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双星の守護者  作者: 天羽
第一章 勇者と共に!
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第四話 束の間の休息

 宵闇としての仕事を終えて大陸西南部に帰ってきたアベナル。帝国での潜入に、大陸南部での魔族討伐等々、アベナルはいくつかの任務を粛々とこなした。

 肩で息をする程疲れていたアベナルは、ベッドに思いっきり倒れ込む。自身の体を包む羽毛で出来た布団に頬を膨らませた。

 顔が、胸が布団に包まれる感覚はとても気持ちいい。布団のぬくもりが、アベナルの心を満足させている。嬉しそうに目をほそめて、小さく寝息を繰り返す。

 癒やされる中、頭の中はアビスへの文句、宵闇メンバーの文句で一杯だった。他のメンバーを思い出す度に、アベナルの眉がムッとよる。

 帝国潜入は私にしか出来ないにしても、魔族討伐や公国の情報奪取にシャドウナイツ所有の鉱山の視察までやらせて。アベナルは組織に多くの不満を抱えていた。

 この三日でわたしはいくつの地方を巡ったと思ってる。そう思える程に、アベナルは仕事が詰め込まれていた。

 大陸で最近流行りの働き方の改革やらなんやらは、宵闇には無いらしい。こんなのブラックだ!そう叫びたくなる環境に、アベナルはずっと悲痛な表情をしている。

 さらに他の宵闇は私に仕事を投げてくるし。頭がおかしいんじゃないか、アベナルは毎度他の宵闇を死んだ目で見つめている。

 『停滞の識者』のアルフレッドは研究で忙しいとか喚いて、『破滅の明剣』のアーライはアルフレッドの助手と言い出す。どうせ助手とばかりの戯れの癖に、最もらしい理由をつけて。二人の様子を浮かべたアベナルは、されに寝顔が険しくなる。

 『飢渇の魔女』のアイル先輩は理不尽だし、『深淵の姫』のアビスは私の事便利屋か何かと勘違いしてる。この二人は特段仕事もしない癖して、態度だけは一丁前なのだ。

 アイル先輩に至っては帝国との敵対を作った原因なのに、あの能天気がとアベナルは歯をギシギシと軋ませる。

 同僚のいい加減さと理不尽には腹が立つよ。嫌な事ばかり浮かんで中々寝付けないアベナルは、深呼吸をして何も考えない。アベナルは植物になるのだと、間の抜けた寝顔を見せている。

 アベナルは布団を抱きしめその居心地に満足しながら寝ていた。小さい寝息を規則正しく流しながら。

 ストレスの事を完全に忘れ、自分ひとりの時間。幸せの時間を謳歌していた。夢にふけりながら、アベナルはゴロゴロとベッドの上を這い回る。

 仕事も無い、あと4日は出立までの猶予がある中で、アベナルはまさに自由。

 今の彼女は翼を得たかのように浮足立っていた。大きなあくびをしながら起き上がったアベナルは、眠い目をこすりながら立ち上がる。

 荷物の中を漁って、アベナルがこれじゃないと雑に床に転がせば、汚い部屋の出来上がりだ。既に足場は限られて、何度も足を痛めて涙目になるアベナルだったが、本を見つけると一転、静かにページを開いた。

 気になった本はつい手を出してしまうので、いつまでも読み終わらない本の山。それが今は読める事に、アベナルは感謝して、本の世界に引き込まれるように没頭していた。

 しおりをはさむと、おもむろに立ち上がったアベナルは、カップとソーサーを取り出す。そこにはちみつとミルクを入れて、ゆっくりと混ぜ込んだ。

 はちみつを入れたミルクを温め飲みながらページをめくるのが彼女の至福だ。喉に甘味を流し込んで、またアベナルは本を読む。

 静かにページを捲る、それを繰り返すとミルクを口に。その繰り返し、ページを捲る音だけが部屋に響く。

 言葉もなく雑音もない。ただカップを置く音だけが鳴るこの時間がアベナルにとって大好きだった。

 アベナルが本を読んでいると、扉がノックされる。部屋の静寂を裂くように、何度も何度もコンコンとなる音。

 静かなこの時間をぶち壊すそれに、アベナルは露骨に顔をしかめながらも、仕方ないので本を置いた。

 腰が重くても何とか立つと、アベナルは扉を開ける。半眼で睨みつけるようにアベナルが、扉の前の人物を待っていた。

 扉の前に立っていたのは金髪の青年。彼の顔が見えた瞬間、アベナルの表情がゆるんだ。目は開いて、落ち着くために息を吐く。

 穏やかな表情にその洗練された立ち振舞に、端正な顔立ちの美青年。柔和な微笑みは周りを落ち着かせるが、周囲を穏やかな心にさせる。

 一つ気になる点があるとすれば、表情と裏腹にその目は欲望がうずまいていることだ。主に、アベナルに対しての下心が。どう見ても彼の視線は、アベナルの胸に向かっている。顔を赤らめて必死にアベナルに目を合わせている彼だが、チラチラとあらぬ方向に視線がいっているのだ。

 彼を見た私が最初に思ったのは、殴らなくて良かっただ。物騒な真似でも無くて、本当に。別に下心丸出しなのに苛立っている訳では無い。ただ、本を呼んでいるのに邪魔したことには、アベナルは多少なりとも苛立ちはあった。

 扉のノックした時点で吹き飛ばそうと思っていたが、彼だったとは。苛つきで問答無用とアベナルは殴るつもりだったのだが、彼なら……仕方あるまい。

 これは運命という奴であり、運命には逆らえないのだ。勝手に自分の中で完結するアベナルだった。

 アベナルは彼の手を掴むと、部屋に入れた。彼は部屋に入ると、苦笑いを浮かべて部屋を見ていた。床に広がる惨状、だらしがないなどよりも酷い有様。

 アベナルは彼を軽い足取りで連れて行く。床の惨状など気にしないで、満面の笑みで彼の手を引くアベナルに、流石の彼も愛想笑いをするのだった。


 「何かあったの?」


 それはシャドウナイツのメンバーが見たら目を疑う様な光景だった。彼に話しかけるアベナルの顔は、いつもの非情な彼女とは違う、恥じらいを浮かべている。

 あのアベナルが顔を赤らめて誰かに媚びるなんて。アビスがいれば、『偽物ね、すぐに始末しなさい』というくらいには、彼女の面影が無かった。

 そんな状況で彼は平然としている。彼もアベナルには好意を向けているのだが、まるで彼女からの好意には無反応の様子だった。ただ自身だけが、目を伏せながらアベナルを見ている。

 多少なりともアベナルの顔が赤くなっているなど変化に気づきそうなものだが、彼は全くそういったものを気にしていないのだ。

 幼少期から大体こんな感じだったから、というのも一つの理由かもしれない。

 彼は物心がついて初めて出来た友達がアベナルだったし、それから常に一緒だったのが彼女だ。

 見慣れた光景なのだろう。アベナルも何かを言う事はなかった。


 「いや、予定を早めなきゃいけなくなって。明日の昼にはここを発つ事になったんだ」

 「え、そんなぁ」


 がっくりした様子で残念がるアベナル。小説をもっと読みたかったのにと、胸の前で両手をモジモジさせている。

 肩を落として俯いているアベナルにケイルは苦笑しながら謝る。


 「実は干害のイフルの行動が活発になったようで、魔族被害が頻発しているんだ」

 「干害のイフル」


 大魔族の一人であるイフルに、彼女は怒りと殺意を募らせてた。よくも私の休みを奪いやがって、まるで尾を踏まれた虎のような怒り。アベナルは笑みを浮かべながらも、全く内心では笑っていない。

 それを内心でとどめながらも、彼には笑顔で振る舞っていた。


 「それなら仕方ないね。準備しておくよ」


 笑顔で対応しているが、内心は魔族に対する殺意で一杯。彼はそんなアベナルにあえて突っ込む事はしない。

 アベナルは微笑みで殺意を隠しているから、余計なことはすまいと彼はただ別の事を話していた。お互いに久方ぶりの再開で、今まで何をしていたのかを話す。

 何気ない会話が続いた。二人は平穏に、途切れることのなく互いに話し合う。

 彼との久々の会話は良くはずんだ。満足そうな表情をアベナルも彼も浮かべている。

 彼は旅の事やあの時からの事を話してくれた。あの日以来、どんな事をしてきたか、分かりやすく簡潔に。それでいて、 とてもワクワクする様な語り口で好奇心が唆られる。

 小説を読んでいるみたいな気持ちにアベナルはなれた。とても話しの上手い、相変わらず彼は変わらないなと思う。

 それに、ケイルはアベナルについて深入りはしなかった。彼女がどうして助かったのか、何をしていたのかなど。

 アベナルは過去の事を聞かれると、バツが悪そうに話を逸らす。そんな様子から察してくれたのか、彼が多くの話題を出してくれた。

 それは正直アベナルにとってはありがたい。彼のそんな気遣いは、昔から気に入っていた。

 実は裏世界で暗躍してましたなんて言いたくは無いから。少なくとも、自身の幼馴染には。

 

 「それじゃ、僕は都市に行くから。アベナルも来る?」

 「私は準備があるからいいかな」


 残念そうな顔をしながらも納得して扉から彼は出ていった。

 ケイルがいなくなると、アベナルはその目から光を消す。普段の情も一切持ち合わせない、宵闇としての顔が浮かんだ。無表情で、アベナルは一切の変化もなく動き出す。

 ケイルは気づいていなかったようだが、今外から視線が注がれていた。それも壁越しにだ。

 透視の類だろう、どこの誰かは知らないがあからさまにケイルを狙っている。

 どこの愚か者か知らないが、運が悪かったと言えた。彼の護衛には、アベナルがいるのだから。

(どうしてこうも愚かなのかしら)

 音も立てずに窓から飛び出たアベナルは、既に黒いフードを深く被っていた。姿を隠し、都市の空へと飛ぶ。

 空中から都市を歩くケイルを見つけると、アベナルはその周りに目を通す。

 高台に三人、歩道に二人。早速発見した。アベナルは空への警戒が足りない素人だと人目で判断する。

 都市の建物の壁を蹴り、アベナルは飛んだ。一気に加速し、距離を詰める。風を切り、音もならない。

 高台の三人は彼に夢中で気づく様子は無かった。自分たちが狙われているともしらずに、狩人気分で見下ろしていた。

 飛んでいるアベナルは風に吹かれるこの瞬間が好きだ。飛ぶと風が吹く、その冷たさと吹かれる体の反応が大好きだった。一瞬の余韻を楽しみ、ナイフを手に持つ。

 魔法を使うと目立つかもしれない、アベナルはナイフを取り出すとそれを三つ投げた。

 風を切りながら進むナイフは彼を狙っている三人に反応もさせない、刺さるその瞬間まで気づかなかった三人は額にナイフが突き刺さり即死だ。

 アベナルが死亡を確認すると、次に歩道の二人に目を向ける。今どこくらいなのか、アベナルは即座に目視する。

 あと十メートルくらいで接触するかどうか、彼に迫っていた暗殺者らは毒のついたナイフを手に持っていた。これで暗殺するつもりなのだろう。

 切れば人間なら即死するレベルの毒だ。暗殺者達は確実に仕留める気で近くにくるのを待っていた。通行人に紛れ込み、一般人として平静を装う。

 今か今かとまち、後もう少しという時、暗殺者たちの手が勝手に動いた。ナイフが、自身の首に迫ったのだ。

 体の制御がきかない、その事に驚き、さらにナイフが徐々に自分に向かっていく。暗殺者達は驚いたのか、目を見開いている。

 死の恐怖に体が動かない事の錯乱、暗殺者達は顔を歪めた。じわじわ迫るナイフに、とうとう彼らの顔が恐怖に染まってきた。

 そのナイフはゆっくりと、ゆっくりと体に迫る。まるで小動物をいたぶるように、趣味の悪い恐怖を感じさせる殺し。

 アベナルは暗殺者達がなるべく苦しむように、死の恐怖に怯えるようにナイフをゆっくり近づかせていた。

 体の制御を奪い、その手を自分に向けさせる。その時が来るまで、アベナルは静かに待った。

 そして彼が彼らを通り過ぎると、もう終わりとばかりにその体を切らせた。


 「人間、ねぇ」


 突然人が倒れたことで人々が騒いでいる。この通りは騒がしくなるだろう。

 野次馬が集まってきたのを好機に、アベナルは静かにその場から離れた。目を細めながら、釈然としない顔をしている。

 やがて部屋に戻ったアベナルは手に顎をおいて考える。先程の暗殺者だ。

 今回のケイル暗殺、実行犯は人間だった。それの意味だ。

 人類の希望たる勇者、それに刺客を放つなどありえないことだ。

 ならなぜ魔族ではなく、人間が暗殺しようと企んでいたのか。何かある筈だ。

 そしてそれを考える程わけがわからなくなる。考え詰める程頭が痛くなり、考えが思いつかない。情報があればすぐに分かるのに、アベナルは眉をひそめて、小さく舌打ちをする。

 そう言えばアビスはやけに護衛を簡単に承諾してくれた。冷静にこの件で分かる事を上げれば、これくらいが違和感だろうか。

 私が彼と縁があったとはいえ、魔族からの護衛なら随所で見張らせれば良い筈。宵闇なんて過剰戦力な筈。それとも、アビスは……アベナルは否定するように首を振って、それを考えるのをやめる。

 とにかく、監視ではなく私を派遣したのは、何か別の問題もあったから。そうに違いない。

 閉じていた目を開く。アベナルはなんとなくこの状況を理解した。顔には恨めしそうな様子を浮かべていた。

 どうやらケイルを狙う不届き者がいるらしい、それを察知したアビスが私をけしかけたのだろうと。アビスが私にこれを伝えなかったのは、実力を信用しての事と、恐らくはあれだ。

 彼女はいつも言っていた。


 【裏の仕事は常に情報収集を怠らないこと。どこの誰が関与しているかはその仕事が終わるまで、終わっても分からない事すらざらよ。だからこそ、常に周りに目を光らせなさい】


 アベナルは自身が彼と再開して、浮かれて任務を怠っていたことを恥じた。自身の本分を忘れていたからだ。

 活を入れるように胸を叩いて、立ち上がり仕事を始める。

 明日の準備は魔法で行えばいい、それよりも今は情報を集めるのが先。すぐにフードを被り、漆黒のローブを身にまとう。

 歩き出すアベナルは、静かに外に出た。

 探知に盗み、隠密は得意分野とばかりに都市に繰り出すのだった。



 ■ ■ ■


 都市の夜、人々が寝静まり暗闇が都市を覆った頃。都市の人々はだれも起きていない。

 一人の魔族が宿の部屋を訪れていた。

 扉を開け、その部屋にいるとある人物と話をするためにやって来ていた。魔族は相手がいることを確認する。


 「暗殺は失敗か、良い護衛がついているね」

 「はい、おそらくは彼女かと」

 「宵闇No.3『未知の新星』か、これはまた厄介な」


 困ったような顔をしながらもどこか余裕な態度。言葉とは裏腹に一切警戒していない。

 軽薄な笑いはその絶対的な力への自信からくるものだった。

 部屋の人物はその態度に少し眉を潜めながらも何も言わない。それは彼女は彼の配下であり、咎める様な真似は出過ぎた真似だからだ。

 大人しく黙っている彼女に、彼は手を横に呆れたように手を横にやる。


 「しばらくは大人しくしておけ。そうすれば約束は守るから」

 「ええ、でも一つ聞きたいわ」

 「何かしら?」

 「貴女は宵闇に勝てるの?」


 それを聞いた男は目を閉じて考え込む。答えは最初から決まっているのに、わざと考え込むふりをしていた。

 結論が出たと、彼はゆっくりと目を開ける。


 「来たのがNo.2『深淵の姫』やNo.1なら勝てないが、所詮人間の組織。ましてやそれ以外の宵闇など自身よりも後の若造、負ける筈もなかろう」


 勝つことが当然とばかりの言葉に彼女はそれ以上は何も言わない、余計であるからだ。それ程にこの魔族は強い。

 これ以上何も無いと彼は部屋を出て都市から去っていた。それを複雑な表情で、彼女は見ていた。

 その魔族の名は、干害のイフル。

 魔王軍最高幹部四天王の一角にして原初の魔族が一人。

 勇者を蝕む刃は徐々に迫っているのだった。

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