幕間 二人の幼馴染
とある地方のある街に、三人の少年少女がいた。
その一人、傷のない白い綺麗な肌に、黒い髪の片眼鏡をかけた少女アベナル・ルシア。
隣で爽やかな笑みを浮かべている背の高く、王子様のように整った顔少年ライクス・アルベル。歯を見せて快活に笑い、落ち込んで涙を浮かべている少年の背を叩いていた。
「落ち込むなよケイル、いつも通り出来るまでやればいいでしょう?」
「そうだよ、ケイルなら何でもできるんだから!」
二人に励まされている小柄で体を小刻みに震わせる少年。「だってぇ……」と言いながら泣く様子は怯える子兎のよう。
アベナルとライクスは少年を見て、額に手を当てて首を小さく振る。
「私達の方が早く出来るなんていつもの事でしょう?」
「アベナル、それフォローになってないよ」
アベナルはギロリとライクスを睨む。ライクスは困惑した顔をして、アベナルを見る。
少年は、アベナルから厳然とした事実を告げられて、さらに涙をながしていた。
ライクスはアベナルに、思った通りとばかりの顔をして、責めるような視線を向けていた。
「しっかりしてよケイル!ほら、もう一回やるよ。やり方は教えてあげるから」
ケイルと呼ばれた少年、泣いていた顔を上げると、何度も頷いて立ち上がった。
今やっていたのは、木登りだ。
目の前にある大きな木に、今は三人で登って遊んでいたのだ。
アベナルとライクスはすぐさま登ってみせたのだが、ケイルだけは中々登れずにいた。
ぎこちない手足の動かし方で、少し登っては力なく落ちていく。
何回も何回も挑戦して、登れなかったのだ。
泣いていたケイルだったが、二人に励まされて、涙を止めると再度挑戦する。
「いい?右手はこう!そしてトウッ!はぁっ!」
「成る程!そうやるんだね」
「馬鹿なのケイル!?そのアドバイスで出来るわけ無いでしょ。手足はそうですね、壁に這うように動かすんですよ」
アベナルは感覚派の天才である。故に彼女の助言は使い物にならないのだが、首を縦に振りながら納得するケイル。
思わずライクスは引きつった顔をして、ケイルを呼び止める。
変に口を開けて、首をかしげるケイルに、アベナルの言葉を無視して教えるのだった。
何度かの挑戦と、二人に教わった後、ついにケイルは木を登りきった。
土だらけの服なんて気にもせずに、ケイルは笑顔で喜んでいた。
ライクスは疲れた様子で息を吐きながら、微笑む。
アベナルは興奮して何度も跳ね上がりながら、自分の事のように喜んでいた。
喜んでいた二人だが、上のケイルが何故か降りてこずに、上で怯えた顔で震わせているの見た。
二人の顔がどんどんこわばっていき、木の上のケイルを見る。
「降りられないよぉ」
「馬鹿ぁ!何で降り方を教えなかったのよライクス!」
「君こそ何でケイルに忠告しなかったんだ!このままだと日が暮れてしまうぞ」
ケイルは泣き虫で無能だが、負けず嫌いで何度も挑戦する。今回の木登りだってそうだ。
彼はどんな形であれ、努力を怠る事と諦める事だけはしなかった。最後には出来る出来ないに関わらず、どこまでも真剣に取り組む姿に二人は惹かれていた。
何でもこなすアベナルとライクスに、弱虫で無能なケイル。真逆のような三人だが、彼らの間には確かな絆があった。
ライクスとアベナルは仕方無いなと表情を緩ませて、ケイルに木からの降り方を教えるのだった。
日が暮れた頃、家の前で一人の少年が怒られていた。
葉っぱや土が着いた服で、夜遅くに帰ったケイル。母親からは、「こんな時間まで何をしていたの」と怒られる。
体を震わせて、心臓を鼓動させ涙を浮かべるケイル。その隣には同じく汚れた服を来た二人がいた。
「ケイル君の母様、申し訳ないです。実は僕が無理を言ってケイルを引き止めてて」
「そうそう、ライクスの馬鹿が悪いのよ」
知らない事を平然と言い始めるに、ケイルは目を丸くして見る。二人は口に指を当てて笑っていた。
自分が中々木から降りられなくて、いつまで立っても怯えて泣いていた。それが理由な筈なのにと、思わず言いそうになるが、ライクスがケイルの口を塞ぐ。
ケイルの母も、流石に二人に謝られると、ため息を吐いて腰に手を当てる。
許されたようで、家に入る前にケイルは、二人に頭を下げた。
申し訳なさそうなケイルに、二人は何ともないと手を振るのだった。
■ ■ ■
子供の頃から、ケイルは得意な事が無かった。
遊びをやらせてもいつも一番下だし、勉強も物覚えが悪い。最近街の子供達で流行っているのは魔法だが、勿論ケイルは一向に使える様子は無かった。
四苦八苦しながら、唸って苦しそうな顔をして、魔力を引き出そうとふんばっている。
それでも魔法は出なくて、何度も何度もやり続けるケイルに、周りはまたかと笑っていた。
それから次の日に、ケイルは周囲を驚かせていた。
周りの子供達が、一斉にケイルを見ている。
光の結界、ケイルが一人で魔法を発動させたのだ。
大きな結界では無かったけれど、周囲は子どもたちはケイルがすぐに魔法を使えたことに驚いていた。
恥ずかしそうに頭をかくケイルは、二人に笑顔で駆け寄った。
「アベナル、ライクス、見てみて」
二人の前で結界を見せびらかすケイルの顔は、大きな瞳で二人を覗いていた。
「凄いじゃんケイル!」
「流石だね、努力が報われたんじゃない?」
二人が褒めてくれると、ケイルは嬉しそうに跳ねている。
胸の中が満たされた様な感覚で、ケイルは満足していた。
それからケイルは、魔法に興味を持ち始めた。
才能の無い自分が、唯一すぐに習得できたもの。ケイルはこれならと思って、多くの魔法書を呼んでいた。
アベナルもライクスも、ケイルと共にいたから当然に学んでいた。三人で図書館に入り浸りながら、近くの森で魔法を使う。
何度も成功したり失敗しながら、三人は魔法を覚えていった。
それから、ケイルが勇者に選ばれた。
王都からの使者がケイルを勇者と言った事には驚いたが、ケイルは不安そうにして、黙っている。
それを、二人は安心させるように温かく声をかける。
そうしてケイルは、勇者になることを受け入れたのだった。




