日本語って難しい
「うぅぅぅぅ……」
4限目も終わり、昼食の時間になった。夏樹様は、授業の最後には眠ってしまっているものの、すごく頑張っているのが伝わってくる。その証拠に、夏樹様は今や、言語能力も落ち唸り声しか出せなくなっている。
「夏樹は、想像以上に頑張っているな。正直、途中で諦めると思っていた」
「夏樹様はとてもガッツのある方なのですね。私すごいと思います。」
冬歌様主従も、ここまで頑張る夏樹様に驚いているようだ。
「大丈夫ですか? 夏樹様。昼食の時間ですよ。そして午後も頑張りましょう」
香月さんは、昼食後もこの状態の夏樹様に、頑張って欲しいみたいだ。確かに頑張ることは重要だし、授業をうけるのは、当たり前のことだけど、いきなりここまでハードにしなくても、今日はこれくらいでいいんじゃないかな?
「香月さん。夏樹さんも今日は頑張りましたし、取り敢えず今日は、これくらいでいいんじゃないですか? また明日頑張ることにしませんか?」
春菜様も僕と同じ気持だったらしい。まだ授業も始まって初日だし、まだまだ時間はあるんだから、少しずつ改善していけばいいと思う。
「いや、大丈夫だ。取り敢えず今日1日、頑張ると約束したからな。今日1日は頑張るさ。だがこれで楽しくならないようなら、香月は、お仕置きだからな」
夏樹様は、辛そうながらも顔を上げた。本当に、夏樹様はガッツがある人だ。僕が夏樹様と同じ立場だったら、言葉に甘えてしまっていただろう。
香月さんも、ここでやめてもいいと言っても、やめないことがわかっていたからこその、言葉なんだろう。本当に信頼しあってるんだな。
「なら少しでも、エネルギーを補給したほうが良いな。取り敢えず、昨日と同じ喫茶店に行くとしよう」
冬歌様の提案で、僕たちは昨日の喫茶店に移動することにした。昨日借りたジャージも、洗濯したので
返したかったから丁度いい。
僕たちは、普通に歩き、夏樹様は、香月さんに手をひかれて、喫茶店に到着した。
「あの、昨日はジャージを貸してもらってありがとうございました。それとコップの料金なのですが……」
店に入り、取り敢えず席についてから僕と春菜様はマスターに昨日の礼とコップの料金について、相談しに行った。昨日は慌てていたせいで、コップの料金について頭が回っていなかったが、壊してしまったのだから、弁償はするべきだろう。
「ジャージが役に立ったのなら何よりです。それとコップの件ですが、実は、コップとお皿は、割ってしまう生徒も少なくないので、安物を使うようにしているのですよ。ですから、弁償などは考えなくて大丈夫ですよ。それより、この店で長くくつろいでくれたほうが、店のためにもなります」
マスターが言うように、確かにお皿もコップもそんなに高いものには見えない。それならば、好意に甘えることにしよう。
「ありがとうございます」
「それより、そちらのお嬢様の、怪我の方は大丈夫でしたか?」
「はい。一応昨日病院に行ったのですが、特に問題の方はないと、お医者様に言われました」
「それは良かった。怪我がなければそれが一番です」
そう言ってマスターはニッコリとほほ笑んだ。このような大人になりたいものだ。
「では、皆さんの注文が決まりましたら、またお呼びください」
そう言ってマスターは帰っていった。
その後は、みんなが、おもいおもいの注文を行い、昼食の時間は過ぎていった。夏樹様も、食事の最後の方には、喋ることができるくらいには回復したようだ。
「では、残り2時間頑張るぞ!」
残り2時間頑張ってほしいものだ。ここまで頑張ったのだから、乗り切った時には、なにか見えるものがあるかもしれない。
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今日行われる、すべての授業が終わった。夏樹様は、机に突っ伏したまま微動だにしない。この様子だと、楽しみを見つけることは、できなかったようだ。それでも今日1日頑張ったことには、きっと意味があると、僕は思うよ。
「では帰りのHRをはじめますよ。席に座ってください」
先生が教室に入ってきたが、夏樹様は起きる気配がない。今日に意味があっても明日がなければ意味がないんだけど大丈夫かな?
僕が夏樹様を心配してる間に、帰りのHRは進み、先生から明日の連絡が始まった。
「では、明日の1時間目と2時間目は、学校の案内がありますので、よろしくお願い致します」
学校案内は、クラスごとにいくつかのチームに分かれて、1つ上の先輩が学校の中を案内する行事みたいだ。朝も言ったように、今日も行われていたが、一般クラス全部が行われるため、混んで大変みたいだ。
それに比べて、お嬢様クラスの僕たちは、混まないように、1日遅れでゆっくりと行うらしい。混まないというのはそれだけで、僕の身の上としてはありがたい。
「では、今日はこれで終わりになります。ありがとうございました」
教師のあいさつも終わり、僕たちは解散となった。結局夏樹様は先生の話が終わるまで、ピクリとも動かなかった。春菜様も心配になったのか、夏樹様のもとへ向かうようだ。
「あぁぁぁぁ」
夏樹様は生きていた。本当に良かった。香月さんも心配なのか、夏樹様に近づき声をかけるようだ。
「夏樹様大丈夫ですか?」
「あぁぁぁぁ……」
返事も返せないほどに衰弱しているようだ。本当に大丈夫なのだろうか。
「あぁとは、大丈夫なようですね。
いやいや、それは、どうみてもはいの意味ではなくてただのうめき声ですよ。夏樹様も机の上で首をふっているじゃないですか。
「では、今日は楽しかったですか?」
「あぁぁぁぁ」
「そうですか、それは良かったです。では私のお咎めはなしということですね」
「ぁぁぁぁぁあああああ」
夏樹様は涙目で首を横にふるが、香月さんには届いていない。まさか、昼の時間に午後もがんばってくださいといったのはこれを狙ったの?
夏樹様は、ついに限界を迎えたのか、首をガクッと倒しピクリとも動かなくなった。南無……