12 驚異
後書きでお知らせがあります。
音楽室に戻ると、斗真、飯田の姿が目に映った。
「斗真、飯田!」
真央は周りの目を気にせず2人に飛びついた。
「良かった・・・」
自然と涙が零れた。
「ごめんな。ずっと傍にいてやれなかったな」
斗真は真央の頭を優しく撫でた。真央は何度も首を振った。
「それにしても、予想外の結果だったな」
テレビ画面に、犯人が映った。顔は見えないが、笑っているように感じた。
「鬼同士で殺し合いとはな。結局意地を張ってた飯田ってやつは生き残ったってわけか」
真央は飯田に目を向けた。彼は俯き、目を閉じていた。
「人間ってのは結局こういう生き物だ。他人を突き落とし、自分だけ生き残る」
その言葉でみんな顔を下に向けた。
「あ、それと、これからはいちいちテレビに映るのは面倒くさいから、紙にゲームのルールを書いて渡す。じゃあ、しばらくは私と会えないだろう。見ていて楽しいゲームを期待してるよ」
そこで映像が切れた。
「もう、嫌だよ」
真央は崩れ落ちた。これで終わりだと思っていた。この調子で行くと、クラスメイトは全滅するかもしれない。
「ねえ、斗真何か言ってよ。この先の事予測してよ」
真央は斗真に顔を向けた。だが、斗真の様子がおかしい。息を荒らげ、頭を抱えている。額は汗でびっしょりだ。
「斗真?」
真央が斗真の顔を覗き込むと、斗真はふらついたのか、倒れそうになったが、真央は慌てて支えた。
「真央、横にしてあげた方がいいよ」
異変に気が付いた瞳子がアドバイスを送る。
「分かった」
真央は音楽室の傍まで斗真を連れて行き、ゆっくりと寝かせた。
「悪い・・・」
斗真は額に手を当て、苦しそうにしている。
「どうしたの、この頃体調悪いの?」
真央はハンカチで斗真の額の汗をぬぐいながら訊いた。
「分からないんだ」
真央は急に不安になった。自分のせいで斗真に負担がかかって、体調を崩したのではないか。そう考えると、罪悪感で涙が溢れてきた。
「何で、泣くんだよ」
斗真は優しく真央の頭を撫でた。
「お前が泣いてるの見ると、俺まで心が痛む」
真央は涙を拭って、笑顔を見せた。
「ごめん」
斗真は微笑んだ。その後、天井に目を向けた。
「俺、あの犯人どこかで会ったような気がするんだ」
真央はえっと声を洩らした。
「え、だって犯人の顔見えてないよ」
「うん。でも、何か雰囲気で分かるっていうか・・・」
「気のせいだって」
斗真は唇を噛みしめ、そうだといいけどなと呟いた。
「私、斗真の事信じてるから」
真央は必死に訴えた。
「何があっても、私は斗真の味方だからね」
また涙が溢れそうになる。斗真は小さく微笑み、ハンカチで額を拭いていた真央の手を引っ張った。息を感じられるほど顔が近い。
「ずっとお前の傍にいる。絶対お前を守り抜くから」
そう言って斗真は真央の唇にキスをした。真央は驚いて固まった。こういう時、息をどうすればいいのか分からなかった。数秒後、斗真から身を引いた。
「ごめん。つい・・・」
斗真は耳を真っ赤にし、真央から視線を逸らせた。真央も目線を下げた。
「ううん。大丈夫」
そこに、突然顔をお面で隠した人が入ってきた。その人物は1枚の紙切れをピアノの上に置き、その場を去った。
「何だ、これは」
大地が紙を手に取り、内容を読み上げた。
「お前たちには、校内にあるトランプカードを探してもらう。もちろんトランプだから52枚だ。ゲーム開始は6時20分。終了時間は8時20分だ」
今の時刻は6時15分。今から5分後だ。
「もし、このゲームをクリアできなかった場合、32枚のジョーカ入りのトランプをならべ、1人1枚引き、ジョーカを手に取った人を処刑することにする」
読み終えた大地は舌打ちをし、紙を丸めた。
「もう、止めにしようぜ。こんなことして何の意味がある」
「意味なんかない。でも、命令に従わないとここにいる全員殺されることになるぞ」
飯田が声を張り上げた。
「じゃあ、お前1人だけ残れよ。俺たちは逃げる」
「どうやって逃げるんだよ。ここから飛び降りる気か?」
「飛び降りる?」
大地が復唱した言葉で周囲がざわつきだした。
「この4階だけは、全部の窓のかぎが開いている。犯人側のミスか、まさかここから飛び降りる奴はいないだろうと予測したのか。とにかく、この校内からは逃げられない。ここから飛び降りるなら話は別だがな。まあ、ここから飛び降りると、ほぼ確実に死ぬだろうな」
飯田の様子がおかしい。いつもの朗らかな飯田ではなくなっている。どこかトゲのある雰囲気を醸し出している。
「じゃあ、俺が証明してやるよ。飛び降りても死なないことをな」
大地は鼻を鳴らし、窓へと向かって行く。
「やめろ」
斗真はゆっくりと起き上がり、大地に向かって歩き出す。
「お前さぁ、いちいち鬱陶しいんだよ。俺が何をしようと俺の勝手だろ。いちいち付きまとうな」
大地は窓を全開にした。
「やめろって!」
斗真は大地に掴みかかる。だが、今の斗真の体力では大地に勝てない。斗真は腹をけられ、その場にうずくまった。真央はいても経ってもいられなくなって、声を出した。
「そんなことしても、誰の役にも立たないよ!もし、あなたが生き残ったとしても、あなたを真似して飛び降りた人が死ぬかもしれない。そんなことも考えられないの?」
真央は大地の目の前まで歩み寄った。
「あなたのために言ってるの。もうこれ以上人が死ぬのが耐えられないの」
突然大地が振り返り、真央の髪を掴んだ。
「お前は黙ってろ。女だから黙っていればいいのものを」
その直後、斗真が大地の横顔に殴り込んだ。
「蓮井に触るなって忠告したこと忘れたか?」
斗真は一瞬で健全な体に戻った。
「何すんだよ!」
大地も斗真の顔面を殴りつける。遂に、喧嘩が始まってしまった。
真央は中に入ろうとするが、なかなかタイミングがつかめない。
その時、斗真は急にうずくまった。鳩尾に蹴りを入れられたのだ。その上、真上から首へ大地の足が振り下ろされた。斗真は咳き込み、倒れ込んだ。
「斗真!」
真央はすぐさま駆け寄り、声を掛けた。
「みんな見てろよ。絶対生き残ってやる!」
「大地!」
斗真は窓のふちに立った大地の足を掴みとろうとしたが、手遅れだった。視界から大地が、消えた。
急いで真下を見下ろした。
「嘘だろ・・・」
斗真は目を見開いている。真央も地上を見下ろした。そこには、衝撃的な光景が映っていた。
「生きている・・・」
大地は4階から飛び降りたにもかかわらず、無傷で立ち上がっていた。
「俺の勝ちだ!俺は生き残ったんだ!」
大地は興奮し、ガッツポーズを決めた。
「俺も、飛び降りようかな」
後ろで、吉野が呟いた。
「止めろ。生き残る確率は限りなくゼロに近い」
斗真は必死で訴える。
「だって、大地は生き残ったじゃないか」
「あいつは生き残った。でもな―――」
そこで、斗真は口を閉ざした。
「まずい・・・」
斗真は呟き、飛び降りそうな勢いで窓から地上を見た。
「大地!油断するな!早くどこかに隠れろ!犯人が狙ってる!」
「はぁ?何言ってんだよ!俺は―――」
その時、乾いた銃声が聞こえた。そして、大地の体がゆっくりと倒れた。徐々に制服が赤に染まっていく。
「みんな!しゃがめ!」
斗真の叫びで、みんなは反射的に体を低くする。その直後に、再び銃声が聞こえたと同時に、窓ガラスが粉々に割れた。真央の体の上に、斗真が覆いかぶさった。
「大丈夫か。破片、当たってないか?」
斗真は至近距離で真央に声を掛けた。
「うん、ありがとう。斗真は、大丈夫?」
真央にガラスの破片が刺さらないように、守ってくれた。
「俺は大丈夫だ。心配することない」
斗真は微笑み、真央から体を離した。
「随分と勘が働くんだね。斗真君」
放送で犯人が関心の声を出した。
「お前か、大地を殺したのは」
斗真は静かな声を出した。怒りが込められている。
「ん~まあ、そういう事になるかな。俺はただ仲間に命令しただけだ。あいつを撃ってくれとね」
「仲間?」
斗真は眉をひそめる。
「そうだ。犯人は俺だけではない。俺以外に2人いる。あ、ついでに俺の名前も公表しておこう。俺は愛良義皇瑛だ」
なぜ、ここで名前を公表するのかが理解できなかった。本名かどうかは別だが・・・
「あ~もうゲーム開始時間過ぎちゃった。じゃあ、6時30分からゲーム開始にする。終了時間も8時30分に変更だ」
そこで、放送が切れた。
斗真は振り返り、再び窓から顔を出して下を覗いた。
「大地!」
真央も顔を出すと、大地が黒頭巾を被った人物に運ばれていた。
「おいっ!返事しろよ!」
斗真は叫ぶが、相手の方は何の反応も示さず、ただ黙々と大地を運んでいた。
「お前がもっと早く気付いてたら、大地は助かっただろうな」
先ほど、大地に続き、飛び降りようとした吉野が少し大げさに声を出した。
「そうだよな。俺がもっと早く気づいていれば・・・」
斗真は膝から崩れ落ちた。
「そうだよ。全部お前のせいだ。お前はいつもそうだ。異変に気付くのは早いが、行動に移すのが遅いんだよ」
「全部、俺のせいだ・・・」
斗真は何かに取りつかれたように呟く。
「そうだ。お前はクズだ」
「ちょっと、言い過ぎじゃないの」
真央は口止めに入った。
「お前も思わないか?こいつはただのクズだ。こいつがもうちょっと早く大地に忠告しておけば、あいつは助かったんだぞ」
「でも、全部斗真の責任じゃないし」
「蓮井、もういいよ」
斗真は首を振った。
「でも・・・」
「だからいいって!」
いきなり怒鳴られたので、思わず引き下がった。
「ちょっと、1人にさせてくれ」
斗真は立ち上がり、足早に音楽室を出て行った。
「あいつ、気も弱いんだな」
吉野は嘲笑った。
「もういいじゃん!」
真央は怒りを堪えきれず、怒鳴った。
「全部斗真のせいみたいに言うけど、あんたは大地のために何をやったの?みんなのために何をやったの?ただ呆然と見てただけじゃない!そんな人が口出しする資格は無い!」
言いたいことを言って、スッキリしたところで、いきなり肩を押された。その衝動で壁に激突する。
「うるせぇんだよ。クズの女は黙ってろ」
その時、腹に激痛が走った。一瞬、視界がかすむ。
「やめろや!」
目の前で、誰かが回し蹴りをしたのが分かった。その後、吉野が吹っ飛んだ。
「大丈夫?」
その人物が真央の前に屈んだ。
「瞳子・・・」
回し蹴りをしたのは瞳子だった。みんな唖然としている。
「ありがとう。瞳子こそ大丈夫?」
真央はあまり驚かなかった。瞳子は修斗の資格を取得しているのだ。
「いいえ。私は何ともないわ。まさか、こんな所で役に立つなんてね」
瞳子は小さく笑った。
「瞳子!」
背後から迫ってきている吉野に気づき、真央は叫んだ。
瞳子は間一髪でかわし、立ち上がって投げ技を決めた。一発KOだ。
「しつこいんだよ!大人しくしてればいいものを」
瞳子は舌打ちをし、真央と吉野との距離を遠ざけた。
「ゲーム開始時間だ」
放送で愛良の声が聞こえた。
皆さんに、お知らせがあります。
私、受験生なので、これからしばらく更新ができなくなるかもしれません。
でも、絶対に途中で止めたりしないので、ご安心ください。
これからも、よろしくお願いします。