第五話 勇者パーティー
暗殺未遂から翌日、都市を旅立つ日が来た。城門の前の通りには、大勢の人々が集まっている。
皆が一応に彼率いるアベナル達勇者パーティーへ歓声を送り、高揚した民達が勇者の名を呼ぶ。
都市の中央の道を堂々とアベナル達は進み、周りからは歓声が響き渡っていた。彼は爽やかな笑みで周囲に手を振っている。
希望の象徴である勇者に憧れるものは多い。人気もあり品行方正なケイルは祝福されながら、都市を旅立った。
次の目的地は大陸西南部の中央地域、この地域は既に魔族によって都市が滅んだ地域だが、それでもまだ多くの人がそこにいる。周辺の集落に多くの人々が都市から逃げたのだ。
調べた情報だと、滅んだというよりかは流通が完全に絶たれ、領主が暗殺された。それにより、一帯では外からの物資が足りず、困窮した生活を送る者が大勢いるという。
周囲の都市や国は援軍をよこさず、完全に孤立した人々が今も都市に残っているだけ。彼らも見殺しにしたくて、見殺しにしているわけではない。あの周辺には魔族が多く存在し、下手につつけば全面戦争が始まるのだ。
それが確か十年、私やケイルがあの街で襲撃されたくらいの頃から続いている。
そこで勇者パーティーの出番だ。アベナル達が魔族を撃破すれば、周辺の人々は魔族の脅威から助かるだろう。
長い道のりを四人で歩いていく。目指す場所までは遠い。
放棄された道も多く、落とされた橋や崖を無理やり渡る事もあった。それでも難なくアベナル達は乗り越えてゆく。
■ ■ ■
目的地までの道は険しい道のりだったが、アベナル達は順調に進んでいた。旅立ってから三日、障害という障害も無く、滞りなく進んでいく。
今は断崖絶壁の上を、フィーアの魔法で道を作って渡っていた。下を見れば、風が吹き抜ける巨大な渓谷。
魔法で道があるとはいえ、アベナルは冷や汗をかいて、乾いた笑いをはりつけて前を向いていた。彼を見れば、子供みたいに笑って下の方をよく見ながら、途方もない底を見ていた。
ケイルの方は楽しんでいたが、聖職者ホリーさんは物凄く慎重に渡っては、身震いしていた。青ざめた顔で、一歩一歩を慎重に踏み出している。
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿……何でこんなところを渡るんですか、アホなんですか」
ホリーさんとはあまり話していない。仲間になる時に軽く自己紹介したくらいだが、フィーアやケイルと違って何も知らないといっても良かった。
どうせなら知りたい、アベナルは彼の側に近づくと肩を軽く叩く。あぎゃと、情けない声を出して背筋を伸ばしたホリーは、恐る恐るアベナルを見た。
背の高い彼は私の顔を下を向いて見る、どこか恨めしそうだが、うん。タイミングを間違えたと気づいて、笑いながら頭をかくアベナルを、ホリーは睨みつける。
「ホリーさん、折角仲間になったのですし、互いの事を話しませんか?」
「別に……いいけど……」
人懐っこい顔をしたアベナルに、ホリーは暗い表情で話す。丁度道を渡りきり、何度も何度もホリーは息を吐く。生きた心地がしないと、青ざめた顔をしていた。
アベナルは苦笑しながらも会話を進める。決して強引に聞き込むようなことはしない。
私も強引に深入りされるのは嫌だし、彼と話すのに嫌なことはできないし。さっきのあれはどうなんだと詰められたら、何にも言えないのだが。
「その、ホリーさんっていつから彼の仲間なんですか?」
「最初の方からかな、二年前から。ちょうどその時にフィーアも仲間になってね」
つまるところ三人は最初期からのメンバーだった。勇者の仲間といえば歴史的に多く入れ替わる機会があることで有名だ。歴史上幾人もの勇者がいたが、最初から最後まで同じメンバーだったのは初代勇者だけだ。
魔族と戦い、時には人間とも戦う関係で仲間の入れ替わりは激しい。
最初にあった時から思ったが、アベナルはやはりこの人たちは優秀だなとアベナルは感心する。まだ大陸にこんな人材がいたとは。大抵は国家に所属したりしているものだから見落としていた。
シャドウナイツでは勧誘、記録の為に各国の強者を常に探しているのだが、やはり見落としというものは存在する。
「それで、君はケイルとどんな関係だったの?」
ホリーが自分から口を開いた、アベナルの質問に答え受け身の雰囲気を出していたからか、アベナルは驚いたように目を丸くする。
「幼馴染なんだよ!ケイル君が勇者になる前からのね」
「へぇそしたら君が良くケイルが話していた女の子か。思っていたのとは違ったけど、確かにケイルと相性よさそう」
ホリーの言葉に、彼とアベナルが同時に顔を赤らめた。フィーアはこの男とばかりに顔を強張らせているが、ホリーは何の気なしだ。
「お、おいホリー、そんな事」
「優しくしておいた方が良いんじゃないですか?暫く会ってないですから、もしかしたら心が別に行くかもしれませんよ」
表情は動いていないがホリーはいつもの暗い様子とは違う、どこか晴れたような雰囲気で少し表情も動いた。してやっとばかりに、笑っている。こいつ、さっきのことを忘れていないな。小さく睨みつけるアベナルに、ホリーは気づかない振りをして口笛を吹く。
「いや、その……別に私は彼の事は」
「そ、そうですよホリー。彼女は別に僕なんてそんな」
彼は恥ずかしがりながら必死にアベナルにあれこれ言い出して、さらに墓穴を掘ったりする。アベナルもアベナルで、彼に対してトンチンカンな事を言っていた。どんどん慌てふためいて、動きまわる二人だった。
アベナルは真っ赤に染まった顔で硬直して、そして慌ただしく手をもじもじさせて動いていた。落ち着きのなく、足をジタバタさせている。
二人の様子を見ていたフィーアは、頬を膨らませてホリーに詰め寄り、圧をかけている。ホリーは意地悪な笑いを浮かべて、からかっていた。それに怒ったフィーアが、真っ赤になった顔で彼に圧をかけて、更に収集がつかない事態になる。ホリーはその様子を外から腹に手を当てて、大笑いして見ているのだった。
少しして、ようやく三人は落ち着きを取り戻す。三人の視線は、ホリーへと向けられていた。冷ややかな三人の目つきに、一瞬固まったホリーは情けない笑いを出す。
一斉に三人が飛びかかると、ホリーは叫び声を上げながら逃げ回るのだった。
■ ■ ■
三人で彼を袋叩きにした後、近くの切り株に座っているホリーは、アベナルの処置を受けていた。
包帯を巻かれ、うんざりとしてため息を吐くホリー。彼はさっきまで、癒やしては痛めつけられを繰り返した事で、魔力が尽きていた。
「意外にホリーさんって意外に結構喋るんですね。雰囲気的に怖い人かと思ってたから」
「常に無言ですからね、よく言われますよ」
小さく口角を上げながら、彼は言う。最初は無口で厳しい人かと思っていたが、よく見ればちゃんと表情は動いているのだ。
それからはホリーさんとも打ち解け始め、四人の会話は増えていく。アベナルが加入してからの、ぎこちない空気は完全に消えていた。
そして夜になると、テントを立てて野宿を始めた。安全確保の後、焚き火や寝床を設置していく。
今晩は魔物の警戒の為、交代で見張ることになった。食事を囲んだ後、ホリーと彼が寝床で伏せる。
最初に見張りをするのは私とフィーアさんだ、彼女と一緒にテントの外で立っていた。
二人が寝息を立て始めた頃、フィーアがゆっくりこちらに近づいてきた。
「どう?勇者パーティーは。貴女の組織より良いところかしら?」
「悩ましいですね。あの組織には恩人もいますし、とはいえ同僚がある種の駄目な奴らが多くて困ったりもしてるし。こっちはまだ日が浅いし、選びかねちゃいます」
フィーアはその答えに微笑み、アベナルを優しく見つめた。
二人は魔物が暫くこないので座っていると、フィーアがふと話を始める。
「同じパーティーに入ってくれた同じ女の子だし、君の秘密も知ってるし、私も自分の事話してあげるよ」
「え、いいんですか」
興味津々とした風にアベナルはフィーアに顔を向けて聞く。そんなアベナルに、フィーアは満足したように頷く。
フィーアはゆっくりと、自身の話しを語り始めた。
「今日の西南部への道、私が先頭をよく立ってたでしょ?実は私西南部出身なのよ」
「そうなんですか?そしたらこの道を詳しく知ってるんだ」
フィーアが西南部出身だとは、確かに道中で迷いなく進むから、やたら詳しいなとは思っていたけれど。
「しかも私元貴族なのよ、レース家って言ってね。ある地方を治めてたの」
フィーアの顔はどこか儚げで、優しく微笑みながら語っている。何かにふけるように、時々話を止めながら。
アベナルはある地方と聞いて、まさかとフィーアの顔を見る。フィーアは目を伏せながら、下向いている。
アベナルに向かって彼女はただ笑い、なんとも無いようにして振る舞う。それでも、フィーアの目は悲哀を帯びていた。
「もしかして、フィーアさんの故郷って」
「今から向かう先、廃れた都市ラクネアス。十年前に滅んだ都市だよ」
だから彼女の話す様子は儚げだったのか、アベナルは気まずい事を聞いたと黙ってしまう。
フィーアはそんなアベナルを見て、慌てて首を振った。
「ちょっと暗い話だったわね、忘れて」
「いえ、フィーアさんが故郷が滅んだ時の悲しさは私にも分かるので」
私も故郷が滅ぼされたから、その辛さは知っている。あの時は私も一人ぼっちで、打ちひしがれていた。
私はフィーアさんを抱き寄せると、自分の肩に彼女の頭を置いて、優しく撫でた。アベナルが撫でると、フィーアも目を瞑って受け入れる。
「優しいのね、貴女は。私は故郷を滅ぼされて、正直人に優しくする自信が無いから、貴女のことは尊敬する」
「そうですか?十分フィーアは優しいと思うよ」
複雑そうな表情を浮かべているフィーアは、静かに首を横に振った。
そんなフィーアに気づく事無く、アベナルは見張りを続け、交代の時間になったのだった。
テントの中で寝るアベナル、彼女の頬にフィーアは触れた。そして寝ているかを確かめる。穏やかそうな寝顔で、アベナルは腕を伸ばして寝ている。
反応もない、こっちに顔を向けさせると、幸せそうな顔をしていた。そのほっぺたをフィーアは優しく指腹で押していた。眉を寄せて唸るアベナルを観察する。
そんなアベナルをフィーアは優しく撫でて、自分も布団に潜った。
「優しい、か。そんな事を言われる資格は私には無いのにね」
完全に目を閉じて、意識を闇に委ねていく。いつの間にか二人の寝息が、テントの中に静かに響いていた。
■ ■ ■
「逃げなさい、フィーア!」
「え、どうして?どうしてこうなってるの?」
これはフィーアが幼い頃の話。
フィーアは従者に連れられて、都市の外まで逃げていた。従者に抱きかかえながらも、手は都市へと伸びている。
目の前にあるのは、焼けた都市に魔族達、遠巻きでも分かる魔法が建物を壊している。
対抗している冒険者や騎士の魔法も見えるが、ごく僅かなそれはどんどん少なくなっている。
都市の中でも大きい屋敷に目をやると、魔法が放たれた。それを見ていたフィーアの顔が、青ざめていく。
それは屋敷を破壊し、原型も留めない形になった屋敷が彼女に目に映る。
従者に抱きかかえられながら、フィーアは手を伸ばして、屋敷に手を伸ばそうとする。
「母様!?母様!?」
「お逃げくだだいフィーア様、貴女が今屋敷に戻っても、母君はもう」
フィーアの顔から涙が流れる。もう母様がいない、その事実にただ打ちひしがれていた。
それでも自分だけは生きなければ、そう思ったフィーアは、覚悟を決めて涙を拭う。
逃された者として、レース家の長女として、彼女は逃げた。
幼い彼女には厳しい道のりだったが、何とか崖を越え、橋を魔族にバレないように渡り逃げる。
何とか逃げ切った彼女は、近くの都市にたどり着くまで何とか野草や虫を食べながら生きたのだった。
そしてようやく、近くの都市が見えてきたフィーアは安堵した。疲れ切ったその顔に、笑みがようやく宿る。
「これでやっと」
フィーアにあるものが目に入る。それは都市の軍隊、今まさに外に派遣されている最中だった。
フィーアはパッと顔を明るくして、胸に手を当てて、安堵していた。
もしかしたらまだ生き残ってる故郷の人が助かるかもしれない、そんな期待が湧いた彼女はすぐに困惑した。
兵隊達の向かう方角が違うのだ、自分たちのところではない。瞬きを繰り返し、フィーアの動きが止まる。
わけが分からず、打ちひしがれていると、近くを通った都市の人に保護してもらった。
フィーアは放心状態で一言も喋らずに、ただ無言のまま歩く。
都市の中で、彼女は人々が話す事を耳にした。
「魔族が勇者様を襲ったらしいぞ!!」
勇者の任命式が襲撃された、それの救出の為に軍隊が各地から派遣されているらしい。
それを聞いたフィーアは、だから援軍も来なくて、さっきの軍も助けにこなかったと理解した。自分たち地方の都市なんて、見捨てられたのだ。
その事を理解したフィーアは、涙をにじませて、絶叫したのだった。
■ ■ ■
テントの中で目覚めたフィーアの息は荒かった。
久しぶりに幼い頃の夢を見て、少し疲れた様子だ。
落ち着いて深呼吸すると、再度眠りにつくのだった。
その目に影を落としながら。
これにて第一章は終了です。駆け足でしたが、次からは本格的な戦闘に入っていきます!
これからも双星の守護者を読んでいただけると幸いです!




