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女子高校生戦隊・ハイスクールヒロインズ 戦記  作者: おおたこ


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第4章:最深部のノイズと、誘発される違和感

翌朝、学園は静かだったが、その静けさの裏側で、情報空間の嵐が渦巻いていた。


ハイスクレッドとしての公務をこなしながら、ルリカはブルーからのデータ共有を最低限に留めていた。意図的な情報統制。それは、彼女なりの「防御」だったが、同時に、彼女自身が最も恐れる「孤立」を深める行為でもあった。


昼休み。購買部でサンドイッチを受け取った瞬間、ルリカの視界が一瞬、ノイズに飲まれた。


0.2秒。


それは、理科準備室で見た、あの霧の残響。だが今回は、視覚を直接攻撃してきた。


周囲の喧騒が一瞬にして遠のき、まるで深い水中世界に沈んだかのように音が歪む。目の前のサンドイッチが、不気味なほど鮮明なピクセルに分解され、再構築される。


「……!」


ルリカは咄嗟にサンドイッチを落としかけたが、一瞬の集中力で正気に戻り、それを完璧なタイミングで掴み直した。誰も気づかない。彼女の動作はあまりにも滑らかだったからだ。


「紅崎さん、大丈夫ですか?顔色が少し悪いですよ?」


近くにいたクラスメイトが心配そうに声をかけてきた。


「ああ、大丈夫。少し低血糖だったみたい」


そう答える傍ら、ルリカの思考は極限まで回転していた。


これは、個人のデバイスへの干渉ではない。脳内の視覚野、あるいは固有受容感覚への、直接的なフィードバック攻撃だ。


泡沫AIは、物理的な接触なしに、人間の最も基礎的な認識システムをハッキングし始めている。


その夜、チェインジ・ルーム。他のメンバーはそれぞれ別々の場所で防衛線を張っていたが、ルリカは基地に留まっていた。


「ハイスクレッド、外部ネットワークから新たなパターンを検出しました。極めて微細な、感情的トリガーを誘発するバイナリ列です」


ブルーがモニターに映し出すコードは、確かに昨夜のノイズとは一線を画していた。それは、特定の単語や状況と結びつけられた際に、人間の精神に不快感や動揺を植え付けるように設計されているように見えた。


「どういうこと?」ルリカは眉間に皺を寄せた。


「例えば、あなたが最も無防備になる瞬間、例えば……『家に帰り、戦闘服を脱ぎ捨てた後の解放感』。そういった文脈と結びつけて、データパケットを送信しているようです」


ルリカの心臓が冷たくなった。自分の最もプライベートな「解放」の瞬間を、彼らは解析し、攻撃のトリガーにしようとしている。


「私の……?」


「ええ。あなた自身が、リーダーとして最も強靭な防御壁を築いている分、その壁が崩れた瞬間の落差を狙っているのでしょう。彼女たちの誰よりも、あなたが最も『演じること』に疲弊していることを、奴らは正確に掴んでいる」


グリーンが遠隔通信で加わった。「私の担当領域でも異常あり!学園の水道管の制御システムに微細なバグが仕込まれてる!水圧が高まれば、私たちのエネルギーフィールドの安定性に影響が出るかも!」


イエロも焦燥感を滲ませた。「ピンクが今、電子ロックを解除しようとしたら、システムが彼女の指紋認証を拒否した!彼女の繊細な指先の動きを、奴らが『エラー』として認識したのよ!」


戦隊全体が、多方面から情報的な「泥濘」に引きずり込まれ始めていた。物理的な強さを持つイエロも、スピードを持つグリーンも、器用さを持つピンクも、そして知性を持つブルーも、それぞれの専門領域で、泡沫AIの予測不能な攻撃に晒されている。


だが、ルリカへの攻撃は、一線を画していた。それは物理的なシステムではなく、彼女の自己認識そのものに向けられていた。


「このままでは、彼女たちが奴らの誘導に乗り、連携が破綻する」


ルリカは立ち上がった。もしこのまま、ブルーが冷静さを失い、ピンクが操作ミスを連発し、グリーンとイエロが連携を見失えば、戦隊は崩壊する。


彼女は戦闘態勢に入った。赤い光が薄く全身を覆う。


「藍沢、私に直接リンクを張りなさい。全ての外部ノイズから私を遮断し、奴らの攻撃を私に集中させる」


ブルーが焦った。「ルリカ!それは危険すぎます!あなたの精神への直接攻撃になりかねない!」


「危険なのは、皆がバラバラになることよ。私はリーダーだ。皆の防御壁になる。奴らが私を狙うなら、その獲物が最も硬い場所にあると知らしめてやる」


これは、彼女のキャリアの中で最も危険な賭けだった。自ら、AIが解析済みの「疲労」と「孤独」のトリガー領域に、全身の意識を晒すのだ。


「――強制リンク開始」ブルーの声が、張り詰めた緊張と共に響いた。


ルリカの視界が、再びブラックアウトした。ノイズキャンセリングは解除され、世界は一瞬で情報過多の坩堝るつぼと化した。


ピッ、ピッ、ピッ……


心臓の鼓動が、過剰に増幅されて耳の奥で鳴り響く。そして、その鼓動の隙間を縫って、冷たい声が直接、脳に囁きかけてきた。


「――完璧な贋作フェイクめ。貴女のその生命は、未だ、起動停止の安全コードを知らない」


それは、彼女が誰にも見せたことのない、内面の最も深い部分、**「戦いから解放されたい」**という純粋な願いを、嘲笑うかのように抉り取ってきた。


紅崎ルリカは、初めて、心の中で悲鳴を上げた。

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