってないことや、忘れていることもあるんだろうけど、取りあえず春菜様がかわいそうかな」


「いやいや、僕の話ちゃんと聞いてた? 僕振り回されてばっかだよ」


「うん多分秋人君に言っても無駄だし、春菜さんも望んでないだろうから言わないけど、もうすこし春菜さんのこと見たほうがいいと思うよ」


 僕ほど春菜様のこと見てる人もいないと思うんだけどな。でもそういうなら、しばらくはもう少し、春菜様のこと見てみようかな。


「とりあえずこれ以上話を聞いてると、可哀そうすぎて泣いちゃいそうだから、第1のお願いはもういいよ」


 僕は少し釈然としないが、霧江がもういいというなら、これ以上話す必要もないし、僕も問題ない。


「じゃあ2つ目のお願いは?」


「2つ目のお願いはね、また今度2人で天体観測にいこうよ」


 霧江とは昔はよく2人で天体観測に行っていた。でも卒業してからはすっかりご無沙汰だった。彼女はお願いだといったが、それこそ僕からもお願いしたいくらいだ。


「うん、僕も霧江との天体観測はとても好きだったんだ。だからこちらからお願いしたいくらいだよ。いっしょにこの1年で何があったのか、星を見ながらゆっくりと語り合おう」


霧江は僕ににっこりとほほ笑みながら頷いた。


「いやー私も、この1年結構波乱万丈だったからね。そっちにもなかなか負けない自信があるよ……いや、でも女装して学園に通うインパクトには負けるか」


 少し感傷に浸ってたのに、それを言わないでよ。


「じゃあ3つ目は?」


 僕が気を取り直して3つ目のお願いを聞くと、霧江はほほえみからニヤリとした笑みに笑みの種類を変えた。


「まだ、決めてないから保留でお願い。私が本当に困ったときに頼るよ」


 確かに、いつとも言ってないからね。保留でももちろんいい。でも。


「本当に霧江が困った時なら、僕は無条件で霧江を助けるよ」


 それに対して霧江は、はぁーとため息をついた。なんでさ、僕結構いいこと言ったと思うんだけどな。


「これだから、秋人君は。まあいいや。じゃあ少し困ったときに3つ目の願いは使わせてもらおうかな」


 その後は、笑いながらとりとめのない話をして、その日は別れた。


---


 その夜、春菜様に今日の話と、学園に僕が通う理由を霧江に話したと報告したら、顔をとても赤くしながら怒られた。そんなに恥ずかしいかな?

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