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NEXT MISSION  作者: 翔香
11/12

11 ◆鬼ごっこ◆終了

 飯田はのろのろと廊下を歩いていた。


 銃は忘れたのではない。あえて、持っていかなかったのだ。あんなものを持っていったら、自分が何を仕出かすか分からない。それが怖かった。


 ふと、脳裏に先ほど赤田に銃口を眉間に押し当てられた記憶が蘇った。


「俺、あのまま死んでおけば良かったな・・・」


 無意識にこの言葉が出た。後で自分でびっくりしてしまった。


「何言ってるんだ、俺は」


 小さくため息を吐き、壁にもたれかかった。


 その時、遠くで足音が聞こえた。段々音が大きくなってくる。2人いるのか、慌ただしい足音が2重に聞こえる。その直後、飯田がもたれ掛っている場所の横の通路に1人の男子生徒が走って行った。その後も銃を持った男子生徒が走って行った。恐らく、追いかけているのは大山だろう。だが、追いかけられている側の後ろ姿に見覚えがあった。


「まさか・・・」


 飯田は無意識で2人を追いかけていた。












 斗真は教室を出て、まず音楽室に向かった。


 蓮井に能力があるから大丈夫、とは言ったものの、この事件が始まって以来、上手く能力を使えなくなってしまった。神経を研ぎ澄ましても、余計な映像や雑音ばかりが頭に浮かんでくる。何度もやるうちに、頭痛もしてきた。だから、これからは全て勘で行動しなければならない。そう考えると、急に不安になってきた。


―――蓮井と藤山を守れるだろうか―――


 あの2人は何だかんだ言って、異変に気づくのが早い。心配かけたくない。そんな思いが、斗真の感覚を鈍らせていた。


「お前って意外と無防備なんだな」


 背後から声が聞こえ、斗真は足を止めた。この声は大山だ。考え事をしていたせいで、周りを見ていなかった。


 直後、斗真の後頭部に銃口が押し当てられた。


―――賭けるしかない―――


 斗真は息を整えた。その後すぐに振り返り、大山の腹に蹴りを入れた。斗真は相手が怯んでいる間に駆けだした。階段を飛び降り、北校舎から南校舎へ移動した。


 大山も諦めずに斗真を追いかけ続ける。


 南校舎の階段を一気に駆け上がり、別の階段を使って何とか巻こうとした。その時、見覚えのある横顔を見つけた。












 飯田は斗真を追いかけていた。あいつは何としてでも助けなければならない。そうしないと、蓮井が悲しむ。


 蓮井に告白はしてみたものの、断わられるのを承知だった。斗真も、蓮井の事を常に気にしている。過保護と言えるくらいだ。


「斗真!」


 飯田は走りながら声の限り叫んだ。斗真は振り返るが、足を止めなかった。足を止めたら、殺される。


 飯田は教室に入り、黒板消しを取り、再び追いかけた。出来るだけ大山との距離を縮め、黒板消しを大山の頭に当てた。一瞬ふらつきを見せたが、再度斗真を追いかける。だが、足は先ほどよりも断然遅かった。飯田は素早く大山に飛びかかり、力の限り殴った。3発目くらいで相手は気を失った。


「すまなかった」


 斗真は息を切らしながら飯田に歩み寄った。


「珍しいな。お前が油断するなんて」


 飯田は大山から銃を取り、放り投げた。


「2人は?」


 急に蓮井、藤山が心配になり、斗真に問うた。


「教室に隠れている」


「何やってんだよ。お前が守らなきゃいけないだろう」


「お前の事が心配だったんだよ」


 斗真は慌てて付け加えた。


「も、もちろん、蓮井と藤山が言ったんだぞ」


「・・・そうか」


 斗真は頷き、飯田の肩に手を乗せた。


「必ず戻ってこい。気の毒だが、今がチャンスだ」


 そう言って、走って何処かへ行ってしまった。


―――今がチャンス―――


 斗真はそう言い残した。


 そうだ。今なら目の前にいる男を簡単に殺せる。そう考えると、途端に手が震え出した。呼吸を整え、ゆっくりと銃を手に取った。


「すまない。こうするしか、ないんだ・・・」


 飯田はゆっくりと引き金を引いた。



「瞳子~」


 真央は不安が隠せず、瞳子にすがりついていた。


「もう、ちょっとは落ち着きなさいよ。2人なら大丈夫よ」


 瞳子は鬱陶しそうに真央を引きはがそうとする。


「でも、もしもの時にさ」


 瞳子はため息を吐き、真央の言葉を無視した。真央は急に寂しくなり、瞳子の隣に座った。


「信じるしかないのよ」


 瞳子は小さく呟いた。


「・・・そうだね」


 真央は2人が無事に戻ってくることを祈った。












 正直、あんなことは言いたくなかった。だが、言わないと飯田は助からないかもしれない。


 急に罪悪感が生まれてきた。大山には悪い事をした。気絶した彼を殺すのは罪深い。その後、銃声が聞こえた。恐らく、飯田だろう。


「大山、すまなかった」


 斗真はその場に崩れ落ちた。












 飯田は自分のやった行動が信じられず、体の震えが止まらなかった。


 今、目の前に頭から血を流したクラスメイトがいる。自分のせいで彼の人生は終わってしまった。


「ダメだ・・・落ち着け・・・」


 そう言い聞かすが、呼吸は乱れ、精神がおかしくなったのか自然と涙が零れてくる。


「あら?あれだけ格好つけてたやつが大事なクラスメイトを殺したの」


 飯田は顔を上げなかった。顔を見なくても、この喋り口調で分かる。慶子だ。


「結局、口だけの男だったのね。見損なったわ」


 そう言って、慶子は銃口を飯田に向けた。


「鬼同士でも、殺しちゃったらカウントされるのね」


 その言葉で飯田は慶子を見た。


「別に、あんたが死んでも誰も悲しまないわよ。だから、私が処分してあげる」


「俺には・・・」


 飯田は狂ったように怒鳴った。


「俺には大事な親がいる!せっかく元気を取り戻したのに、俺がいなくなったら何をするか分からない!俺は絶対に生き残る!」


 飯田は銃口を慶子に向けた。


「あ、そう。あんたの家庭の事情なんかどうでもいいわ」


 慶子は、いきなり発砲してきた。いきなりだったので、避けることは出来なかったが、奇跡的に頬をかすれただけで済んだ。


「下手くそだな」


 飯田は片頬を上げた。


「わざとよ。次は外さないわ」


 そう言いながらも、内心動揺しているように見えた。


「何で、このクズみたいな女が委員長になったんだろうな」


 飯田は怒りの感情を与え、銃の焦点が定まらないようにする作戦を立てた。


「うるさい」


「お前、友達少ないだろ。こんなねじまがった性格の女なんか誰も好まねーよ」


 的中したのか、慶子は怒りの視線を飯田に向けた。


「男子にも不評だぞ。絶対付き合いたくないって。まあ、赤田は論外だけどな」


「黙れ!このクソガキが!」


 撃ってくる予感がしたので、飯田はしゃがみ、横に滑り込んだ。予想どうり、銃弾は飯田から大きく外れた。


「次は外さないって言ったのに外しやがった」


 飯田は慶子に聞こえるようなボリュームで言った。


「もう!何なのよ!」


 慶子は頭を掻きむしった。


―――完全に狂いやがった―――


 飯田は反射的に慶子に銃口を向けた。だが、途中で大山を撃った記憶が蘇った。途端に手が震え出す。


 撃て!頭ではそう言う指令を出している。だが、体がいう事を聞かない。


 その間に慶子はこちらの異変に気づき、不気味な笑みを浮かべた。


「どうしたの?あれだけ言って、いざ決着をつけようって時に怖くなったの」


 飯田は悔しさで歯を食いしばった。


 慶子は再び飯田に銃を向けた。


「後悔しなさい」


 その途端、飯田の租界が歪んだ。そして、2発銃声が聞こえた。気づくと、手に銃を持っていなかった。そこで、隣で荒い息を繰り返しているのが聞こえた。見ると、斗真だった。


「大丈夫か?」


 斗真はそう訊くと、力なく地べたに倒れ込んだ。


「俺は大丈夫だ。お前こそ大丈夫か」


 斗真は頷き、仰向けになった。


「悪かったな」


 最初、斗真の言った言葉の意味が分からなかった。黙っていると、斗真はこう付け足した。


「大山の事。俺、最低な人間だな」


 飯田は何度も首を振った。


「そんなことない。お前のお蔭で、俺は今生きているんだ」


 飯田は精いっぱい心を込めて言った。


「ありがとう。感謝してる」


 斗真は小さく笑った。


「お前に感謝される筋合いはない」


 その時、校内全体に例の声が響き渡った。


「ゲーム終了だ。各自、音楽室に戻るように」


 その勧告で、飯田は気が抜けて床に寝そべった。


「終わった・・・」


 だが、反対に斗真は上半身を起こした。


「いや、これからが始まりなのかもしれない」


 その1言で、飯田は安心から緊張に変わった。


「能力を使ったのか」


 その問いについて、斗真は曖昧な返答をした。


「さあな。多分、直感だ」


 その後、斗真は表情を曇らせた。


「どうした」


 飯田は起き上がり、斗真の頭を軽く叩いた。


「ああ。大丈夫だ」


 斗真はゆっくりと起き上がり、血まみれの慶子に頭を下げた。


「申し訳ない」


 飯田も同様に頭を下げた。そして、大山にも頭を下げた。


「戻ろう」


 斗真は気分を変えるように、あえて明るい声で言った。


「おう」


 飯田も明るめの口調で言った。


「あ、蓮井と藤山、大丈夫かな」


 斗真は不安の混じった声を洩らした。


「大丈夫だって。だって、鬼もういないじゃないか」


 飯田はそう言って斗真の肩に手を回した。


「そうだったな」


 そして、2人は音楽室へと足を運んだ。













「何で帰ってこないの」


「泣かないの」


 真央は不安のあまり、涙が溢れてきた。


「だって、さっきから銃声が何発も聞こえてくるんだよ」


「大丈夫よ。あの2人、そんなに仲良さそうに見えないけれど、どこか厚い信頼があるのよ。きっと」


「・・・大丈夫よね」

 真央は念を押した。


「ええ。このあたしが保証するわ」


 瞳子は自信たっぷりの表情で微笑んだ。


「ありがとう」


 その時、放送が鳴り響いた。


「ゲーム終了だ。各自、音楽室に戻るように」


 それを聞き、2人は顔を見合わせた。


「終わったの?」


「ええ」


 その直後、お互い笑みを交わした。


「2人に会えるよね」


 瞳子は大きく頷き、教室の扉を開けた。


「行くよ。早く会いたいんでしょ」


 真央は満面の笑みを浮かべ、瞳子と共に教室を飛び出した。

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