第4話 金瀬 春樹(かなせ はるき)の過去
僕は、愛を知らずに育った。
だからだろうか……人に嫌われないように自分の意見を殺して、少しでも人の役に立とうと必至だった……。
今思えば僕は、ただただ誰かに愛してもらいたかったのだと思う。
人には良い事もあれば悪い事もあると言うけれど……僕の場合は悪い事ばかり起こった。
僕は物心付く前に両親に捨てられた。
孤児院の前に夜の内に捨てられ、身元を示す物は何も無かったらしい。
孤児院では僕が拾われてすぐに、援助が打ち切られる事になって経営が急激に悪くなり、その中でも育ててくれた事が幸運だったのかも知れないが、その憂さ晴らしだったのか僕は毎日叩かれた。
僕と仲良くなった子は次々連れて帰ってくれる人が現れたけど、僕にはその人は全く現れなかったから更に叩かれるようになった。
そして3歳になって僕にもやっと連れて帰ってくれる人が現れた。
この人達が君の家族になると言われた時は、良くわからなかったけど毎日叩かれなくなると思ったから嬉しかったが、新しい家に行くと、この家で適当に暮せと言われたので疑問が浮かんだ……。
その日が両親を2人同時に見た最後になり、ご飯は作ってくれるおばさんがいたけど、そのおばさんにも話しかけたら叩かれたから話さなくなった。
そのままほとんど誰とも話さずに過ごしていたら、家の外に羽を怪我した小鳥が居たから世話したら元気になって僕に懐いたから〈ピー田〉と名付け、毎日遊ぶようになった。
学校に行くようになったある日、テストで100点を取ったから母に見せたら、ぽつりと「すごいわね」って言われたから、100点を取れば好きになってくれるんだと思って頑張って勉強した。
成績が上がると学校では生意気だと言われていじめられるようになったけど、好きになって欲しかったから頑張る事を辞めなかった。
……けどそう言ってくれたのはこれが最初で最後だった。
この時になるとこの両親は仮面夫婦なのだとわかるようになり、両親からしたら僕は世間体を良くする道具なのだと分かった。
それでもいつかはと思って頑張り続けた。
小学校から中学校、中学校から高校と、高校になるこの頃になると庭には僕が拾ってきた子達でいっぱいになっていて、普段話しかけるのはこの友達達だけになっていた。
高校から大学へ進学する時に父親に相談すると、金は出すから好きにしろと言われたので高校の先生が進めるまま東京で一番有名な国立大学に入学した。
大学には家から通うつもりだったけど、母親に大学近くに一軒家を買ったから引っ越せと言われた。
どうも庭の子達が目障りだったようで、これを機に一人暮らしを始める事になった。
毎月決まった日に大学卒業後の初任給位のお金が振り込まれ、これについても僕と話もしたくなかったから大目に振り込んできてるようだった。
大学に入学して少しして神野 佑人と知り合い、彼は獣医になる為に大学に来ていて、動物が大好きだったこともあり僕達はすぐに打ち解けた。
そして、いつの頃からかお互いに〈はる〉、〈ゆう〉と呼び合う親友と呼べる存在になっていた。
〈ゆう〉が獣医に何故なりたいかの話をしてくれた時には、〈ゆう〉がとても眩しく見えた……そんな〈ゆう〉が今のペットショップの実態について話してくれたことがあり、その話を聞いて目的のなかった僕はペットショップを開きたいと思うようになった。
そこから勉強の傍ら、ペットショップを開く為の資金の調達と経験を積む為に、ペットショップでバイトを始めた。
ペットショップでは、華々しいショーケースで飾られて買われて行く子達が多かったけど、どうしても引き取り手がいない子達も居た。
その子達はペットショップの傍らでひっそりとその生を終えていた。僕はそれが嫌でなんとかしようと奔走したけどダメな子達も多かった……。
大学を卒業してバイトの経験を生かして、ついに念願のペットショップ[アトル]を開く事が出来た、この時には僕も29歳になっていた。
一人では流石に手が足りなかったので従業員を募集して数人の従業員を雇うことになり、その中に彼女も居た花崎 初華 26歳、名前の通りに花の咲いたような笑顔が魅力的なかわいい女の子だった。
経営が初心者だった僕は悪戦苦闘しながらもみんなが引き取り手を見つけられるように努力した。
それでも、ダメな子達も居て僕はその子達を引き取るようになっていた。最終的には、もともと家に居る子達も合わせて犬5匹、猫8匹、亀3匹、インコ2羽、ハムスター4匹になっていた。
初めは大変だった経営も〈はなちゃん〉が手伝ってくれるようになり、だんだん軌道に乗ってきたある日、〈ゆう〉が〈アトル〉の近くに念願の自分の店をオープンすることになり、その報告に来た日は一緒に朝まで飲み明かした。
それまでも売れて行った子達の元に暇を見つけては通っていたが、〈ゆう〉が来てからは急患の子達が居たら〈ゆう〉と一緒に駆けつけるようになった。
その際には、見て励ます事しか出来ない自分の無力さが嫌になった。
そんな生活を続けていてある日、〈ゆう〉から相談を受けた。
〈ゆう〉は〈はなちゃん〉の事が好きで告白したいから力を貸して欲しいという内容だ……僕も〈はなちゃん〉には魅かれていたが親友である〈ゆう〉からの頼みだったので悩んだ末に手伝う事にした。
その日になり、営業終了後〈はなちゃん〉に話があると言い二人で〈ゆう〉の待つ公園に歩いた。
〈はなちゃん〉は多少浮かれたような雰囲気で付いてきていたが、公園で待っていた〈ゆう〉を見たら混乱したような感じになったので事情を説明した。
最初は黙って話を聞いていた〈はなちゃん〉は話が〈ゆう〉からの告白になると涙を浮かべて怒り出し、公園の出口に向かって走り出した。
何がどうなったのかわからなかった僕は咄嗟に〈ゆう〉に〈はなちゃん〉を追うように叫ぶと呆けていた〈ゆう〉も言葉に弾かれるように走り出した。
そこは女性と男性の足の差なのか公園を出た所で〈ゆう〉が〈はなちゃん〉に追いついて手を掴んで動きを止めた時、少し後を走っていた僕は二人に迫る乗用車があることに気づいた。
咄嗟に叫びながら二人を前に突き飛ばした僕は乗用車に撥ねられ、薄れゆく意識の中で泣きながら僕に話しかける〈はなちゃん〉と〈ゆう〉の顔を見て二人が無事だった事に安堵しながら意識を失った。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
12/10 段落分けを行いました。