IntervalleⅢ:曲者
破壊への要求は、建設への希望よりずっとはげしいのだ……
ロジェ・マルタン・デュ・ガール『チボー家の人々』
ところで、反乱を起こした『クーデター』の面々だが、ラザルを殺した後、屋敷には頭領しか残っていなかった。彼女以外の構成員はどうしていたかと言うと、話は全部自分一人でつけるから全員自分の家に戻って待機せよ、というセラトナの指示に従い退却していた。しかしそのうち何人かは帰宅せずにそれぞれの拠点でたむろしており、セラトナが常駐していた『スコルピウス』もその一つだ。
「セラさん一人で大丈夫でしょうか?」
「そう、今からでも遅くはない」
「だが我らが指揮官の指示だぞ」
聞こえる声は全て女性のものである。反乱軍には女性しか所属していない訳ではないのだが、絶対数が少ないためにたまたまこの場には男がいないというだけの話である。もっとも、いたところで女性主導のこの議論に入れるものでもないだろう。
「でも一人は無謀すぎる!」
「何か考えがあるんじゃないの?」
「相手はあのベテルギウスとリゲルなのよ!」
「そのリゲル様、実は偽者という話ですが」
「どうかしらね。どうせデマじゃないの?」
「僕見たよ、リゲルが村長に槍を向けたの」
「らしいな。何でも首筋の傷がそれだとか」
「へーそーなんだ。引きずる時に一カ所だけ傷があるの見えたけど、セラさんがやったのかと」
「おかげで抵抗されなかったから楽にやれた」
「まだ信じられないわ。村長の椅子に座りたいがために嘘を吐いて父を殺したとも考えられる!」
「本物なら親殺しなんてバカげたことする?」
「確かに。殺さずともいずれ村長になれるのに、今それをする意味が分からない」
「噂の出所は……どこ?」
「リゲルと直接会った女だって話だけど、それ自体が噂である可能性は否定出来ない」
「いいから考えてみ、こんな噂が広まった理由をさ。偽者の可能性が少しでもあるからだろ。皆無ならそもそもくちばしに上るはずない」
「なるほど、火と煙がなんとかってやつね」
「そうか、本物である可能性は低いんだ」
「真偽が確実と断言出来ないのも確かですわ」
「我々が最後にリゲル様のお姿を見たのは一年前であります。その期間公衆の面前にはお目見えせず、亡くなられたとしても不思議はありません」
「ついこの前嫁探しと称して仰々しく市街地を練り歩いたのは?」
「影武者を見つけたから、実は死んでいないってことを見せつけるため?」
「ふん、バカバカしいわ」
「お前達、何を下らないことで言い争っている。セラトナはリゲルが偽者だと判断したんだ。だから奴を殺さず、こうして一般兵を撤退させたのだ。我々がその判断を信じてやらないでどうする」
「そ、それは……」
「むむ」
「た、確かにリゲルは敵ではありません。で、ですが、あああの、毒使いの英雄も敵なんですよ!」
「たわけ。テルは武力で英雄の名声を得たが暴力に訴える男ではない。村長以外に犠牲者が一人もいないのがその証拠だろうが」
「セラさん、上手くやれているでしょうか」
「敵の渦中に一人、だものな」
「お頭がどっかから捕まえてきた希望の星、例の白い参謀が側にいるんだろ? 何とかなるって」
「しかし、確かに私も動向や結果が気がかりだ。せめて櫓の側に集うだけなら、セラトナも許してはくれるだろうか」




