喫茶店戦争
「ふむ!ここが学内の喫茶店かなかなか良いじゃないか!」
手頃な席に6人で座った僕たちは、喫茶店内を見回していた。
「そうですね。これならば落ち着けそうです」
喫茶店内はアンティーク調で纏められたオシャレな空間だった。この店に入れるのも学生だけなので、きっと学内で一番落ち着ける場所選手権をやれば断トツ1位を獲得できるだろう。まあ僕が知らないだけで、もっと落ち着ける場所があるのかもしれないけどね。
「まずは注文をしようか。私はレモンティーを貰おう」
夏樹様以外は、みんなそれぞれ飲み物を頼んだ。ちなみにお嬢様はコーヒーが飲めないので紅茶だ。少し可愛くて昔笑ったらすごく怒られた。可愛いんだから良いじゃないか……
「私は腹が減っているからご飯を頼むぞ! オムライスはあるか!」
夏樹様の注文にマスターは笑ってありますよと答えていた。メニューを見るとここで昼食も取れそうだし本当にいい場所だ。
しばらくすると注文が届いた。夏樹様は待ちきれないかのように、届いたオムライスにスプーンをつきたて口に運ぶ。そして一瞬止まったかと思うと立ち上がりスプーンを持った拳を振り上げた。
「うむ! うまいぞ! やはり喫茶店といえばオムライスだな!」
オムライスもいいですが私は喫茶店といえばカレーだと思います。喫茶店のコーヒーが隠し味のカレーは何にも負けません。ですが僕はメイド。お嬢様に訴えることは出来ない。それがとても口惜しい……
「ん?いや喫茶店といえばカレーだろ」
『よく言ってくれました!!!』
僕がメイドとして言えないことを冬歌さんが言ってくれた。やっぱり僕、冬歌さんは見る目があると思ってたんだよね。
「むむむカレーだと? 確かにカレーは美味しいが喫茶店のカレーはコクが強く少し苦いのが私の口には合わん」
「あのコクと後味に香る苦味が良いのではないですか!」
しまった。ついつっこんでしまった。これはまずい、春菜様の様子は大丈夫かな? あっ……駄目だすごいほほ笑んでる。あの目は。
『何を考えているんですか? 馬鹿ですかって言っている目だ』
どうしようと思っていると冬歌さんが上機嫌で肩をたたいてきた。
「くくく流石春菜のメイドは優秀だな。あの味を理解できるとは、大したものだ」
僕が同意してくれたことがとても嬉しいのか、バンバンと肩を叩き続けられている。僕も同意者がいてとても嬉しいのだけれども、やめてくださいブラの詰め物が落ちたら死んでしまいます。
「これで2対1だやはり喫茶店はカレーということだな」
夏樹様はうなり声を上げながら香月さんの方をすがるように向いた。
「香月はオムライス派だよな! オムライス美味しいよな!」
それに対し香月さんは困ったような表情を浮かべた。
「私は喫茶店では生クリームとバターたっぷりのホットケーキを食べる派なのですが……」
まさかの第3勢力だった。2択を迫っておいて3番目の選択肢で切り抜けてくるとはさすが香月さん侮れない。僕が新たに生まれた第3勢力におののいている中、春菜様から手が上がった。
「私もホットケーキ派ですね。あの生クリームとバターにメイプルシロップを掛けて食べるのがとても良いのですよね。まあ太ってしまうのであまり食べれないのですが」
第3勢力に超強力な新たな増援が届いてしまい、更に場は混沌としてしまった。いまやカレー派とホットケーキ派は同勢力だ。どちらが勝ってもおかしくない。後は、残された皐月さんがどちらに付くかにかかっている。
「皐月さんは喫茶店では何を頼みますか?」
「えっと、私はオムラ「皐月、喫茶店では何を頼むんだ?」はい!私はカレーを頼みます!」
まさかの脅迫での勝利だった。
「いや今オムライスと言おうとしてたじゃないか! 他2人の従者が自分の考えを言っているのに強制は卑怯だぞ!」
夏樹様の訴えに苦い顔をした冬歌様は、皐月さんに悪かったと詫びていた。
「ではもう一度聞くぞ。喫茶店で皐月は何を頼むんだ? 自分の考えを言え」
「わっわたしは……そのオムライスを頼みます」
「よしよく言ったぞ!! どうだオムライス派も2票で同じだな。このふわっとろっとした卵に包まれたオムライスに勝てるものなどどこにもないのだ!」
「ふんおこちゃまだな、このコクと苦味を理解できて始めて喫茶店を理解できたといえる。それを気づかないとはなんと愚かな」
「そんなことはないと思いますよ。苦いのを理解できるわたし大人。と思い込みたいだけで一番子供なのではないですか?それに大人といえば、大人として頭をつかうからこそ甘いモノを好む。そういうものではないですか?」
「なんだと!」
「これだから甘党とおこちゃまは」
「なにか?」
お嬢様3人はにらみ合いを始めてしまった。ここに喫茶店を舞台にした春夏冬の三国志の時代が幕を開けた。
そこにマスターがニコニコとしながらやってきた。
「初めましてのお客様ですよね。入学おめでとうございます。こちらオススメの卵のサンドイッチです。入学祝いのサービスですのでどうぞ」
確かに、壁には喫茶店のオススメとして卵のサンドイッチが書かれている。それに目の前にあるサンドイッチも、とても美味しそうだ。1人1個のようだが、美味しそうな外見に、みんなが街頭に群がる虫のように手を伸ばし一斉にほうばった。そしてその瞬間
『ん!?』
みんなの顔が一斉にほころんだ。
「うまい! うまいぞ」
みんなも夏樹様に同意のようで、こくこくと頷いていた。
「こんなにも美味しいとは。さすがオススメ侮れない」
「確かに、ここまで美味しいとは正直驚いた」
「ええ、やっぱりオススメを食べるのが一番いいのかもしれないわね」
ここに三国誰もが天下を取れないという結果で、三国志の時代は終わりを告げた。……追加注文しようかな