歓迎会
帰ってきた。きてしまった。またここに。もう帰りたくないと一番強く望んだこの場所に。
「セイフ」は捨てられた子供を見殺しにするわけにはいかなかった。少子化を止める、それこそが彼らの政策だったからだ。だから、孤児院を増やした。制度をどんどん変えた。ついには、孤児を、保護者のいない子供を孤児として、強制的に孤児院に収容した。
『それでは、新規院加入者の歓迎会を行います。どうぞ新参者の皆様壇上へ!』
芝居としか思えない台詞だ。この中に来たいと思ってきたやつはいないのに。歓迎会も何も、そもそも歓迎会は月一で行われていた、二年前は。それは今も変わってないみたいだけど。ホールを見回せば分かる。皆珍しそうもない顔をしているからだ。飽きてるじゃねーか。それにしても増えたな。少なく見積もっても450・・・それ以上か?
『これで院内の人口は567人になりました。新しく19名の人・・・いえ、中には一度出ていった人もいますが、ここで新しい生活を楽しみましょう!』
ちなみに今話してるは院長の岸田優子。何回名前聞いたか覚えてないほど聞いた名前だ。てか多くなったな人口。俺が出ていったときはまだ200の台にいた気がする。
『代表として森崎慧子さんに挨拶していただきます。』
名前を呼ばれた女子はおそらく15かそこらで清楚な雰囲気を放っていた。
「ご紹介にあずかりました森崎です。以前もいたので特にいうことはありません。何故私を呼ばれたのかはわかりませんが、こういった時は初めて来た人に挨拶をしていただくのが普通ではないかと思います。」
お、こいつ結構言うじゃねーか。今後出来れば仲良くしておきたいな。
「というわけで誰か代わりに挨拶をお願いします。当然来たばかりの人に。」
でもSだな。間違いなくどSだ。
『・・・では山中和樹君お願いします。』
院長に若干の怒りが見える。これは後で呼び出すに違いない。
「ど、どうも。や、山中です。」
ああ、こいつは仲間にしても仕方ないタイプだ。ゲームによくいるモブ野郎か。結構恰幅いいし、後で話しかけようと思っていたがやめておこう。ちなみにさっきの女が気にいったわけではない。ハーレム状態を作ったところで力量不足だしな。
「え、ええと、その・・・。とにかく頑張りますので!どどど、どうぞよろしくお願いします・・。」
その挨拶ではきっと誰もよろしくしてくれねぇだろ。虐められそうだな。さっきのS女の顔が赤いのは気のせいだと思いたい。どうしたんだ?苦しむデブに興奮したとか?そんなどSに話しかける勇気は流石にない。標的になっちまう。
『では、これで歓迎会を終わります。』
歓迎されてねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
この院長歓迎する気無いよ絶対。てかすぐに放送ブースに向かって行ってる。間違いなくS女を呼び出すためだ・・・。院長も変わってるじゃねぇか。良くない方向に。皆も帰っていいか迷ってるし!いつもはちゃんとしてたのか。まぁくだらない院長の話が無かったのには感謝しよう。その点ではS女にもいいところがあると『放送連絡です。森崎慧子、高東バサマ君は至急院長室まで来てください。』言えそうもないな。最悪だ。なんてことしてくれたんだ。しかもいま院長がS女を呼び捨てにしたぞ。
「仕方無いですね、行きましょうかバサマ君?」
「・・・なんでわかる?」
「雰囲気でしょうか。44回の脱走失敗犯として名高いあなたの名前くらい知ってますし。」
「そうか。行くのか。どうせくだらん話を小一時間聞かされるだけなのに。」
「行かないともっと大変なことになると知ってますから。」
さっきのは聞いたことでこっちは経験談みたいだ。色々やったんだな、こいつも。
「前にいた時結構やってたんだな。」
「あなたほど名前は通っていません。そんな些細なことしかしていないし。」
「些細なことで結構傷つく人間もいるんだぜ?」
院長みたいに。
「まあとにかく行きましょう。五分遅れると二分半話が長くなるのよ。」
計算したのか。細かい奴だ。一時間も一時間五分も変わらんと思うが。
「はぁ・・・。俺はなんもしてねぇのにな・・・。」
本当に理不尽だ。
重い足取りで院長室に出向く。
「久しぶりだなBBA。まだ健康な体か?」
「残念だったね婆様。まだまだ元気だよ。」
そう返してきたか。このババア、性根が腐ってやがる。
「すみません、少し遅くなりましたBBA。」
「あんたもいずれはBBAになるんだよ。」
S女も乗ってきた。返し文句を俺にしか用意していなかったのがまたババアらしい。というか・・・
「なんで俺が呼び出しくらった?教えろ。」
問題はとりあえず1から解き始めよう。まずはここだ。
「そりゃ問題を起こす主犯格となりうるのがあんたたちだからだよ。」
ふむ、正論だ。
「私は基本一人でやるつもりなんですが、帰ってもいいですか?」
グループなんて作らないということか。てか犯行予告したよこの人。
「駄目に決まってるだろう?それを言ってよく帰れると思ったね。」
ですよね。
「にしても口数が減ったね、そっちのクソガキは。」
外の顔は剥がれて暴言吐きまくりのババア。護衛が困った顔してるぞ。
「じじばばと暮らしたからかもな。安心してくれ、体重は増えたが身長も伸びたし以前のように喧嘩で負けないように二年間頑張った。警備員に暇はさせねぇよ。」
「本当に血の気の多いガキだね。帰ってきて早々これだから困る。出来ればいないほうがいいんだけどねぇ。」
あんたがいなければ俺たちも困らん。だから早く川を渡ってくれてかまわない。
「さて、出来ればあんたらを接触させたくはなかったんだけど、本当に偶然歓迎会に会われてしまってね。なんか手段をとろうと思っていたのさ。で、きちんと挑発にのてやったのさ。」
「単に激昂しただけじゃ・・・。」
「とにかくバサマは隔離棟Aに、森崎は隔離棟Bに入りな。」
「「はぁ!!?」」
説明しよう!隔離棟とはA~Zまである文字通り要注意人物を隔離するための棟だ。ちなみに感染系の病気を患ったやつは1~80の番号のついた棟に入れられる。一応消毒液とかも院内のいたるところに置いてある。使ったことないけど。
「なんでだ!まだ問題起こしてねぇぞ!?」
「いずれ起こす危険があるから入れるんだよ。」
「私はどうなんですか!?」
「高らかに犯行予告しといてよくその反応ができるね!?」
「「くそ・・・ババア」」
「連れていきな。」
二人のボディーガードが持ち場を離れてこっちに来る。
「どうしたんだい?前はこのタイミングで逃げ出したこともあるのに。」
「俺も学んでるんだよ。二回目は通用しないだろうし、あんたのことだから落とし穴の一つでも仕掛けてるんじゃないか?」
「ふん。無駄に頭のキレる奴になったね。」
はがいじめにされながら院長とトーク。ま、この展開は予想通りだ。
「じゃあまた今度会おうなババア!俺の成長に驚け!」
ガチャン!と錠が下りる音がする。ここだけは二年前と少し違うな。女もちょくちょく隔離されることになったってことか?寝具がある。俺はホームレスのように新聞で寝ていた覚えがあるからここは変わった個所だ。たしか隔離棟Fは俺が脱走のために穴をあけたんだっけ。Fに入りたかったなぁ。
「早速捕まってしまいましたねバサマ君!」
部屋と部屋が離れているから結構大きい声で話しかけてくるS女。
「すぐに出てやるさ!俺は以前の仲間にも会いたいしな!」
「仲間がいるんですか!?」
「今いるかどうかは知らないが、以前はいた!」
「「「おおーい!俺たちはここにいるぜ!帰ってきたんだなバサマ!」」」
CDEの部屋から大声が飛んできた。
「ってなんでお前らも捕まってんだよ!?」
「バサマが帰ってきたから以前の仲間も入れられたんだよ!」
まったく。日頃の行いが悪いからだ。
「とにかく俺はすぐに出ていく!お前らも頑張って出てこいよ!」
「「「任せろ!お前を殴るためにすぐに出ていく!」」」
出てこなくていいかもしれない。いや、逃げるにはこいつらと一緒の方がやりやすいはずだ。たぶん。ここに入ると一カ月は出られない。月一の適正審査で落とされたらまた一カ月。このシステムってなんか監獄っぽいような・・・。
「とりあえずあれだ!皆で外に出てから考えよう!」
話をそらそう。このままじゃ怒りの念で押し殺されそうだ。
「お前が外にいた時の話を聞かせてくれよ!」
「そうだな!おもしろそうだ!」
「外ってどんな感じだった!?」
そうか。こいつら外にでたこと無いんだっけか。
「オッケー!耳かっぽじってよく聞け!俺の偉大さを!」
少しでも外の雰囲気を感じさせてやろう。何故か俺一人だけ出ていってしまったんだし。償いなんかにはならないけど、聞きたいというなら話してやろう。