お花畑で会いましょう
その日は、夏樹様が倒れたこともあり、解散となった。お屋敷に帰ってからも、いつものように春菜様とお茶を行い、部屋で少し話をして1日が終わった。
1日目に比べて、僕の身辺に関しては、とても穏やかな1日だった。今日みたいな日がずっと続くと良いなと思った。その時ふと僕の頭に白目をむく夏樹様が浮かんできたが、僕はそっと見ないふりをすることにした。ごめんなさい。
---
「では今日も参りましょうか」
メイド服生活3日目が始まった。今日は、学校案内がある。一応学校内の設備は、把握してはいるけれども、実際に見たことのある設備は少ないので、結構楽しみだったりする僕である。
「今日は、学校案内ですね。学校内で、見たことのない場所も多いですし楽しみですね!」
「別に、どうせ今日案内されたって、学校生活中に行くところなんて限られてるでしょうし、行く所は行く所で、見飽きるほど行くのが目に見えてるから、そんな楽しみには感じないわね」
春菜様はとてもドライだ。それでも初めて見るところはワクワクすると思うんだけどな。
「まあでも、学校案内自体は楽しくなくても、みんなで学校を話しながら見て回るというのは楽しいものかもしれないわね」
春菜様は、僕の方を見ずにそうポツリと呟いた。そんな春菜様の反応に嬉しくなっておもわず僕は笑顔を浮かべてしまった。
「痛い!」
春菜様はそんな僕の反応が気に入らないのか、足を踏んできた。照れ隠しで暴力はいけないと思うよ?
「気持ち悪い顔浮かべてないでさっさと行くわよ」
春菜様は、僕が痛がっているのも気にせずさっさと門の前に停めてある車に向け歩いて行ってしまった。
---
「おはよう! 春菜に紅葉」
「ん、来たようだな。おはよう、春菜に紅葉」
夏樹様と冬歌様が僕達がクラスに入ってきたことに気付いて挨拶をしてきた。それに続いて2人のメイドも僕達に挨拶をしてきた。それに対して挨拶を僕たちも返した所で、冬歌様が笑っていることに気付いた。
「冬歌様、どうかしましたか?」
「いや、これから紅葉がどんな反応をするのか楽しみでな」
「反応ですか?」
いきなり、何を言っているのだろうか? もしかして僕の正体がバレた? いやそれならば、こんな和やかな雰囲気ではないだろうし本当になんだろう? 僕が首をひねっていると、夏樹様が鞄の中をゴソゴソとやり始め、なにかの袋を2つ取り出した。
「そうだ! 昨日は、私が倒れたせいでお仕置きができなかったが約束だからな! お仕置きを持ってきた! 香月と紅葉は一緒に行うんだぞ!」
香月さんはすごく嫌そうな顔をしている。あぁ結局お仕置きは逃れられなかったのですね。でもその袋には何が入っているのだろうか?
「あの、その袋の中身が、お仕置きなんですよね? その中には何が入っているんですか?」
「中身か? そうだな教えてやろう。これはリコリスとジンギスカンキャラメルだ。これを交互に10個ずつ食べることができたら許してやろう」
いやいや片方だけでもつらいのに両方は無理だよ。リコリスって、ヨーロッパとかだと親しまれているらしいけど、僕には漢方味の車のゴムにしか感じないし、ジンギスカンキャラメルはただただ血生臭くて僕には無理だ。
「夏樹様、せめて片方にしてくれませんか……」
夏樹様に懇願すると、夏樹様は少し考え始めてくれた。優しい
「そうだな。確かに、楽しいとは絶対に感じなかったが、6限目の終わりに眠ってしまってから、花畑に居る夢を見たんだが、そこがすごく居心地が良くてな! うーむ、その夢を見れたのが勉強を頑張ったからだと考えると、しょうが無いどちらか1つで勘弁してやろう!」
1つにしてもらえるのは嬉しいのですが、その花畑はまずいのではないでしょうか? もしかして近くに川があったのではないですかね? そう思ったが僕は口に出さずに、心のなかでとどめておくことにした。余計なことを言って、2つに戻してほしくはないからね。
「うむ! ではどちらにする?」
究極の2択を迫られた。どちらも僕は食べたくないけど、どちらか1つを食べなければ許してくれないのなら、食べるしかない。僕が悩んでいると香月さんが動いた。
「では、私はジンギスカンキャラメルを貰います」
香月さんは、ジンギスカンキャラメルを選ぶようだ。僕も香月さんと同じのを選ぼうか、そう僕が悩んでいる間に香月さんは、1つ目のジンギスカンキャラメルを食べ始めた。食べた直後に、香月さんは見たことのない顔を浮かべ膝に手をついてしまった。
「私は、リコリスでお願いします」
香月さんのあの表情を見て、ジンギスカンキャラメルを選ぶ勇気が僕にはなかった。選んではしまったが、どうしても手を出す勇気が僕には出ない。そう手を伸ばせないでいる間に、香月さんは2つ目のジンギスカンキャラメルを口に入れた。足が震えているが今度は立っていられるようだ。
「香月は、食べ始めているが紅葉は食べないのか?」
冬歌様が僕に対してニヤニヤと笑いながら催促をしてきた。もうこれ以上先延ばしはできないようだ。そこで僕は考えた。1つ1つ食べるたびにああなるのならば、一気に口の中に10個いれれば、一度でつらいのはすむんじゃない? そうと決まれば! 僕は袋を持ち上げいっきに10個を口に頬張った。
その瞬間、僕はとても居心地の良い花畑に立っていた。なんていい場所なんだ。うん、これなら減罪したくなる気持ちもわかるよ。
遠くには、僕を呼ぶ春菜様と夏樹様の声が聴こえるような気がした。




