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不法占領下の日々  作者:
第一章:占領開始
9/20

不幸少年


 春馬は、いわゆる幸の薄い少年である。

 今年で十七年の人生の中でも、色々なことに巻き込まれてきたし、そしてこれからも巻き込まれ続けるのは容易に想像できる。

 何かにつけて舞い込んでくる面倒事をさばくことには、不本意ながら結構慣れてしまっている春馬ではある。

 これまでで一番面倒事を抱えてやってきたのは他でもない幼馴染の飛沫であり。

 少なくない数で、隼人からの面倒事もさばいたことがある。

 他にも、クラスメイトからご近所の人々まで、縦横無尽の面倒事の数々であった。

 が、しかしだ。



 今回のは、ぶっちぎりで春馬の面倒事ランキング第一位決定である。




「不幸だ…」


 春馬は肩を落とす。それはそれはもう、哀愁が漂う雰囲気で。

 それもこれも、全て目の前で朗らかに笑う少女が原因だ。



「どうやらご理解いただけたようですね」


「…理解した…理解したけど……出来れば理解したくなかった」



 要点を簡潔に述べるとするならば、春馬は追い詰められている。

 押し込み強盗風に家に侵入してきた少女は、我儘千万な理屈を述べ、自分の”女子高生”という武器を最大限に活用して春馬の退路を完全に塞ぎ、さらにはエアガンという物理的な武器を使って、春馬を脅迫している。

 例えここで春馬がなんとか手錠という拘束を解いて脱出したとしても、揚羽は何らかの手段を使って、春馬の退路を塞ぐのだろう。

 下手をすれば、揚羽本人が言ったように、春馬という存在が社会的に抹殺されかねない。

 四面楚歌な気分の春馬である。



「これは…俺が我慢してお前を認めなければならないのか」


「我慢して、とは心外ですね。仮にも女の子が家に泊めてと言ってるのですから、男なら喜ぶべきでしょう」


「何度かそんな漫画は読んだことはあるが、現実で起こるとこんなにも過酷なのか」


 補足しておくが、春馬の読んだ漫画にヒロインが主人公を脅迫する類の漫画はない。

 漫画やら小説では、主人公の家にヒロインが落ちてくるとか、ヒロインが空から落ちてくるとかはザラだが。

 まさか自分の身に起きるとは思ってなかった春馬である。


「改めてもう一度念のために聞いておくけど、本気なのか?」


「本気も本気。本気と書いてマジと読みます」


 またガックリと、春馬の肩が落ちる。


「まぁいいじゃないですか春馬さん。広い家に一人暮らしなのですから、部屋ぐらい余ってるんでしょ? それに、ちゃんと食費とか光熱費は払いますから。金銭的にはノープロブレムですよ」


「いや、問題なのは俺の精神衛生上の問題と、バレた時の俺の社会的な立場なんだが…」


「大丈夫ですよ。同意の上なのですから、警察に捕まったりはしませんって」


「いや、学校で噂にはなると思う」


「その時は、春馬さんが色男ロメオと呼ばれるだけです」


「それは普通に嫌だ」


「ヒューヒューこの色男~。憎いね~」


「腹立つからやめろ」


 こんな会話も、一方は拳銃を向け、一方は手首を手錠で拘束されて、の状態で進められている。


「しかし、他にも問題はあるぞ揚羽」


 ここでふと。春馬は顔を上げる。

 そうだ。こんな大切な問題が残っているのに、それを忘れていたとは。

 もし、揚羽がこの事実を把握していないとしたら、この事実を知れば、春馬の家を乗っ取ることを諦めるかもしれない。

 それほど重要なことであり、春馬にとっては僅かながら希望の湧いてくる問題である。


「他にもあるのですか?」


「あぁ。これは結構デカい問題だぜ」


「それは暴力で解決できる問題ですか?」


「暴力で解決しようとするな」


 何でも武器に頼るのはよくない。


「まぁご近所さんの問題と言えば、そうなんだけど…」


「あぁ…そう言えば、住むとなればいずれバレますからねぇ」


「いや、それもそうなんだけど、他にもあってな」



 そう歯切れ悪く述べる春馬。

 そして、春馬がどう揚羽に説明しようかと思案している――――その時であった。

 直江家の、今二人の居るリビング以外の場所から物音が。

 それは、直江家の二階からの音で、二階の窓から何者かが侵入するような音だった。

 慣れた手つきで窓を開け、スルリと体を窓から滑り込ませる影が一人。

 そのまま床に降りると、辺りをうかがうように眺め、そして階段を下りる。

 


 いち早く気付いたのは、春馬であった。

 階段の板がギシギシと軋む音が、段々と春馬と揚羽の居るリビングに近づいてくる。

 がしかし、春馬はこの人物の存在を知っている。

 直江家の二階から、窓伝いに侵入してくる人間を、春馬は知っている。

 揚羽はまだ気付かない様子の、その背後に。


「実は…」


「実は?」



 ガチャリと。

 リビングのドアが開く。

 それは揚羽の背後のドアであり、春馬からは正面に見えるドアだ。

 瞬間、揚羽は突然の出来事に驚いたように振り向き、春馬は呆れた調子で苦笑した。



「オッス。ハルマ~俺ん家今日親が出かけてるみたいなんだ~何か夕飯食べさせてくれ~~…………………ってアレ?」



 そこには、春馬の幼馴染にして親友。

 江里高校の二大美少年の内の一角であり、春馬のクラスメイトでもある。


 片桐飛沫が立っていた。



「実は…お隣さんが、学校のアイドルなんだよ」


 春馬が、申し訳なさそうに呟いた。

 ポツリと、呟くその声は、小さくともリビングに十分に響き渡る。

 振り向いて絶句する揚羽と、ドアを開けて絶句する飛沫。その二人が向かい合う。

 そしてそのまま、直江家リビングは一旦静寂に包まれた。

 その後。



「ええええぇぇぇぇぇえええええええええッ!!!?? き、聞いてないですよそんな情報ッ!?」



「ええええぇぇぇぇぇえええええええええッ!!!?? ハルマが女の子を連れ込んでるッ!?」



 同時に、二人が絶叫した。

 初対面だと言うのに、見事なハモりだった。



「近所迷惑だから大声だすな。あと飛沫、人聞きの悪いこと言うな。この状況見て、そんなラブコメチックな状況に見えるのかテメェは」


「ハルマが自宅で特殊なプレイに及んでるッ!?」


「あらぬ方向に持っていくなッ!!」


 とりあえず春馬は飛沫の方へ突っ込む。

 そう、片桐飛沫と直江春馬。より正確に言うと片桐家と直江家はお隣さんだ。

 道路に面して、横隣に並べて直江家と片桐家があるような構図である。

 お互いの家との距離は極めて近く、それに加えて、お互いの二階の窓の位置が丁度重なるようになっているので、仮に片桐家から直江家に渡ろうとするなら、直江家が窓にカギをしていない限り、板を一枚渡すだけで比較的簡単に侵入できるようになっている。

 その恵まれた状況(?)を飛沫が利用しないワケもなく、事あるごとに飛沫は春馬の元へ窓伝いにやってくるのである。


 これが揚羽の直江家に住むにあたっての今のところ最大の問題である。

 つまり、すぐバレる。と言うよりも、もうバレた。


「どういうことどういうことッ!? 俺の知らない間にハルマがラブコメパートに突入したとでも言うのかッ!? そんなの俺が許しません!! どういうことか説明してもらおうか!!」


「うるさい落ち着け。ただでさえ混沌としていた状況がお前の加入によってさらにカオスと化したんだぞ」


「その子は誰だーーーー!!!」


「頼むから落ち着いてくれ。そして冷静に俺の今の状態を確認しろ。断じてラブコメ的展開ではないから。どちらかと言うと火曜サスペンス劇場チックな状況だから」


 何故か興奮して地団太を踏みながら喚き散らす飛沫を、春馬は落ち着かせる。

 飛沫が目にしたのは、拳銃を向ける少女と、拳銃を向けられる親友の図であるはずなのだが、飛沫にはラブコメな展開に見えたらしい。


 そこでふと、春馬は揚羽の方を見る。

 そこには、混乱して口を半開きにした様子の揚羽が茫然と立っていた。

 が、しかし、一回深呼吸のような動作を見せたかと思うと、揚羽はおもむろにそばに置いていた三つのキャリーバックのうちの一つに手を伸ばす。

 そして、ファスナーの部分を開けると、その中に手を突っ込んだ。

 瞬間、春馬は嫌な予感と共に、冷たい汗が額を流れる。



 ヌッと。

 揚羽が取り出したのは――――コルトM4カービン。

 現アメリカ軍正式採用アサルトライフルであり、ベトナム戦争に使用されたコルトM16ライフルの短縮版のモデル。

 つまり、本日二丁目の銃。



 そのアサルトライフルを、キャリーバックから抜き取るように取り出した揚羽は。

 その場で、弾倉マガジンを本体に叩き込み、チャージリングハンドルを引く。

 ジャキン!!という金属音を立てると、グリップを握り、ストックを肩に押し当てるように構える。

 銃口は、迷わず目の前に居る飛沫へと向けられた。



「とりあえず、制圧します」



「飛沫逃げろ!!」



「えぇッ!? 何かよく分からんけどピンチッ!?」





 シュカカカカカカ!! と、続けて発砲音が鳴り響く。







色々とめんどうなことになってきましたね~

ついでに画像をどうぞ

挿絵(By みてみん)

コルトM4カービンです



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