第3話 自己紹介と現状確認
落ち着け僕……ここで取り乱したらダメだ、まずは現状の確認が先決だ。
そう自分に良い聞かせ、本日何度目になるだろう気を取り直す。
「……まずは、ザナドゥ様ここが三途の川と言いましたけど、川が無いんですけど……」
そう言いザナドゥ様に話しかけると少々苦笑いをしてから話し出した。
「確かに今は無いのじゃ……」
「今はと言うことは昔はあったのですか?」
「然り、本来この場所はこの状態がデフォルトなのじゃが、亡くなった者を迎える場所としてはあまりに風情がないと言う意見が出ての……この場所に川を作って亡くなった者を49日かけて船で閻魔の所まで運んでおったのじゃ」
そう言いながら遠くを見ているような、その瞳には今の景色ではなく過去の景色が映っているように見えた。
「何故川はなくなってしまったのですか?」
神様があまりにも寂しそうだったので、本題から脱線しているのには気づいていたが聞いてみることにした。
「それがの、川を作るのに水道代が高くて更に船の整備や人件費にと経費が掛かり過ぎるとか言う者が出てきての、風情が無いと言い出したのはそっちじゃというのに、意見を取り入れたら取り入れたで苦情が各方面から出たから無くしてしまったのじゃよ」
言い終えるやいなや、その時の事を思い出したのか神様がプリプリと怒りのオーラを出し始めた。
僕はと言うと神様から出た話があまりに俗世的な内容に絶句してしまった。
……いや人件費って天界の人達ってお金で雇われてるんだ、何かその話を聞くと天界も世知辛そうで安住出来なさそうだなぁっと思ってしまう。
黙ってそう考えていたら神様が僕が心配していると勘違いしたのか慌てて話しかけてくる。
「心配するでない、川は無くなってしまったがその分の余った資金で人員を増やしての、亡くなった者には悪いが今は職員と二人で49日間かけて閻魔の所まで歩いてもらっておる。なので道に迷う魂はおらんし、そうして気づいた事なんじゃが歩く事で自分の過去を改めて見直すからかの、閻魔の所で裁きに対しての苦情が減ったから作業効率も良くなったんじゃよ。まぁ終わり良ければ総て良しじゃな」
神様はそういうと良い仕事をした後のような清々しい顔をしてくる。
「まぁ雑談はこの辺にしてそろそろお主の自己紹介をして貰って良いかの。もぉ思い出しているはずなんじゃがな」
神様にそぉ言われてから気づいて事だが、今まで自分が自己紹介していない事と今まで自分が何者なのかわからなくなっていることを今更になって理解した。
「すみませんザナドゥ様、自己紹介が遅れました私は金瀬 春樹です」
慌てて自己紹介をしたら、名前を言った途端徐々にではあるが自分の過去の出来事を思い出してきた。
「よいよい、ここに来た者は皆記憶の混乱が起こっているのじゃよ。それで大体は思い出してきたかの?」
神様は本当にいつもの事のように平然と返してくる。
「はい……僕は死んだんですね……」
「そうじゃ、お主の肉体は滅びて魂が今この場所にいるのじゃ」
あまりに大きな事実を忘れていたことに気づきショックを受けていると神様が話しかけてくる。
「お主が今どのような気持ちなのか、死ぬ事の出来んわしには真に理解することは出来ん……すまぬ」
神様は本当に辛そうな顔をしていた。
その顔を見るとこちらの方が居たたまれない気持ちになってきたので何とか気を取り直して言葉を振り絞った。
「いえ……ザナドゥ様が謝ることではありせん。死んだ事は思い出しましたが、死んだ当時の事も自分の過去についてもまだ完全には思い出していませんので」
「時間はあるのじゃよ。話をすれば少しずつ思い出すはずじゃから、わしにお主の過去についてはなしてくれんかのぉ」
神様が聞いてくれるなら自分の人生も報われる気がしたので、僕は自分の過去をぽつぽつと話出すのだった。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
12/21 誤字を修正しました。