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不法占領下の日々  作者:
第一章:占領開始
12/20

父親登場…兵器を携えて


「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!」



 揚羽が恐慌状態へ陥り、直江家リビングを走り回る。

 アワアワと慌て混乱している様子で、M4カービンの銃口をこっちへやったりあっちへやったりして右往左往していた。


「どうしようお父さんが来るって、どうしようどうしようどうすればいいの!?」


「よく分からんけど、落ち着けって揚羽」


 見かねた春馬が声をかける。

 春馬自身も事態がよく分かっていなくて混乱しているのだが、揚羽の混乱度は著しい。とりあえず揚羽を落ち着かせないと、話が進められない状態なのだ。


「落ち着け? 落ち着けですってコンチクショウ!! これが落ち着いていられるかってんだべらぼうめ!!」


「落ち着け、キャラが滅茶苦茶になってるぞ」


「ど、どうしましょう!? とりあえず逃げましょうか!?」


「逃げるって何処へだ」


 淡々と、そして冷やかに隼人が述べる。爆弾を放った本人は至って冷静であった。


「ここで逃げようが、他にお前が行けるような場所など無いだろう。他の場所はすでにお前の父親によってあらかた連絡が行ってるだろうし、ココを出た処でお前はいづれ、叔父に捕捉される」


「隼人兄ぃは余計なことをぉぉおお!!」


「ふん。俺の友人を巻き込んでおいて、無事に済まそうとは片腹痛い。せっかくの機会だから、お前に父親へ直接意見を言う機会を与えてやっただけだ」


 隼人が表情の変化が乏しいまま、鼻で笑う。


「どうせ、俺が今回の計画を阻止しようと、お前は第二、第三の計画を練るだろうしな。今回は俺の友人の家だったからよかったのものの、次はそうはいくまい。だから、この機会にお前と叔父とで話し合え」


「話し合うって…」


「お前が家を出ようが出まいがどっちでも構わんが、他人に迷惑になるような事にならないよう話し合え。…と言うことだ」


 揚羽がムゥ…と唸りながらも口を噤む。

 そして、隼人はなんだか置いてきぼりにされている春馬の方を向く。


「というわけだから、少しの間この家を貸してやってくれないか」


「家を貸すって…俺は構わないけど、大丈夫なのか?」


 春馬の疑問は、いろいろな意味が込められている。

 親ばかな父親が自分に矛先を向けないか。とか、揚羽の父親は銃器を所持してないか。とか。


「心配せずとも、相手は社会人だ。他人の家で暴れたりはせんだろう。寧ろ、揚羽コイツの家で話し合ったら目も当てられんような状態になる。他人である春馬の家の方が冷静に話し合えると思うのでな」


 隼人は冷静に春馬を説得する。

 こんな事態になって春馬には申し訳ないのだが、丁度良い機会であることは確かなのだ。

 従妹である隼人も、早々にこの問題を解決していただけると助かるのである。


「済まんな春馬。いずれ埋め合わせはする」


「まぁ俺は慣れてるけどさ…」


 う~ん…と顔を顰めて唸る春馬に隼人は怪訝な顔をする。

 いつもの春馬ならば、比較的アッサリと承諾すると予想していたのだが、今回は少し違うようだ。

 「どうした? 何かまずかったか?」と隼人は尋ねる。


「いや…なんか嫌な予感が…」



 春馬がボソリと呟いた時。直江家の正面の道路から、車が急停車するような、キキーーッ! という激しい摩擦音が響く。

 四人がその音源の方へ自然と視線をやる。同時に揚羽が「ゲ…」と顔色を青く染めながらダラダラと滝のように汗を流し始める。

 続いて、正面の道路からバタンとドアを閉める音がすると、数人の焦ったように走ってくる足音が近づいてきて、直江家の玄関までやってきた。


「どうやら来たようだな」


 隼人がの呟きに揚羽は更に顔色を悪くした。


「は、早くないですか!?」


「近くまで来ていたんだろう」


 直ぐに玄関先まで到達したらしき足音は、そこで暫く何やらギャーギャー騒ぐ。男の声だ。

 隼人が来たことでリビングのドアは開けっ放しになっており、そこから玄関が直接見えるため、四人の視線は自然と玄関のドアへと注がれていた。

 四人が暫く無言で成り行きを見守っていると、唐突に、ドアが勢いよく開けられる。ドアを破壊せんばかりの勢いで。





「揚羽ちゃん!! ここに居るのか!!」



 バタン!!と勢いよくドアが開けられると同時に、野太い重低音の声が直江家を駆け抜ける。

 咆哮に近いその声の主は、質のよさそうな黒いスーツに同じく上質そうな同色のズボン。これまたシックで上品なネクタイを締めた外観の中年男性。

 しかし、服装は素晴らしく上質で上品にも拘らず、その男性からは何故かスマートな印象は伝わってこない。

 なぜなら男性は、上質そうなスーツの下には、パッと一目見ただけでも分かるような山のような肉体が詰まっているから。

 上品なスーツでは隠し切れない筋骨隆々な肉体の大男。まるで、プロレスラーを無理矢理高いスーツでパッケージ包装したような。

 不釣り合い極まりない大男が、玄関に仁王立ちしていた。


「お、お父さん」


 その大男は、悲鳴を上げそうになっている揚羽を見つけ、バッチリ目線を合わせる。

 そして、その存在を確認すると、何故かおもむろに自分の背後に居る黒服の男達に手を伸ばす。

 何かを催促するような短いやり取りの後、その大男は再び咆哮する。



「揚羽ちゃんを誑かしたって奴はどこのどいつだぁぁぁぁあああ!!!」




 あれ?

 何か盛大な勘違いをされてませんか?



 と、春馬が疑問符を浮かべる前に、大男は動く。

 大男の背後に控える黒服の男達が、大男に何かを手渡す。いや、手渡すというには些かその物体は巨大であった。

 ヌッと玄関からリビングに向けて、大男が取り出した物体は全長一メートル程もあり、無骨な外観は重厚な金属で構成されて、いかにも重そうなそれを大男はスリングで肩から掛け、両手で腰だめに保持している。

 一見して、大型のチェーンソーのように見えなくもないそれは、しかし、チェーンソーでは刃の付くであろう部分に六本の銃身が束になって取り付けられている。


 

 その物体の名はM134。通称ミニガン。




「「「「―――――ッ!!!?」」」」



 直江家リビングに居る四人の顔色が一瞬で変わる。



「「伏せろッ!!」」



 春馬と隼人が、ハリウッド映画顔負けの叫び声を上げる。

 隼人は手近に居た飛沫を巻き込んで横っ飛びに倒れこむと、冷蔵庫を遮蔽物に飛沫共々飛び込む。

 そして、M4カービンを未だ持ったままだった揚羽は一人で跳躍すると少し離れた場所にあるソファの影に飛び込む。

 唯一未だにイスに手錠で拘束されたままの春馬(解放されるタイミングを逃しそのまま)は、勢いをつけて上半身の力だけでイスを倒す。

 両手を拘束されたままなので床に強かに半身を打ち付けるが、痛がる暇もなくイスの尻の部分をリビングに向けて即席の遮蔽物とする。



 全員が必死の思いで身を隠すのと、大男が引き金を引くのは、同時だった。

 大男がミニガンの引き金を引くと同時に、不気味な機械音が唸りを上げる。

 ブオオオオオオオオオオオオ!!! という、およそ銃器の発する音とは思えないようなモーター音と共に六本束になった銃身がものすごい勢いで回転を始め、銃身からすさまじい連射速度でBB弾を発射する。



「うおぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!?」



 主な標的は、リビングのど真ん中に取り残された春馬となった。

 リビングの床に一人横倒れの状態で居る春馬のイスの尻の部分に、容赦なくミニガンから発射されたBB弾が命中し、炸裂し、飛び跳ねる。

 一応、実銃ではなくこちらもエアガンであったことを喜ぶ暇もなく、発射されたBB弾が荒れ狂う嵐の如くリビングに襲い掛かり、そこかしこで跳弾すると四方八方に縦横無尽に暴れまわった。


「痛ででででででででででで!!!」


 主な被弾者は春馬である。

 素早く遮蔽物に身を隠した三人には全く被害を出さないまま、跳弾やら何やらで荒れ狂うリビングのど真ん中の春馬には情け容赦なくBB弾がブチ当たる。

 


 さて、ここでミニガンの解説。

 ただ単にミニガンという単語の響きだけを聞けば、銃器に詳しくない人ならば手のひらサイズの小さくコンパクトな銃を想像してしまう人も居るだろう。

 しかし、実際のミニガンはそんな生易しいものではない。

 毎分二千から四千発もの弾丸を撃ちだすことの出来る、機関銃にはありえない連射速度を持った武器だ。

 この場合、武器というよりももはや兵器と呼んで良い部類であり、生身に被弾すれば痛みを感じる前に消し飛ぶことから『無痛ガン』とも呼ばれる最悪の殺戮兵器である。


 馴染みのない人はガトリング砲、と言えば何となくどんなものか想像できるだろう。





「おおおおおおおお!! 誰かなんとかしろぉぉぉぉおおお!!」


 耳元でBB弾がはじけ飛ぶ音を聞きながら、春馬は悲鳴とも雄叫びとも取れない叫び声をあげる。

 心の中では、先ほどの会話がすべて嘘となった隼人への呪いの言葉で一杯である。


「どこが社会人は暴れないだ!! ガトリング砲乱射してんだろうが!!」


「誰がこんな事態予測できるか!! こっちも想定外だ!!」


 銃撃の真ん中に晒される春馬と冷蔵庫に身を隠す隼人が大声で言い合う。

 いつもは冷静な隼人も流石に顔の筋肉を引き攣らせている。横に居る飛沫は錯乱状態である。

 隼人自身、流石に有名企業の社長という社会的に地位のある揚羽の父親が暴力沙汰を起こすような真似はしないだろうと高をくくっていた。

 一応、親子共々サバイバルゲームを趣味にしていることも知っていたが、まさかこうなるとは、である。

 隼人の予想の遥か上空を行く宇佐見親子だった。


「揚羽! どこにいる!?」


「はいはい春馬さん、コッチですよ」


 離れたソファの影から、揚羽が手を振る。

 そのまま床を匍匐前進ほふくぜんしんで春馬の近くまでやってきた。傍らにはM4カービンを携えている。


「アレがお前の父親か?」


「恥ずかしながら、我が父です」


 春馬と揚羽がチラリと玄関を伺うと、その間をBB弾が掠める。

 玄関の方では揚羽の父親が、そばに居る黒服の男達に弾倉マガジンの交換などしてもらっている。まだまだ撃つつもりらしい。


「止めろ。今すぐ止めろ」


「相当頭に血が上っているようですし、止まりますかねぇ…」


 ハァとため息をつきながら床に伏せる揚羽は、BB弾を警戒しながら玄関の方へ叫ぶ。


「お父さん!! 私です!! 揚羽です!! 撃つのを止めてください!!」


 玄関の方では揚羽の父親の傍に控える男達が揚羽の声に反応して、父親に何かを言っているようだった。

 傍に居るのは部下か何かか。しかし、揚羽の父親は止まらない。


「揚羽ちゃんを誑かす奴は地獄へ叩き落とす!!」


 物騒な返答が返ってくる。

 この場合の地獄へ叩き落とされる奴は言うまでもなく春馬である。


「誑かしてない上に、俺は被害者なんですけど」


「ふむ。どうやら勝手に脳内変換されてるようですね」


 何故か冷静に分析する揚羽。


「この混乱に乗じて逃げるのも手ですね」


「そうなったら俺はお前を許さねぇ」


 揚羽がこの場を去れば、後に残るのは混沌カオスのみだ。

 こう言っている間にも、二人の間をBB弾が暴れまわっている。リビングの床は無数のBB弾で埋め尽くされようとしていた。


「一刻も早く誤解を解いてこい。じゃないと俺の家が冗談抜きで破壊される」


「了解しました」


 揚羽はキレの良い返事をすると、傍らのM4カービンを両手で持つ。

 そして、近くで無数のBB弾を受けていた揚羽のキャリーバックに手を突っ込むと、新たに弾倉マガジンを二つ取り出して一つをM4カービンに叩き込み、チャージリングハンドルを引いて弾丸を装填した。


「誤解を解いてきます」


「ちょっと待て!! それは誤解を解くというより戦争をしに行く感じだ!!」


「隊長。俺、この戦争が終わったら結婚するんですよ」


「そして死ぬ感じだ!!」


 よくある戦争映画のセリフを口走りながら、揚羽は玄関に回り込む道を確認して匍匐前進を開始する。


「あそこまで血が上れば、口で言っただけでは無理でしょう。と、言うわけで、一丁あの馬鹿親父を黙らせてきます」


 どこか嬉しそうな揚羽は口元を凶暴に吊り上げて、M4カービンのグリップを握る。

 対する春馬は手首を拘束されながら床に倒され、今なお銃撃の嵐の真っただ中。隼人と飛沫も冷蔵庫の影で動けない。

 つまり、揚羽を止めることが出来る人間はこの場には居なかった。






「ちょ、これ以上俺の家を戦場にするんじゃない!!」



 弾丸の雨が降る中、春馬の叫びは虚しく木霊するのみであった。



 

 





実銃では個人で運用できるミニガンはありませんが、エアガンでは発売されています。

どちらも型破りな登場の仕方をする宇佐見親子でした。


挿絵(By みてみん)

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