メイドたちの愛情事情
「では、これで解散とします。これから1年間よろしくお願いします」
明日の予定と、先生の挨拶も終わり今日は解散となった。そしてそれを待ちわびたかのように夏樹様と冬歌様がメイドを引き連れてやってきた。
「それではさっきの話の続きをしようか!」
夏樹様は、ためらいもなくいきなり直球ど真ん中を撃ちぬくような勢いで詰め寄ってきた。
「そうだな、私も気になっている。実際の所どうなんだ? だがまあここで話してもいいが、この学校には喫茶店があるらしい。そこで話そうじゃないか」
「そんなものがあるのか! ではそこでじっくり話し合うとしよう! お腹も減ったしちょうどいいな」
夏木様と冬歌様の中ではもう喫茶店に行くことは決定してしまっているみたいだ。春菜様も確か予定は無いはずだが、ここは僕というぼろが出る前に退散したほうが良いんじゃないかな。
「春菜様、この後の予定は大丈夫でしたでしょうか?」
この提案に乗ってくれさえすれば、取り敢えずこの場は離れることができる。僕は、そう期待を込めて提案したのだが。
「ええ、この後はなにもないはずよ。では喫茶店に行きましょうか」
春菜様はその提案にのってこなかった。僕はその言葉に不安になったが、逆に夏樹様と冬歌さんのテンションは上がったようだ。
「おお! 流石春菜だ。よし根掘り葉掘り聞いてやるぞ」
「そうだな。これは面白そうだ。私も容赦はしない」
「根掘り葉掘り聞くのは別にいいのですけれど、本当に秋人くんとは何もありませんよ?」
2人はわかったわかった。取り敢えず着いたら詳しく聞くからと春菜様を中心に先を歩いて行ってしまった。本当に大丈夫かな……。
「不安そうですね。確かに主人が問いつめられるのはいい気分はしないでしょうが、これこそが学生の楽しさなのではないでしょうか。こうやって過ごした3年間はなかなか忘れないものです」
香月さんは僕に対してそうアドバイスをしてくれた。確かに、こうして過ごしているのを見ると普段のお嬢様とは違い普通の学生みたいに見える。そしてこうして過ごして得た友人が家ごとの付き合いとは違う本当の友人として一生物の宝ものになるのだろう。
僕はさっき春菜様のその機会を奪おうとしてしまったんだ。たしかに僕がばれないことは大事だが、少しでも危ないからとこれもダメあれもダメでは春菜様が学生生活を楽しめない。反省しなくてはいけないな。
「ありがとうございます。確かに春菜様を大事にするのも重要ですが、それ以上にこの学園で得られることがあるのを忘れていました」
「いえ、私も問い詰める側のメイドなのに出すぎたことをしました。では置いて行かれてしまいますし行きましょうか」
僕と、皐月さんも香月さんに続いて歩き出した。
香月さんと夏樹さんとの関係もお姉さんのようだったけれど、それとは全く違う雰囲気なのにもかかわらず、とてもお姉さんと接しているような気分になった。これが姉というものか。やっぱり僕には無理だな。
「お二方ともとても主人を愛しているのですね」
今まで黙っていた、皐月さんが顔を赤くしながら、僕たちに話しかけてきた。春菜様を愛しているかという問いに対しても、たしかに何時も、ちょっかいは掛けられるし、馬鹿にはされるけれども、それでも今まで過ごしてきた期間の親愛の情はある。そういう意味では愛しているのだろう。
「ええ、春菜様のことは好きですよ」
「そうですね。私も夏樹様のことは好きですね」
「やっぱり!!! 主人を愛してしまっているものどうし頑張りましょうね!!」
なにか僕と皐月さんの間での愛の種類に差があるような気がする。そういえばさっき指を舐めろと言われれば舐めるとか言ってなかったっけ? しかもそれに紅潮しながら。もしかしてそっち系の人なのかな?
「あの、皐月さんの愛ってもしかしてLikeじゃなくてLoveの方ですか?」
「ええ、そうですよ。あなたたちもそうなんですよね? 特に紅葉さんはさっき3角関係の話の時に貴方が執事さんのことが好きみたいな話が出たときすごく嫌な顔してましたし。あれは好きな春菜様の前でほかの人が好きと言われたからではないんですか? あっ! 勿論この話は、お嬢様たちには内緒にしましょうね」
皐月さんはどういう発想力をしているのだろうか? それは自分のことを好きなんでしょと言われて、ナルシストみたいだし、そうでなくても男の子を好きと言われるのは嫌悪感があっただけです。
「いえ、好きとは言いましたがそれはLikeのほうであって、親愛の情というか……」
その言葉を聞き、驚いた皐月さんは首を香月さんの方に向けた。
「いえ、あの私も好きではありますがそれは妹に対する愛情のようなものであってそのLoveでは。あのその前に同姓ですよね私たち…… 勿論黙っては居ますがすみません」
香月さんは少し頬を引きつらせていた。そういう僕も多分引きつっていただろう。
「あっ! 勿論僕も黙っては居ます」
2人の発言を聞き、絶望した表情を浮かべた皐月さんはうなだれてしまった。
「仲間ができたと思ったのですが…… 特に紅葉さんの方は確定に近いかと」
えぇ……どこを見てそう思ったんだろう。
「あの、他の家のことなのであまり詳しくは突っ込めませんが、どの辺を愛してしまったんですか?」
その言葉に顔を上げた皐月さんは前を歩くお嬢様に聞こえないようにではあるが熱を持って語りだした。
「それは勿論全部ですよ! 特にでいえば態度ですかね。あの少しSな感じが堪りません。少しミスをすると、見下した顔で怒られるのですが、それをされるたびに私は……私はァ。でもほめてくれる時も良いんですよ。すこしほほ笑みながらよくやったって言ってくれるんです。もう天使なんだと見間違えてます!!!」
「もっもういいですから」
香月さんも自分で聞いていてなんだが、これ以上はまずいと思ったらしい。彼女を最初見た時は、お嬢様のように見えたのに、僕の目もあてにならないらしい。
「何を話しているのですか? 着きましたよ」
僕たちが皐月さんの話のインパクトで前後不覚に陥っている内に喫茶店についてしまったらしい。
「もっ申し訳ありません」
「いえいいですよ。メイド同士での交流も大事なことですから」
春菜様は後で教えなさいよというような目をしているが流石にこれを伝えることはできないなぁ……
「よしでは、ここからは尋問タイムだ! 張り切って行くぞ!!」
夏木様はとても気合が入っているようだ。それでも僕は、なるべくお手柔らかにしてほしいなと願いながら喫茶店に続くドアを開けた。