6 解決
長い間投稿をお休みしていました。
ご迷惑をお掛けしました(-"-)
では、どうぞ!
「私、両親を殺されたの」
知代子の母はそう言った。真央は黙って耳を傾けている。
「この世の中になってすぐよ。父の会社の部下に。家に上がり込んできて、ついでにって母親も殺したの。私、その光景をこの目で見たの。犯人がいなくなってから、もうどうにかなっちゃうってくらいに泣いて。それから、家を出るのが怖くなっちゃったの。夫もなかなか家に帰ってこれない。義樹の姉の紗代だって、結婚して県外に住んでる。子供もいるから会える時間が限られる。義樹しかいないの。私の傍には」
真央は自然と涙を流していた。そして、同時にこの国の権力者を恨んだ。
「義樹だって、こんな私を慰めてくれるわ。でも、義樹もこの暮らしが嫌なのかしら。どんどん私を避けていっている気がするの」
「そんなことありません」
突然の声に、知代子は顔を上げた。その目には涙が滲んでいる。
「飯田くんはすごくいい人です。お母さん思いだと思います。もし、あなたの事を避けていたのならば、私にお母さんと話をしてやってくれ、なんて言いませんよ。彼はすごくあなたの事を心配しているんです。きっと、誰よりも」
知代子の目から涙が零れ落ちた。そして、真央の傍に寄り、手を握った。
「ありがとう。安心した」
そして、声を上げて泣き始めた。
「この手を握ってあげるのは私ではありません。飯田くんの手を優しく包んで下さい。彼、きっと喜びますから」
今から呼んできますね。
そう言葉をかけ、真央は2人がいる部屋へ駆けた。
「飯田、お母さんの元に行ってあげて」
真央が帰って来るなり、2人は心配そうな顔をしている。
「早く」
動こうとしない飯田の袖を引っ張り、引きずり出した。
「優しく接してあげるように」
言い残して、真央は部屋に入り、飯田を放って扉を閉めた。
「どうだった?」
斗真は真央にすがるように訊く。
「私なりに全力は尽くしたよ。お母さんも心を開いてくれて。昔の話訊いたんだけど、もう涙が出ちゃって」
小さく笑う真央を斗真は抱きしめた。
「よくやった。お前の人の気持ちを分かってやれるところ好きだよ」
頬が火照った。こんな事言われたの、生まれて初めてだ。
「やめてよ。恥ずかしいから」
「お前、そういう可愛い一面も見せるんだな」
突然の変わり様に、真央は斗真を引き離した。
「何よ、そのけなし方は」
真央はむくれて斗真に背を向けた。
「おもしれーな、お前は」
真央は笑っている斗真を無視して、残っていたお茶を飲み干した。
「義樹・・・」
飯田は母親に駆け寄り、肩に優しく手を置いた。
「ごめんな。母さん」
母は首を振り、飯田の手を優しく包んだ。
「私、これから少しずつでも頑張ってみるわ。あなたに迷惑を掛けないようにするために」
「うん。ゆっくりでいいからね」
優しく伝え、母の体を包み込んだ。
「ねえ、今何時?」
真央は斗真に尋ねた。斗真は腕時計を確認し、ため息を吐いた。
「もう7時近いぞ」
「え、嘘!」
辺りはもう真っ暗で、通行人も少なくなった。
真央は窓から首を引っこめ、斗真に提案した。
「もう上がらしてもらおう」
あれから30分以上たっているが、飯田が戻ってこない。だが、母親と楽しくやっているのか、下から笑い声が聞こえる。
「そうだな。一応、置き手紙書いておこう」
真央はペンケースからメモ帳をだし、おじゃましましたと書いた。
「斗真も書いたら?」
斗真は渋々真央からペンを受け取り、おじゃましました、と少し荒れた字で書いた。
「一緒じゃん」
「これしかねーだろ」
そうだけど、と呟き、2人は鞄を提げた。
「あ~もう怒られるかも・・・」
そう言いながら階段を下り、リビング前で小さくおじゃましましたと伝えた。
そのまま静かに家を出た。
「うわ・・・」
真央が携帯の着信履歴を見た途端、まるで呪いの様に母親や兄、それに父親からも連絡が入っていた。全然気が付かなかった。
「何かすげーな」
斗真は何故か感心している様子だ。
「もう最悪~。帰って速攻説教だ・・・」
しょげた真央の頭に、斗真の手が乗った。
「大丈夫だ。俺が何とか言い訳してやるから」
「・・・本当?」
斗真は頷き、頭から手が離れた。
ここで、真央が気になっていることを訊いてみた。
「ねえ、最近何でそんなに私に優しいの?」
「お前、ほんと天然なんだかバカなんだかよく分かんないな」
「へ?」
言葉の意味が理解できない。もうちょっとはっきりとした答えを・・・
「まあ、そのうち分かるだろ。バカなお前でも」
「バカバカ言うなっ!」
真央は唇を尖らせ、さっさと歩き出した。
「1人で歩くと、前みたいなことになるぞ」
途端に足が止まった。昨日の事のように覚えている。あの体験は、決して忘れない。
「俺の傍にいろ」
斗真のこういう所がずるい。真央は素直に斗真に着いて行った。
母親は斗真の顔を見て、懸命に真央の帰りが遅くなった理由を説明している斗真に見とれたらしい。そのままあっさりと承諾し、叱られずに済んだ。だが・・・
「お前、真央に何かしたのか!」
父親がなかなか粘り強い。だが、斗真も負けず頑張っている。
「いえ、何もしていません。僕たちの友達の飯田という私用に付き合っていまして」
「その飯田というのは誰だ、男か?」
「はい」
「真央をそんな男どもに紛れたところに何か連れて行くな」
「でも、彼女は彼のために頑張ってくれました」
「何をだ」
そこで一旦奮闘中の会話を中断し、斗真は気を沈ませてから再び口を開いた。
「飯田の母は鬱病なんです。この世の中に恐怖心を持って、外に出られなくなってしまったんです」
さすがの父もこのような話になると黙り込んだ。
「だから、飯田が彼女に、母さんと話をしてくれと頼んだんです」
「何故真央に?」
父親は真央に視線を向けた。
「僕にもはっきりとした理由は分かりませんが、きっと彼は、蓮井なら母を助けてくれると確信していたのでしょう」
その言葉に真央は内心驚いた。
「それで、その彼のお母様は・・・」
母が話に割って入ってきた。
「彼女のお蔭で、落ち着いたみたいです。こんな緊張状態の中でよく頑張ったと思います」
斗真は真央の顔を見た。真央は照れ隠しのため、顔が見られないように下を向いた。
「そうだったのか。真央、よくやった」
父は真央の目の前に立ち、真央の頭を乱暴に撫でた。そのため、ショートヘアの真央の髪はぐしゃぐしゃになった。
「斗真くん」
「はい」
父は顔を綻ばせ、斗真に礼を言った。
「ありがとう。きちんと話してくれて。それと、怒鳴ってすまなかった」
「いえ。こちらこそ遅くにすみませんでした」
斗真は頭を下げ、家のドアに手を掛けた。
「近くまで送って行くよ」
そう声を掛けると、斗真は小声で囁いた。
「バカ。俺がここまで送ってきた意味がなくなるだろう。まあ、大半は言い訳のためだけどな」
おじゃましました、と真央の親に伝え、家を出て行った。
その後、改めて親に謝罪した。
「いいよ。真央は大役を果たしたんだから。お疲れさん」
父は豪快に笑い、リビングに入って行った。
「それより、あの斗真くん綺麗な顔立ちしてたわねぇ。真央の彼氏かしら」
「違いますぅ」
「えー。でも、あの感じだと真央の事、随分気にしてたように見えたけど」
これ以上反発したら終わりがいつになるか分からないので、あえて話題を変えた。
「あれ、お兄ちゃんは?」
途端に、母の表情が曇った。
「それが、まだ帰ってきてないのよ。お父さんは、いい年なんだから友達とワイワイやってるんだろうって言ってるんだけど・・・」
「そう・・・」
真央は靴を脱ぎ、リビングに入り時計を見た。もうそろそろ9時だ。兄くらいの年になると夜遊びなど珍しい事ではないが、やはり心配になる。
「まあ、夕飯食べなさい。ラップしてあるから」
「うん」
真央は2階に上がり、制服からジャージに着替え、再び1階に戻った。
テレビの前のソファーに腰かけている父と母は、ニュースに目を向けていた。真央も夕飯を口に運びながらニュースに耳を傾けた。
『今日の昼過ぎ、都内のデパートで無差別に人を刺し殺す事件が起こりました。負傷者は20人、死亡者は10人です。犯人は無職の橋本明容疑者37歳。薬物を服用しており、逮捕されました』
これもどうせ軽い刑ですぐに釈放されるのだろうな、と思いながら次のニュースに聞き入る。
『最近、警視庁に脅迫状が届いている話題ですが、本日も1通の脅迫状が送られました。こちらを見てください』
真央はテレビ画面を見つめた。
《明日、東京都内の高校を占領する。都内の高校は決して登校中止にしないように。何処の高校にするかは、我々で決める》
アナウンサーはフリップを伏せ、真剣なまなざしになった。
「都内の高校は警戒態勢をお勧めします。それでは次のニュースです」
それからすぐに次の話題に変わった。
それもそうだ。この脅迫状に書かれている事が実行された例は無い。真央は別に気にする様子も無く再びご飯を食べ始める。
「真央、一応気を付けておけよ」
父親から声がかかるが、そんなに心配はしていないらしい。母親も同様に声を掛けてくれた。
「ほーい」
適当に受け流し、黙々と食べ続けた。
夕食を食べ終わり、2階に上がり部屋へ入った。そして、ベッドへ飛び込む。
「疲れたぁ」
携帯を取り出し、斗真にメールを打とうと思ったが、電話の方が早いと思い斗真に電話してみた。意外とすぐに出たので驚いた。
「もしもし」
何か様子がおかしい。真央は直感で察した。
「あ、遅くにごめんね。さっきはありがと」
礼を言い、こう訊いてみた。
「どうしたの、体調悪い?」
斗真が小さく笑ったのが聞こえた。
「何よ」
「いや、お前でも察しがいい時ってあるんだなと思ってな。大丈夫だ。ちょっと頭痛がひどくなっただけ」
「あ、じゃあ早く休んだ方がいいから、もう切るね」
「ちょっと待て」
今でもこの命令口調にドキリとする。真央は放しかけた携帯をまた耳元へ持っていった。
「ニュース見たか?あの、脅迫状の」
先ほど見たニュースの事だ。真央はうん、と返す。
「あれ見てから頭痛がひどくなってさ。嫌な予感がするっていうか・・・」
斗真の予知は確実に当たると言ってよい。真央は急に不安になった。
「きっと大丈夫だって。重く考えすぎだよ」
口ではそう言うが、内心斗真にすがりつきたいような気持だ。
「・・・そうだよな。悪かった。じゃあ、明日な」
それから、一方的に通話を切られた。真央は息を吐き、携帯を見つめた。
―――もし、斗真の言う事が当たっていたのなら―――
真央は大きく首を振った。余計な事は考えるな。
その時、1階からどたばたと慌ただしい足音が聞こえた。何事かと思い、下へ降りると、雅紀が帰ってきていた。
「おかえり」
親と共にリビングに向かって行く雅紀の背中に声を掛けた。
「お、ただいま」
随分疲れているのか、目がとろんとしている。
「今日は何かあったの?」
時計を見ると、もう10時を回っていた。雅紀がこれほど遅く帰って来ることなど滅多にない。
雅紀が夕食を待っている間に話しかける。
「ああ。今日はレポート書いて、それから飲み会。もう女性陣がうるさくてさ。怖いから家まで送ってくれだの、挙句の果てに泊まってくれないかとか言われてさ」
「それさぁ、告白されてるのと一緒じゃない?あんた、結構かっこいいんだから。近所でも評判よ。蓮井家の子は顔立ちがいいって」
母が話に入ってきた。
「そうなの?ってか、俺好きな人いるし」
「え!本当?」
思わず声を上げた真央に、雅紀が噛みつく。
「悪いかよ」
「いえ、別に・・・」
そんなに自分の反応が気に食わなかったのか、雅紀はそっぽを向いてしまった。
「怒んないでよぉ」
真央は雅紀の体を揺する。雅紀は腕を組み、ため息交じりに呟いた。
「お前って、本当にバカだな。先を考えてから発言しろ。このバカ」
「私1日に何回バカって言われなきゃいけないのよ・・・」
真央が落ち込んでいる間に、雅紀は夕食が並べられているテーブルへ向かっていた。
「無視された・・・」
真央は気を落としたまま部屋へ向かおうとした。が、雅紀に腕を掴まれた。
「お前感情がそのまま顔に出るな。悪かったよ。言い過ぎた」
「・・・いいよ。気にしてないから」
そう言いながらも、肩を落として部屋へ上がった。
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